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私の履歴書復刻版

書類のごまかしや機械の不調 「ピーンとくる」土光氏 第4代経団連会長 土光敏夫(19)

2017/7/17

 清貧ぶりと無私の姿勢で「メザシの土光さん」と慕われ、1980年代の行政改革の先頭に立った土光敏夫氏(どこう・としお、1896-1988)の「私の履歴書復刻版」。現場好きなことも土光氏の特徴の一つ。機械に不具合があると、故障個所を自ら見つけ出してしまうのだそうです。そんな社長の「特技」を目にした現場の士気は上がっていきました。

■技術導入――欧米へ何回も足運び 数年間にわたり約80件も

 友人からこのような質問を受けた。「土光さんは、ゴマ化し書類を見破る達人と聞いているが、このコツは?」

 別に“コツ”があるわけではない。提出したときの態度やことば遣いでなんとなく、こりゃおかしいぞ、とピーンとくるわけだが、書類を一見して辻つまの合わない部分をすばやく見付け出すのは、得意な部類だろう。設計を長く手がけていると、おかしな部分はすぐわかる。設計は、Aから始めてZに至るまで、一つ一つ、合理的にきちんと積み重ねる。1カ所でもいい加減な部分やゴマ化しはきかない。そういう手続きやプロセスを永年経験しているので、書類点検にも応用できるのである。

 石川島再建にあたって、この私の能力は大いに役立った。提出される稟議(りんぎ)書や計画書を、直ちにチェックして、押し戻す。それが3、4回になる。すると、経費は最初のときの3分の1ぐらいになっている。こうして経費節減がみのり、石川島は、ある財界年鑑に、“日本一のケチ会社”に挙げられる名誉に浴した。

 また、現場へ行って、機械の調子が悪いと、故障個所を見付けるのも早い。じーっと機械音に耳を傾けているうち、これもある種の第六感だが、悪い個所がピーンとわかる。私は先述したように、最初の20年間は技師として、日本全国、機械修理に走り回った。その修理経験が第六感養成に役立ったものと思われる。

石川島重工社長就任時の株主総会

 石川島重工へ来ても、暇さえあれば現場へ顔を出していた。

 あるとき、機械が故障、あらゆる点検をしたが、どうしても故障個所がわからなかった。私は、音を聞いて、すぐに故障個所を指摘した。改めて点検したら私が指摘した通りであった。こうした“事件”があると、現場の信用は厚くなる。生産会社は、現場の者のやる気一つで、かなり左右されるところが大きい。

 私が石川島重工業の社長に就任したのは、昭和25年(1950年)6月24日。その翌日、25日、朝鮮戦争が始まった。不況にあえいでいたわが国の産業界は、これでにわかに息をふき返し、以後、特需ブームにわくわけである。

 私がそのような、景気回復期に、社長を仰せつかったことは、全くの幸運である。石川島の業績は、まさに文字通り目ざましく伸びていった。ちなみに、売上金の数字を挙げておこう。

 25年上期、6億9800万円、動乱後の同下期15億3000万円(2.2倍)、26年上期19億7300万円、同下期25億6400万円、27年上期26億2600万円、同下期30億1900万円。27年下期は、私が社長を引き継いだ25年上期の実に5倍近くにハネ上がっている。

 この数字は、さらにその先へ行くと、つまり5年後の昭和32年(1957年)は、またまたその5倍に躍進する。

 さて、そのような躍進のうらで、石川島が積み重ねた努力としては、第一は技術開発、第二は外国からの技術導入である。

 まず26年、エトナ・ジャパンと製鉄機械で技術提携し、27年、米のフォスターウイラー社と陸舶用ボイラーで提携、高温高圧ボイラーへの道を開き、また米のコーリング社と合弁事業をおこし、建設機械技術を導入して「石川島コーリング」を設立した。さらに米のジョイ社から空圧機の技術を吸収した。

 31年には、GEと航空機用ガスタービン、続いて舶用タービン、陸上タービン補機の導入もはかった。このころの、技術導入件数は約80件にものぼった。私は、これら提携契約、調印のため、何度、欧米へ往復したか、はかり知れない。

 しかし、これらの技術導入に積極的、意欲的であったのは、戦後の技術格差の解消が主な目的ではあったが、それを支えるものとして、日本の技術陣の優秀さがあることは前にも述べた。彼らの技術水準に信頼を置いていたからこそ、導入が可能だったのである。

 この連載は、昭和57年(1982年)1月に日本経済新聞に連載した「私の履歴書」および「私の履歴書 経済人 第20巻」(日本経済新聞出版社)の「土光敏夫」の章を再掲したものです。毎週月曜日と木曜日に更新します。2012年、日経Bizアカデミーで公開した記事を再構成しました。文中には今日では不適切とされる表現や行為の記述などがありますが、作者が故人であり、作品の発表された時代的・社会的背景も考慮して、原文のまま掲載しました。

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