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写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。7回目はダイバーシティから成果を生み出すことについて、ゴーン氏が答えます。

成果を生むダイバーシティ

ダイバーシティ自体が成果をもたらすのではない、そのマネジメントが成果をもたらす

Q ダイバーシティから成果が生まれてくるような環境をどのようにして作ればよいでしょうか。どうすれば多様性を前面に出すことができるでしょうか。

とても良い質問だと思います。まず大事な点を申し上げると、ダイバーシティがあること自体が企業に成果をもたらすのではありません。そうでなく、ダイバーシティをマネジメントする方法が企業に成果をもたらすのです。この2つを、多くの人は混同しがちです。

例えば、ある企業が「ダイバーシティは重要だ」と言って、様々な背景や性別の人を雇ったとします。けれども、同じ職場にいても彼ら・彼女らがコミュニケーションをとらずにいれば成果は上がりません。ダイバーシティというものをマネジメントしてこそ成果が上がるのです。

私どものダイバーシティ・マネジメントの事例を説明しましょう。

新車を販売する時、お客さまの66%は女性なのです。つまり、女性が「この車を買うことに決めた」と意思決定をする場合が66%もあるのです。この数値からすると、自動車メーカーも女性中心で組織されていてよいはずです。けれども、現実はそうなっていません。自動車メーカーは男性中心社会です。つまり、男性中心社会で生み出された新製品を、多くの場合は女性が購入しているという構図になっているのです。

女性は、男性と違う見方で車を選びます。例えば「GT-R」という車がありますが、男性は車のフォルムとかエンジンの力強さとかで選ぼうとします。対して、女性は、男性があまり関心を払わないようなところにも目を向けています。例えば、室内空間はどうかとかパネルがおしゃれか、といったことです。

こうした同じ製品に対しても選ぶ時の見方が異なるというのは、統計データとしても出ています。ですから、女性の要求に応えることのできる製品を女性が開発するということであって、決して「社会でダイバーシティが叫ばれているから」といった流行やトレンドに応じたものであってはなりません。自動車メーカーにもっと女性を登用すれば、購買者の大半を占める女性の求めに応じた車作りができる。ビジネスをしていくうえで、理にかなった方法として、女性を登用すると考えなければならないのです。

1つ加えておくと、ダイバーシティ・マネジメントは、女性の登用の仕方の話だけではありません。日産自動車は日本企業ですが、役員には私以外にも、日本国籍でない人達が名を連ねています。それは、会社の国籍を否定するためではありません。経営陣が、会社を常に同じ方向に進めようとしたり、同じような決断を下そうとしたりするのを防ぐためです。これは、世界の自動車市場を考えれば理にかなっています。世界85か国のなかで、中国には2500万台のマーケットがあります。欧州には合計1800万台、アメリカには1700万台があります。日本はというと500万台しかありません。日本企業であるとしても、世界の市場でビジネスをするには、中国、欧州、アメリカの状況を把握できていなければなりません。そうした状況把握においては、その国で過ごし、その国の潮流を経験してきた人の感覚や意見が重要になります。

市場を冷静に分析した結果、女性の積極的登用が必要だと分かった

Q ゴーンさんは、日産自動車で、優秀な女性を活躍させることに積極的と聞きます。組織として、どのように公正・公平に女性の進出を推進しようとしているのでしょうか。また、女性のマインドセットはどうあるべきだと思いますか。

女性の登用をめぐっては、人それぞれに本音として「女性なんて必要ない」「いや、女性は必要だ」と様々な意見があるものです。また、これは当然ながら男性についても言えますが、女性についても若い世代もいれば年齢を重ねた女性もおり、それぞれに対する人々の見方も違ってくるものです。

職場で女性が男性と同様に活躍する。これは企業におけるダイバーシティ、つまり多様性の一側面です。日産自動車は2004年に「ダイバーシティ・ディベロップメント・オフィス」を設立し、ダイバーシティの推進を制度として図ってきました。このダイバーシティの一項目に、「男女の違いを活かす」があります。

まず、私どもは冷静に市場を分析しました。すると、先ほど申し上げたように、売られている車の半分以上を女性が選んでいるという事実が見えてきました。世界全体での自動車需要は2013年で8400万台。その半分としても4200万台は女性により選ばれていることになります。女性の登用が重要かどうかといった議論に入るより前に、まず、このような事実を私どもは理解したのです。

車を買う人はどういう条件で車選びをしているのか。それに対して、私どもはどのように商品の魅力度を高めるか。こうしたことを考えました。そして、女性が重要だということが徐々にわかってきました。私どもは、人材や資源をもっと活かして競争していかなければならない。その時、女性の役割は大きな部分を占めるということが明らかになったのです。

このような経緯で、みんなが「日産自動車に女性は必要だ」との確信を持ちました。では、そう感じた必要性を、どのように形にしていくか。私どもは、主に2つのことを具体的に実行しました。

1つ目は、女性の採用比率のガイドを定めて常にある一定の女性在籍比率を保つようにしています。例えば、私どもが「多くの女性を採用したい」と考えていても、「そんなにいないぞ」となれば、結局のところ男性の比率が高くなってしまいます。そうならないよう、私どもは「新卒採用総数に占める女性採用比率を理系の学生なら約15%とする」といったようなガイドを設けたのです。例えば、男性エンジニアを85人採用するとしたら女性エンジニアを15人は採用するといったガイドです。

2つ目は、後継者育成計画において、「後継者候補のうち最低1人は女性を候補に挙げる」という決まりを設定しました。もし、後継者候補にふさわしい女性が見当たらないということであれば、社内の女性社員を育成教育します。あるいは、外部から候補になる女性を採用します。

この2つの具体的なルールを設定することにより、私どもの会社は大きく変わりました。管理職に占める女性の割合は2004年は1.6%ほどでしたが、現在(2016年4月時点)は9.1%ほどになり、この比率は安定的に拡大しています。

採用や後継者登用の時に女性の比率を一定的に確保するという話をすると、女性を登用するために女性を登用していると思われてしまうかもしれませんね。でも、そうではありません。女性を登用することで、持続可能なかたちで効率性を実現することを私どもは念頭に置いています。トレンドや流行に乗って女性を登用するといったことではなく、機能するしくみを確立し、それが持続できるようにとやっています。

安倍晋三総理大臣も、「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」と公言していますね。これは非常に野心的で、私はできないとも思いましたが、それでも感銘を受けました。意欲的な目標を設定すること自体は良いことだと思います。

では、女性たち自らの活躍に対するマインドセットはどうか。マインドセットも変わってきていると思います。ただし、マインドセットというものは合理的な方法によって変わっていくものでもあります。そもそもどうして意思決定をするポストに女性をもっと置かなければならないか、説明をすれば分かってもらえます。自分自身の感情や意見などと関係なしに、冷静に現実を分析すれば、「女性の登用は必要なのだ」ということが分かるはずです。

※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載

※隔週火曜更新です。次回は7月11日(火)の予定です。

カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座

著者 : 日産財団(監修)、太田正孝・池上重輔(編著)
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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