朝食で体内時計リセットのウソ 早寝早起き効果に疑問

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/7/11
ナショナルジオグラフィック日本版

(イラスト:三島由美子)

「早寝早起き朝ごはんで輝く君の未来~睡眠リズムを整えよう!」

文部科学省が推進している「早寝早起き朝ごはん」国民運動のスローガンである。ホームページには運動の主旨が説明されている。一部を抜粋引用する。

「子どもたちが健やかに成長していくためには、適切な運動、調和のとれた食事、十分な休養・睡眠が大切です。(中略)最近の子どもたちを見ると、『よく体を動かし、よく食べ、よく眠る』という成長期の子どもにとって当たり前で必要不可欠な基本的生活習慣が大きく乱れています。こうした基本的生活習慣の乱れが、学習意欲や体力、気力の低下の要因の一つとして指摘されています」

子どもにとって「よく体を動かし、よく食べ、よく眠る」のが大事であることには誰しも異論が無いだろう。ただし、それがナゼ「早寝早起き」でなければならないのかというのは疑問だ。それについては「米学会が若者に寝坊のススメ 眠気に打ち勝つ力(2)」で述べた通りである。

それはさておき、これまでしばしば「早寝早起き朝ごはん」に関する小学生向けの啓発冊子の中で、早起きすれば朝ごはんが美味しく食べられて健康によいだけではなく、「朝ごはん」自体に睡眠リズムの調節効果(早寝早起きを促す効果)もあると解説してあるのを読んで気になっていた。

ネットで検索するとたくさん出てくるが……

「朝ごはん」「体内時計」「リセット」をキーワードにしてインターネットで検索しても、数多くのサイトがヒットし、タイトルだけ読み流すと夜型体質の人でも「朝ごはん」さえ食べれば体内時計が朝型に切り替わり、早寝早起きが楽になるかのように書かれている。

本当に「朝ごはん」にそのようなパワーがあるのだろうか? この問いに対する回答は易しくない。食事は体内時計(生体リズム、概日リズム)に影響するのか、影響するとすれば体内時計のどのような機能を調節するのかという問いは学術的には奥深く難しいテーマで、現在でも侃々諤々(かんかんがくがく)のホットトピックなのである。結論から言えば、手間のかかる実験を行った結果、ヒトでは「朝ごはん」には明確な早寝早起き効果は認められないことが明らかになった。つい最近のことである。

子ども向けに「朝ごはん」の効果を分かりやすく伝えたい気持ちは分かるが、科学的に証明されていないことを活字にして明記するのは如何なものか。いささか大人気ないとは思いつつ、今回取り上げた次第である。

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