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ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は4月に訪れた青山ブックセンター本店を再び訪ねてみた。毎月定点観測している大手町、八重洲、汐留の3店舗に加えて2~3カ月に1度、同店にも登場してもらうことにしたい。ホリエモンこと堀江貴文氏の『多動力』は、ここでもベストセラーを快走する。そんな中、売り上げを伸ばしていたのは、アパレル業界に焦点を当てたビジネスノンフィクションの一冊だった。

ビジネスモデル崩壊の現場をルポ

その本は杉原淳一、染原睦美『誰がアパレルを殺すのか』(日経BP社)。ビジネス誌「日経ビジネス」の記者2人がアパレル産業衰退の要因を解き明かし、未来へのヒントを探った業界ルポだ。業界といってもアパレル企業だけのルポではない。生地や糸を生産する「川上」から、アパレル企業などの「川中」、そして最終的に消費者と向き合う百貨店、ショッピングセンター(SC)といった「川下」までを取材対象とし、衰退の現場をあぶり出す。ルポならではの臨場感と関係者の肉声が本書を迫力のあるものにしている。

冒頭のルポは、いわゆるバッタ屋の倉庫の光景。段ボール箱が次々運び込まれ、箱を開けると大手アパレルや若者に人気のブランドの衣料品が仕分けられていく。定価で売れず店舗でのセールでも売れ残り、ファミリーセールでもアウトレットモールでも売れ残った商品だ。「アパレルの墓場」と著者たちは表現する。ここから大量の売れ残りを前提に価格設定し、無駄な商品を作りすぎている業界構造が見えてくる。市場規模はこの25年で3分の2に減った。ところが、商品点数は倍増している。「必ずムダな在庫を生む仕組み」がアパレル業界には組み込まれている。そんないびつさが描かれる。

アパレル崩壊とともに沈む百貨店の売り場、中国に生産シフトした結果、力を失ったものづくりの現場、かつてはハウスマヌカンやカリスマ店員と呼ばれ、光を放っていた最前線のショップ販売員の希望が見えない生活労働実態……。印象的なアパレル崩壊の景色をスケッチしては構造的問題点を指摘していく。

変革者、破壊者から見える未来

ただ、新たな胎動もしっかりととらえている。外から参入して瞬く間にアパレルのメーンプレーヤーに成長したネット通販企業や、米国のオンラインSPA(製造小売り)など、新しいビジネスモデルの追求者たちが登場する。業界の内側から改革を進めて売り上げを伸ばす新興セレクトショップのTOKYO BASE、第2のユニクロといわれるストライプ インターナショナルといった企業の動きも活写される。「『アパレル産業に未来はないのか』。そう問われれば、迷わず『NO』と答える」。それが取材者の実感だ。

「ビジネスルポは当店の売れ筋ではないのですが、これはずっとよく売れている」とビジネス書を担当する益子陽介さんは言う。ベストセラーを紹介するビジネス書コーナーの平台、入り口そばの新刊の平台、企業ものの書棚、さらにはファッション誌の並ぶコーナーと4カ所に置いて、いろいろなタイプの来店客から興味を持ってもらう売り方を仕掛けてもいる。

橘玲氏、村上世彰氏の本も上位に

それでは先週のベスト5を見ていこう。

(1)やりたいことがある人は未来食堂に来てください小林せかい著(祥伝社)
(2)多動力堀江貴文著(幻冬舎)
(3)誰がアパレルを殺すのか杉原淳一、染原睦美著(日経BP社)
(4)幸福の「資本」論橘玲著(ダイヤモンド社)
(5)生涯投資家村上世彰著(文芸春秋)

(青山ブックセンター本店、2017年6月19日~6月25日)

1位は4月に訪れたときに紹介した本(「未来食堂創業者の「始める」指南 青山で読者つかむ」)。著者イベントが開かれたため、大きく売れた。2位が『多動力』で、紹介した本は3位だ。4位はベストセラーを連発している橘氏の新著。金融資産、人的資本、社会資本の3つから幸福に生きるためのインフラの設計を提案する。5位は最近再び物言う株主としての活動が目立つ村上氏がその反省と投資哲学を語った本だ。発信力のある著者の本が並ぶランキングになった。

(水柿武志)

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