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日本脱出の指揮者 クラウドファンディングで国内始動 ザルツブルクから東京へ還流の水野蒼生 楽団を旗揚げ

2017/7/1

 「ここは自分のいる場所ではない!」。音楽大学を半年で辞めて日本を飛び出し、モーツァルトの生地ザルツブルク(オーストリア)で勉強をやり直し3年あまり。国内最年少、23歳の指揮者である水野蒼生(みずの・あおい)がいよいよ自身の楽団、「オーケストラアンサンブル東京(OET)」を立ち上げる。7月20日、東京・渋谷の渋谷区文化総合センター大和田・さくらホールで行う結成公演は「自分の同世代とクラシック音楽の距離を縮めたい」との願いをこめて「とことん人間味にあふれた作曲家」のベートーヴェンを特集し、ネット経由のクラウドファンディングで資金を調達する。

 父親が音楽業界にかかわり、大のクラシック音楽ファンだった影響で、小さいころからピアノを習っていた。12歳でヴァイオリンを始め、オーケストラ音楽にのめり込んだ。最初は「ヴァイオリニストになりたい」と思ったが、先生に「この年齢からでは無理」と言われて断念。「オーケストラで自分の音楽を表現できる、もう一つの職業」である指揮者を志した。15歳から高校卒業までの3年あまり、オーケストラアンサンブル金沢(OEK)音楽監督の井上道義が主宰する指揮講習会に通った。水野が組織したオーケストラの名前がOEKを連想させるのは、恩師への感謝の表れかもしれない。

 講習会では、ある音大の指揮科関係者が多く指導に携わっていたのでそのまま受験し、入学した。すぐに「何かが違う」と感じた。周囲が「せめて20歳までは踏ん張れ」と諭しても、気付いた時はドイツの音大を受けていた。最初の入試は失敗だったが、2014年のオーストリア国立ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学への受験には成功。以来、同大で指揮と合唱指揮を専攻しながら、歌劇場や合唱団での実践を積み、16年秋にはブラウナウ・ジンバッハ楽友協会の副指揮者に就いた。

「指揮者は肉体条件にも左右される。体重100キロの人ときゃしゃな僕とでは、オーケストラの鳴り方も違ってくるので色々、工夫がいります」

 「とにかく自分で歌ったり、コレペティトール(指揮者の能力を伴ったオペラの稽古ピアニスト)を務めたりしながら、オペラや合唱音楽の魅力にどんどん引き込まれている」。学生オーケストラを指揮しても「みな、すごく協力的。ノリがよく、大きく膨らむ音楽を奏でてくれる」という。

 日本を離れて痛感したのは、「世界で有数の音楽市場といわれ、あらゆる一流演奏家が来演する東京であっても、若い世代とクラシック音楽の間には厚い壁がある」との実態だ。高校は自由な教育方針で知られる明星学園(東京都三鷹市)だったので在学中、ロックやポップスのライブ活動をしている同級生たちからよく、ヴァイオリンの助っ人を頼まれた。「自分はクラシックだから、即興なんて無理だよ」と言ってもお構いなし。「そのうち即興もできるようになって、今では感謝している」と笑う。ネットの動画投稿サイトでは、水野が東京・吉祥寺あたりのライブハウスで演奏している姿が今でも視聴できる。

 一時帰国した際には高校時代からの蓄積も生かし、「東京ピアノ爆団」と名付けた催しを吉祥寺のカフェで開いた。「J・S・バッハ作曲ブゾーニ編曲の『シャコンヌ』とか、ガチなクラシックのピアノ名曲をそのまま弾くには弾くのだけど、マイクを立て、がんがんPA(音響補助)を効かせての大音量で、100人ほどの客席を圧倒する」という、大胆な企画だった。奇をてらったわけではない。クラシック音楽の入門コンサートの多くが「映画やドラマ、CMなどで使われ、よく知られた作品。もともと短い曲か、『さわり』を切り取った形で提供され、演奏も上辺しかなぞらないから、若くてエネルギーがあり余る連中にはガッツリこない」との批判から出発。正攻法の作品を加工せず、普通の衣装で演奏しつつ「音量だけ、他のジャンルに負けないだけの爆音に増幅させた」のだった。

オーケストラアンサンブル東京の結成記念演奏会のチラシ。アートディレクションも水野自身が手がけた。イラストは(C)ゆの。

 OETの結成記念公演に特段、「爆音」の仕かけはない。曲目はベートーヴェン。ほぼ同時期に作曲した「序曲『レオノーレ』第1番」「ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重協奏曲」「交響曲第3番『英雄』」の3曲だ。「僕が大好きなのは、ベートーヴェンの極端な性格。100%泣いて、100%笑って、100%怒る……。ここまで音楽に人間性が顕著に表れた作曲家はいない。若い僕たちOETが古典を真正面からがっちり奏でれば必ず、同世代にも何かが伝わる」と、水野は選曲の背景を語る。編成は約40人で、専門的にいえば、管楽器のパートが基本2人ずつの「2管編成」のサイズ。協奏曲の独奏はヴァイオリンがマキシム・ミシャリュク、チェロが三井静、ピアノが大井駿。いずれも1992~94年生まれで、94年の水野とは同世代。ザルツブルク・モーツァルテウムの留学生仲間だ。

 クラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/view/25879)の目標金額は80万円。7月9日いっぱいで締め切る。「一つには、本来なら足で稼ぐべきところ、自分がヨーロッパにいてスポンサー回りがかなわないので、遠隔操作を試みた。もう一つは、ネット時代の手法を通じて従来のクラシック音楽ファンよりも広い層、とりわけ若い世代にアピールしたいと考えた」

 もちろん、一般のチケットオンライン(イープラス)で購入した前売り券、当日券での入場も可能だ。入場料は一律3千円。モーツァルトのふるさとでのびのびと音楽に浸り、恐れを知らない若者たちが奏でるベートーヴェンのテイスティングとしては、とても良心的な価格設定に思える。

(コンテンツ編集部 池田卓夫)

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