死の熱波の脅威 80年後に人類の4分の3が直面

日経ナショナル ジオグラフィック社

2010年8月9日、ロシアの首都モスクワ、クレムリンのそばにあるマネージュ広場。2010年のモスクワは、山火事によって発生した有害なスモッグに覆われていた。この年、ロシア西部の猛暑による死者は5万5000人にのぼった。(PHOTOGRAPH BY IVAN SEKRETAREV, ASSOIATED PRESS)

2003年のヨーロッパ熱波に関する本を執筆したケラー教授は、不意に熱波に襲われるのは、暑くなるのは夏だと思いこんでいるからだという。

人間の体温は37~38℃ほどに保たれており、体温がそれ以上になると、熱がある状態になる。気温が上がった場合、体は汗をかいて体温を下げようとする。

体温が40℃に近づくと、重要な細胞組織が壊れ始める。40℃を超えると、即座に治療を要する非常に危険な状態になる。

温度と湿度を組み合わせた指標である熱指数が40℃に達すると、体を冷やそうとしない限り、体温は徐々に気温に近づいてゆく。

暑さの影響を最も受けやすいのは、子どもや高齢者、とりわけ過度の貧困や社会的に孤立した状況にある人々だ。ケラー教授によると、2003年のヨーロッパ熱波によるフランスでの死者1万5000人のうち、大半は75歳以上の高齢者で、その多くが一人暮らしだったという。

ケラー教授は、「熱波による死者の増加の背景には、格差の拡大がある」と述べている。

南の途上国を襲う熱波

ケラー教授によると、インド、パキスタンなどの途上国では、かつて暑さは大きな問題ではなかった。しかし、気候変動によってその深刻さは増しており、今では身近な問題となっている。(参考記事:「南極が「緑の大陸」に? 温暖化でコケが3倍速で成長」)

近年のインドでは、数千人もの人々が熱波による犠牲になっている。学術誌「Science Advances」に掲載された別の論文によると、インドで100人以上が犠牲になった熱波の数は、1960年から2009年の間で2.5倍に増加した。この論文の共著者であるカリフォルニア大学アーバイン校のスティーブン・デービス教授は、気候変動の影響である可能性が高いとしている。

とはいえ、インドの平均気温はここ50年間で0.5℃しか上昇していない。世界の他の地域と比べれば、ゆるやかな上昇だ。

地表の気温の計測からわかっているのは、地球の温度は産業革命前から1℃上昇していることだ。しかし、地球全体の気温が同じように上がっているわけではない。北極の気温は、平均2.5℃上昇している。米国本土よりも広い北極海の大半で、2016年11月の気温は通常よりなんと20℃も高かった。

熱帯地方では、平均気温が少し上昇しただけでも大きな影響を受けることになる。デービス教授は、特に影響を受けやすいのは、貧困に苦しむ人々だとしており、「シカゴの人々は暑さを避けることができるが、インドの貧しい人々はそういうわけにはいかない」と述べている。

気温の調査から、米国の都市の92%で夏季の気温が1970年に比べて上昇していることがわかっている。米国の気候調査機関クライメート・セントラルがまとめたデータによると、最も大きな影響が現れているのは、テキサス州や、ロッキー山脈とシエラネバダ山脈に挟まれた地域にある都市だ。夏の平均気温は、ウィスコンシン州ミルウォーキーで1.34℃、テキサス州ダラスで1.6℃、ユタ州ソルトレークシティで2.1℃上昇している。

デービス教授は、「これが実際に起きている気候変動だ」という。死者を伴う熱波が年間60回発生しているのも、驚くには値しない。気温の上昇によって、住み慣れた土地を離れて移住する人々も増えている。

「我々は環境に対してあまりに無関心すぎるため、未来の選択肢を失いつつある」。ハワイ大学のモラ氏はそう書いている。「熱波に対する有効な選択肢はもう残されていない。すでに世界中でたくさんの人々が熱波によって命を落としている」

(文 Stephen Leahy、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年6月22日付]

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