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若くして出世する人は、与え上手なことが多いようです。GIVE&TAKEではなく、GIVE&GIVEの場合すらあるくらいに。

そして与えるものは決して実利的なものだけではありません。部下を成長させて、自分も成長する。そのためにやるべきことは、行動心理学から学べます。

人は楽しみがあるから行動する

人がなにかを繰り返すようになるとき、そこには実利だけではない理由があります。

たとえば急激に利用者が拡大しているフリマアプリで考えてみましょう。いらなくなったモノがお金になる、という実利面だけが理由で拡大しているとは考えづらいのではないでしょうか。

もちろん最初のきっかけはそうだったのでしょう。しかし、対価そのものではなく、対価を得るという行為に楽しみを感じた人が、やがてリピーターとなっていく構造があるようです。得た金額そのものよりも、売れた!という瞬間に楽しみを感じるからこそ、出品を繰り返すようになるのです。

考えてみれば、楽しみを感じるから行動するということは、日々の仕事でも同じです。

行動心理学をひも解いてみれば、何らかの行動をとったあとで示されるきっかけのひとつを「好子(こうし)」といいます。「好子」が示される行動は繰り返されるようになるので、求める行動をとったあとにうまく楽しみなどの「好子」を示すことができれば、人は成長しやすくなります。

そして部下や後輩を成長させた人ほど、いち早く出世していくのが現在の出世の構造です。

だとすれば、どのように「好子」を示していくかを学べば、出世しやすくなるということになります。

改善を指示しても改善できる人は少ない

誰でもすぐに示すことができる「好子」として「褒める」ということがあります。

実際に最近一週間で、あなたは誰かを褒めたでしょうか?

いろいろな場面で「最近部下や後輩を褒めましたか?」と尋ねたとき、「はい」と答える人のチームの方が、そうでないチームより結果を残す割合が強いようです。これは統計的に確認できている話ではないのであくまでも感覚値なのですが、リーダーの世代を問わず感じられる傾向です。

たとえばこんな後輩がいるとしましょう。

 カキヌマくんは新卒2年目の営業社員で、会社にも慣れてきた頃です。お客さん先では元気に話して雰囲気を盛り上げてくれています。一方、難しい交渉ごとになると、あなたと先方とが議論している横で、うとうとしてしまうこともあります。そのことを叱ると、元気に謝ってはきます。
 各種資料作成は苦手なようで、同期の営業事務の女性に頼み込んで、自分が作るべき資料も作ってもらっていることがあります。ただ、そのことでもめることはありません。むしろ、事務作業を頼まれている女性もやりがいを感じているようです。ただ営業事務のリーダーはそうは思わないようで、たびたびクレームがつけられます。
 四半期ごとに立てている業績目標は、達成と未達成を繰り返しています。目標そのものが低いわけではないので、未達成になることがあることも理解はできます。とはいえ、最後の最後にもう少し業績を上げよう、という意欲が足りないようにも思えます。

このカキヌマくんに対して、おそらく普通の上司は次のような接し方をするでしょう。

「難しい交渉の時にうとうとしてしまうのは、理解が不十分だからだ。また自分事として捉えられていないからだろう。自社の商品と値段設定についてしっかりと勉強して、明後日までにレポートを提出するように。あと、もし次にうとうとするようだと、営業から外すからな」

「いつまでも資料作成に苦手意識を持っていると成長できないぞ。それに営業事務の彼女にも他にやるべき仕事があるんだ。忙しい時に任せることは必要かもしれないけれど、まず自分でやってみるように。次の資料は必ず自分で作って私に見せるようにな」

「業績が未達でも良い、と甘えているんじゃないか? 歯を食いしばってでもやるべきときがあるんだ。次は必ず達成しろよ! いいな!」

このような対応をする上司は、おそらく自分で学んで仕事ができるようになった人でしょう。かつ、組織の業績や部下の育成についても真摯に考えている人だと思われます。カキヌマくんは、この上司の指示に基づき行動することで、成長する可能性が高まるものと思われます。

ただ、言われたことを好んでやろうとするきっかけにはなっていないようです。だからもしかするとついつい上司に言われたことを守らず、再度怒られることがあるような気もします。

あえて欠点も褒めてみる

では次のタイプはどうでしょう。

「いつも営業先でアイスブレイクをうまくやってくれているね。助かるし、お客さんも楽しんでくれているみたいだ。次は価格交渉もやってみないか? 多分、今の話し方そのままで価格交渉もやれると思うから。なに、詰まることがあれば僕が助け舟を出すよ」

「最近営業事務のスタッフに資料を作ってもらうことが多いようだね。確かに彼女の作る資料はわかりやすくて説明しやすいな。君がうまく説明して依頼できているのかな? ポイントをどう押さえてるの?」

「いまのところ2回に1回は業績を達成できているね。2年目でなかなかそこまではできないよ。この調子で頑張ってくれ。期待しているよ」

これらの指導は、営業に行く、資料をつくる、業績報告をする、というそれぞれの行動に対して前向きな言葉を示しています。褒める、というところまでいえてない場合もありますが、少なくとも後ろ向きなことは話さない。

例えばこのような指導をすることで、それぞれの行動に対する「好子」とすることができます。うまく「好子」にすることができれば、カキヌマくんは営業に行くことや資料をつくること、業績報告をすることに対して嫌なことだとは思わないようになります。

そうしてやがて、自分から行動を改善していくことができるようになるのです。

否定する指導は行動を止めさせる効果を発揮してしまう

行動心理学では、「好子」の反対になる要素を「嫌子(けんし)」といいます。行動のあとに「嫌子」が示されると、人はその行動をとらなくなってゆきます。今回の例でいえば、営業のあとにうたたねを注意されると、うたたねをしなくなるのではなく、営業に行くことが嫌になってしまう、というようなことです。同様に、資料作成が嫌になったり、業績を報告したくなくなったりする、というような影響を生みます。

相手が行っている行動は同じでも、その後に示すのが「好子」なのか「嫌子」なのかによって、その後の人の行動は大きく変わります。そして、正論による指導は実は「嫌子」になることが多いのです。

もちろん、何が何でも褒めればよいというわけではありません。むやみな褒め言葉は「好子」にすらならないのです。重要なことは、繰り返してほしい行動に対してピンポイントで褒めるということ。そのためには、あえて欠点について指摘しないことも必要です。

そんな方法は甘えを助長するだけじゃないか、と思う方もいるでしょう。でも、いくら説教しても変わらない部下に悩まされているのなら、一度試してみてはいかがでしょうか。

平康慶浩
 セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年から現職。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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