「J-45は曲作りとライブの両方でメインに使用しています。『ひまわりの約束』や『鱗(うろこ)』『Girl』など、ベストアルバム『All Time Best ハタモトヒロ』に収められている楽曲の大半もこのギターで作りました。ツアー中などで手元にないときはダブルオー(L-00の愛称)やJ-50(ともにギブソン社)などのギターで曲を作ることもあります。『70億のピース』はギターが2本入っていて、ダブルオーも使っていますが、レコーディングでもJ-45がメインです。

付き合いは10年以上ですが、買った当時より弾けば弾くほど音が良くなる感覚があります。今、相当『いい鳴り』ですよ。ギターは基本、ちょっとずつ良くなっていくものだと思いますが、素材が天然の木だから『良い時期』があると思いますね。買って5年目くらいまでは、自分の音を模索していく中でピックアップのセットアップをいろいろ試したりもしましたが、それが定まって以降はずっといい調子です。

ギターが消耗するんじゃないかという心配は確かにあります。実際、ライブ用と制作用でギターを分ける方もいます。でも、ギターを変えると当然、響きが違ってしまうので、自分のパフォーマンスを自然な形でやる、ベストのパフォーマンスを出すにはこのJ-45が必要なんです。これが一番仲良しというか、しっくりくる。

だから、ツアーの移動などでは細心の注意を払って運ぶよう心がけています。それと、野外の過酷な環境ではやむを得ず使わない判断をすることも。今年5月4日の横浜スタジアムでのライブ(『HATA MOTOHIRO 10th Anniversary LIVE AT YOKOHAMA STADIUM』)は、野外でもまだいい気候だったので使いましたが、炎天下だったり雨が降っている、海辺で潮風が当たるといった、ギターにダメージが大きいと考えたときは使用を避けますね。

僕にとってJ-45はもはや一心同体。音色の良さだけではなく相性なのかなと思います。最初に出合えたのは本当に大きいですし、自分の弾き方と音色のいいバランスを10年かけて作ってきた。同じ年式の同型ギターでも、別のものだったら、きっと違ってくるでしょうね。

だから、『もしこのJ-45がなくなったら』と時々想像してしまいます。事故や盗難に遭ったら本当につらいなと思うし、怖くなって、スペアでもう1本育てたほうがいいのかなと考えたり。でも、同じものがもう1本あっても……と思い返す。結局は、『これがどうにかなってから考えればいいや』というところに落ち着きますね」

「自分の弾き方と音色のいいバランスを10年かけて作ってきた」だけに、「もしこのJ-45がなくなったら」と想像して怖くなることもあるという

いい曲を作るため仕事部屋の机にもこだわる

「この10年、『音楽が楽しい』という気持ちにブレはありません。曲を書き、演奏し、歌う。全てで言えることです。もちろん責任や産みの苦しみもありますが、それも含めて楽しいです。

18歳の頃、プロになると決意してから、音楽以外の道を考えたことはありません。『寝ても覚めても音楽』というのは僕にとって自然なことなんです。とはいえ、始終ギターを触っていればいい曲が生まれるわけではないので、音楽と距離を置く時期をあえてつくることもあります。自然に曲を作りたいと思えるまでのインターバルも必要ですからね。音楽から距離を置くのも音楽のためなんです。

曲作りに関しては、つくりたい『気分』になれる環境づくりがとても大事。モノに執着しない僕でも、そこはこだわります。作業部屋のデスクは、歌詞を書いたりするとても大切な場所なので、『気分』を上げてくれるということにこだわって作ってもらいました。自然の風合いを生かしたムクノキのシンプルなデザインの机で、とても気に入っています」

今年でデビュー10周年。頭の中は四六時中音楽のことでいっぱいなのが自然という秦さんは、これからどんな音楽をリスナーに届けていくのか。

「中から自然に湧いてきたものを、届ける。それに尽きます。仮に先まで計画を立てても、いざ作ってみると、出てきた曲がそれに添わないものだったこともしばしばありますから。

この1年はアニバーサリーでライブもたくさんやって、言葉にならないものがたまっていると思うので、いざ曲にしようとしたらいろいろなものが出てくる気がしてワクワクします。その時どきの音楽の欲求に従いながら、楽しく作り続けたい。苦しい場面もあるけど、音楽は楽しいものである。仕事として10年やってきたからこそ、よりそう思うんですよ」

「この10年、『音楽が楽しい』という気持ちにブレはありません。その時どきの音楽の欲求に従いながら、楽しく作り続けたい」
秦基博
「All Time Best ハタモトヒロ」UMCA-19051 2500円税抜 発売中
 1980年10月11日生まれ。宮崎県出身の横浜育ち。2006年にシングル『シンクロ』でデビュー。「鋼とガラスでできた声」と称される歌声と叙情性豊かなソングライティングで注目を集める一方、多彩なライブ活動を展開。2014年の大ヒット映画『STAND BY ME ドラえもん』主題歌として書き下ろした『ひまわりの約束』が各チャートを席巻。130万ダウンロードを超す大ヒットとなった。デビュー10周年を迎え、2017年5月には地元、横浜スタジアムでワンマンライブを開催。6月14日にはヒット曲が満載のベストアルバム『All Time Best ハタモトヒロ』をリリース。この夏はオフィスオーガスタ所属アーティストによるユニット・福耳が再始動、5年ぶりのリリースとなる新曲の作詞・作曲も手がけた。

(ライター 橘川有子、写真 藤本和史)