不満や難しい要求にも対処 CAさんの冷静会話術
いつでも快適な空の旅をサポートしてくれる客室乗務員(キャビンアテンダント・以下CA)さん。世界中の空を飛び回りながらお仕事を遂行する彼女たちは、知性や品性に加え、健康的な体の持ち主です。
どんなときにも笑顔を絶やさず颯爽(さっそう)と働くCAさんたちに、お仕事や生活で役立つさまざまなノウハウを教えていただく企画、今回は「ピンチを切り抜ける会話術」です。
怒る相手の心を鎮める会話のコツ
取材に協力してくださるのは、日本航空のCAとして23年の乗務歴がある河野佳世(こうのかよ)さん。現在は、機内での指導育成に携わるサービスアドバイザーとしても活躍されています。
CAさんといえば、臨機応変で細やかな気配りによって安全で快適な空の旅を守るプロフェッショナル。想定外のピンチに襲われても、冷静さを保ちながら的確な行動で切り抜ける。そんな頼もしいCAさんに、困ったときの会話のヒントを教えていただきましょう!
あなたは、会社の上司や先輩などから一方的に叱られて、気まずいままやりすごしてしまったことはありませんか。あるいは、受け入れることが難しいリクエストを出されてしまい、事態の収拾に困ったことはありませんか。
怒っている相手に対して同じテンションで向かっていっては火に油を注ぐことになりますし、正論で説き伏せても相手の気持ちを損ねかねません。とはいえ、相手の言い分を丸のみして聞き入れることができない状況もあり、対応に苦しむことになります。こんなピンチのとき、一体どうすればいいのでしょうか。
なぜ不満、なぜ怒っている? 真意をつかむ
これまで、機内で数々のお客様に対応し、時には厳しいご意見を頂戴することもあったそうです。そのようなときにも平和的な解決へと導いてきた河野さんは、「まずは冷静に、怒りの真意を探ることが大切です。相手が怒りの感情に流され、ともすれば矛先が違った状態で怒っている……というケースも考えられます。真意をつかむことができれば、適切な対応を考えやすくなりますよ」と語ります。
例えば「機内サービスがなってない!」とご立腹のお客様がいらっしゃるとしましょう。
一見すると、機内サービスに対してご不満があるように思えます。もちろん、CA側に不備があり、お叱りを受けるべきケースもあるでしょう。しかしもしかすると、お客様が機内に来るまでの過程で仕事上やチェックインの際に何かトラブルがあり、機嫌が悪い状態で機内でのサービスを受けたとしたら、普段なら気にならないことも怒りのきっかけになったという可能性もあります。
「まずは、なぜご気分を害しているのか相手の話を傾聴することです。真摯な態度でしっかりと話を聞いていけば、相手の心が少しずつほぐれてくるはずです。そうするうちに、こちらの事情を理解する余裕が生まれたり、ご自分の状況に気付いたりと、変化が出てくると思いますよ」(河野さん)
尊重しながらも、言いなりになり過ぎない
そのプロセスにおいて、相手に言われるままにむちゃな要求を聞き入れる必要はありません。
「相手の心情に寄り添うのは大切なことです。ただし、その場を収めようとしてむやみに同調したり言いなりになったりするのは、その後の関係のためにもよくありません。きちんと線引きをした上で丁寧に話を聞き、適切な対応を取るべきでしょう」と河野さん。
このとき、たとえむちゃな要求を突き付けられたとしても、ただ「ダメです」と返すだけでは相手の反感を買うことに。相手の心情を尊重した受け答えや、代替案の提示を心掛ける必要があります。
河野さんは、具体例を示しながらこう教えてくれました。
解決策を探すために、相手が欲していることの背景を知る
「相手が欲していることの背景にある気持ちに、まずは寄り添いましょう。例えば、『離れた席に座っているお子さまを、自分の隣のA席に座らせたい』というお客様は、お子様の様子が心配なのかもしれません」と河野さん。ここまで想像力を働かせると、どのような提案をするとよいのかが見えてきます。
「そのようなときには、A席をご用意できない状況だとしても『こちらのB席でよろしければ、お子様と一緒にお座りいただけますよ』など、心情をくんだ提案ができるといいですね。そうすれば、気持ちをくんでもらえたという満足感によって場が収まることもあります」(河野さん)
時間・場所・人を変えてみる
怒りのあまり相手が聞く耳を持たない状態であれば、シチュエーションを変えてみるのもいい。少し時間をおいたり、別の場所で改めて声を掛けてみたりすると、気持ちも落ち着いている可能性もあります。また、周囲の人に状況を説明し、人を変え対応するのもおすすめだと言います。
「時間・場所・人という要素を変えてみれば、相手の様子も変化し、聞き入れてくださることもありますね。自分一人で慌てて解決しようとせず、上司や仲間に相談するなど効果的な方法を考えてみるとよいでしょう」と河野さん。
また、怒ってしまったが最後、振り上げた拳を下ろせなくなっている……というケースも多いものです。「引くに引けない状況で相手が戸惑っているとしたら、拳を下ろしやすくするような配慮をしたいですね。自分が受け止めた怒りは水に流し、何ごともなかったようにこちらからサッと手を差し伸べれば、穏やかな関係性を取り戻しやすいと思いますよ」(河野さん)。
相手の言い分に振り回されるのではなく、視野を広く保ったままで、まずはその真意をつかむ。さらに、相手の気持ちをきちんと尊重した上で、両者にとって適切な着地点を見つける。こうしたCAさんの会話術は、職場はもちろんプライベートでも、あらゆる場面において応用できそうですね。
(ライター 西門和美)
[nikkei WOMAN Online 2017年6月27日付記事を再構成]
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