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子どもを育てた経験のある方に尋ねると、「そうそう、子どもっておなかがすいていないと大好きなケーキやハンバーグでも残すわよね」「しかもおなかがちょっと満たされると遊びに行っちゃうし」とうなずかれます。私も2人の男児の子育てを経験しましたが、2人とも見事に幼少時からこの食習慣を持っていました。「もったいないから最後まで食べたら?」と小言を言ったら、「これ以上食べたらおなかがパンパンになって苦しいよぉ!」と怒る始末。「そうか、人は本来、おなかがパンパンになることを苦痛だと捉えていたんだな」としみじみ感動したことを覚えています。

ちなみに私はこの食習慣を彼らにキープさせるように心がけているので、長男次男とも青年期に入ってもやせ過ぎず太り過ぎずの健康的な標準体重をキープしています。

現在中年太りで悩んでいる人の多くも、子ども時代は太っていなかったはずです。それが大人になっていく過程で、本来人間に備わっていた太らないための食事習慣が何らかのきっかけで崩れてしまい、じわりじわりと太ってしまったという方が非常に多いのではないでしょうか。

例えば、結婚したために「おなかがすいてなくても、せっかく妻が作ってくれた食事を食べないと悪い」「残すと機嫌が悪くなるから」と、空腹や腹8分目を無視して食べるようになり太ってしまったということもよく耳にします(いわゆる幸せ太り)。また産業医としてよくお目にかかるのが、残業で遅くなったり接待が続いたりで、夜遅くに夕食を食べてすぐに寝てしまうというパターンです。

しかし、その3の「夜寝るまでの2~3時間は何も食べない」も、太らないようにするための非常に重要な習慣です。食べてからすぐ眠ると、最も血糖値が高い状態のときに最も代謝が落ちる睡眠状態となってしまい、食べたものがどんどん脂肪化されていってしまうので注意しましょう。

帰宅が遅くなる場合は「分割食べ」

私は、繁忙期などでどうしても夕食が遅くなってしまうというビジネスパーソンには、まず「帰宅が午後9時以降になると分かった時点で、帰宅前に潔く夕食を食べてしまいましょう」とお伝えしています。多くの方が出前やコンビニや外食店を活用すれば食べ物を調達することは可能でしょう。

どうしても家で食べたいと言われる方には、「分割食べ」をお勧めしています。まず午後7時ぐらいに主食のおにぎりやパンなどを食べておきます。すると血糖値が上がるため、脳にエネルギーが供給されサクサクと仕事が進みます。空腹を我慢してイライラしながら残業しているより、よほどメンタル的にもパフォーマンス的にも効果的です。そして、残業後帰宅してから、糖質と脂肪をできるだけカットした「あっさりした赤グループと緑グループのメニュー」を腹5分目程度まで食べるのです。もう眠るだけなので、腹5分目程度に抑えておいても何の問題もないはずです。

分割食べの例。帰宅後に食べる料理は、たんぱく質と、ビタミン・ミネラル類がとれるあっさりとしたものがお勧め(c)hawk111-123rf(おにぎり)、magone-123rf(サラダ)、yelenayemchuk-123rf(スープ)

「刺し身とホウレン草のおひたしとワカメの味噌汁」とか「ボイルした鶏むね肉やノンオイルツナをのせた野菜サラダ」「たっぷりの葉物野菜やキノコ、豆腐、魚の寄せ鍋」といったメニューなら、糖質や脂肪を極力カットできるので、就寝後に脂肪化する率はぐっと少なくなります。

ちなみにこうしたメニューは、「おなかはそれほどすいてないけれど、夜まで食べる時間が全くとれないため何か食べておきたい」というときの昼食などにもお勧めです。お腹がすいていないときは本来食べないほうがいいのですが、どうしてもの場合は「あっさり赤グループと緑グループ」メニューを食べておくと余計な脂肪化を防ぎやすくなります。

第9回から3回にわたって、ビジネスパーソンと食事を話題に取り上げましたがいかがだったでしょうか?

私がダイエットに励んでいた約20年前も現在も変わることなく、様々なダイエット法が手を変え品を変え、次々と提唱され続けています。世間で提案されているダイエット法は、食事系にしろ運動系にしろ摂取カロリーが消費カロリーを上回るものであれば、ストイックに実践すると効果はそれなりに現れるでしょう。

しかしながら大多数の方が目標の体重までやせれば、ダイエットを中止して元の太りやすい食生活に戻っていきます。安全なダイエットを見極めるためにも第9回「ストレス・疲労に負けない食事 『赤黄緑を1:1:1』」でお伝えしたスタンダードな栄養学知識を身に付け、「太らない人の食べ方」を参考にされることをぜひお勧めします。

【こちら「メンタル産業医」相談室】

第10回「太らない人が実践する『3つの食習慣』

第9回「ストレス・疲労に負けない食事 『赤黄緑を1:1:1』

第8回「連休で疲れを残さないコツ 変化はストレスと考える

第7回「『変化疲れ』が五月病の原因に 注意すべきはこんな人

第6回「過労死は『好きで仕事をしている人』にも起こる

第5回「『過労』はサイレントキラー 体力がある人ほど注意

奥田弘美
 精神科医(精神保健指定医)・産業医・労働衛生コンサルタント。1992年山口大学医学部卒。精神科医および都内20カ所の産業医として働く人を心と身体の両面からサポートする。著書には「何をやっても痩せないのは脳の使い方をまちがえていたから」(扶桑社)、「一流の人は、なぜ眠りが深いのか?」(三笠書房)など多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ、日本人に合ったマインドフルネス瞑想の普及も行っている。

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