相続・税金

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不動産購入は相続対策なのか? もめない対策も必要 税理士 内藤 克

2017/6/30

いつまでもタワマン節税が有効とは限らない(横浜のタワーマンション群)
「内藤先生。基本的な話ですが、銀行から借り入れをすると相続対策になるっていうのはどうしてなんですか」
「いえ、借り入れをしただけではだめですよ」
「でもよく相続対策の本には書いてありますよ」
「だって借り入れをしたらお金も手元に入ってきて、前より増えちゃうじゃないですか」
「???」
「借り入れして不動産を購入したら、節税効果が出るということなんですよ」
「ああ、そういうことか!」

 本コラムでもしばしば書いているとおり、相続対策は「(親族が)もめない対策」「納税資金の対策」「節税対策」の3本柱をバランスよく実行しなければなりません。しかしこの3つの柱は相続対策においては相反することが多く、副作用を伴うことも多いのです。

 そのため、それぞれの家庭ごとに「うちは金融資産が少ないから納税資金対策をまず始めなければ……」とか、「うちは相続税はかからなそうだから、分割面で不公平にならないように気を付けなきゃ」など、話し合って優先順位を決めてから取り組まなければなりません。

 それなのに、世間を見渡すと「相続対策イコール節税対策」と思い込んでいる方があまりにも多い気がします。

■不動産評価額と時価には差が

 不動産の相続評価額は一般的に「時価」より低く、有利な金額となっているといわれています。そしてこの時価とは、実は税法で一番難しい概念なのです。

 最近ではお寿司屋さんで「時価」と書いてある札を見ることは少なくなりました。ネット社会になり、商品の比較には値段が重要な要素となるため、世の中全体で曖昧な表示が減ってきたのでしょう。お寿司屋さんの場合、仕入れ値が季節によって異なり、あらかじめ値決めできないことや調理に手間がかかるといったことが時価と書いていた理由だとすると、「時価とは不安定なもの」と考えることができます。

 ものの値段は需要(買い手)と供給(売り手)の力関係で決まります。この点では不動産の時価とは、売れて初めてわかるもの。そのため「今売るとしたらいくら?」という一種の仮定が時価のベースとなっています。

 一方、相続税や贈与税の計算をするときに用いるのが「路線価」や「固定資産税評価額」であることは比較的よく知られています。また、これらが時価(今売るとしたらいくら?)よりも低く、納税者にとっては有利なものだということも同様でしょう。一般に土地の評価に用いられる路線価は時価の80%、建物の評価に用いられる固定資産税評価額は時価の60%くらいといわれています。

 そのため資産は現預金で持っているより、そのお金で不動産を購入したほうが評価額が圧縮でき、相続税対策になるのです。しかしこれは相続「税」対策であって、前述の相続対策の3要素を満たしているとはいえません。

■タワーマンション節税のリスク

 これまでに見てきた流れからすると、不動産を購入して土地・建物の相続税評価額を最大限に圧縮するには、建物比率の大きい不動産が狙い目だとなります。その代表格が超高層マンションである「タワーマンション」なのです。タワーマンションは敷地面積が小さい割に高い建物が立っているため、購入代金に占める建物比率が高いのが特徴です。例えば50階建てタワーマンションの2LDK(80平方メートル)の物件を購入しても、代金のうち土地の割合はタタミ1畳分位にしかなりません(タワマンの節税効果を俗に『タタミ1畳』というのはこの辺からきています)。

 過去には、相続開始直前に2億9300万円で購入したタワーマンションを相続時に5800万円と評価して申告し、その後2億8500万円で売却した例がありました。もしこれが成功していたら資産の圧縮効果は2億3500万円という高額になっていたわけですが、これについてはさすがに国税不服審判所で否認されました(2011年7月1日裁決)。

 それを受けてタワーマンションの固定資産税の評価額について改正がなされましたが、今のところ「同じ棟でも1階上がるごとに約0.26%ずつ税額が高くなり、1階下がるごとに約0.26%ずつ安くなる」など、富裕層にとってはさほど影響のない改正にとどまっています。不動産に関する税制を決めたころには課税する側も、こんなに高いマンションが建築されるとは思ってもいなかったのでしょう。

 ただ、いつまでもタワマン節税が有効とは限りません。富裕層の課税逃れに対する批判が高まれば、「タワマン節税封じ」として固定資産税だけでなく評価額そのものの見直しが行われる可能性もあります。不動産を使った節税にはこうしたリスクがあること、これらは相続税対策であって「もめない対策」には直結しないことを意識しておきましょう。

内藤克
 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行う。趣味はロックギター演奏。

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