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転ばぬ先の不動産学

相場に固執していない? 損をしない住まい選びとは 不動産コンサルタント 田中歩

2017/6/28

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 「相場より割安で、値下がりしにくい物件がいい。高いお金を出して買う以上、損はしたくない」。住まいを探している人たちが、こうした思いを強く持つのは当然です。そこで今回は「損をしない住まい選び」のポイントについてお話しします。

■割安な物件の狙い目

 割安な物件とは「相場より安い物件」です。そうした物件の多くは債務処理のための破産管財案件や任意売却案件のほか、買い替えで物件を先行して購入したものの、残りの代金の支払期日までにもともと住んでいた物件が思った価格で売れず、下取り価格で売らざるを得なくなった、というようなケースが想定されます。

 しかし、これらの買い手はほとんどの場合、買い取り後に多少の加工を施して転売する不動産会社で、一般の市場に出回ることはまずありません。なぜなら(1)破産管財案件や任意売却案件の売り主は、引き渡し後に物件の不具合や欠陥を修繕する責任を経済的に負えないため、そのリスクを負える買い主を選ばざるをえない(2)現金で確実に取引できる資金のある買い主で、かつスピーディーな取引に応じることができる買い主が好ましい――などが主な理由です。さらに、こうした物件の情報を入手した仲介業者は、買い取り後に転売する予定の不動産会社に情報を提供すれば転売時にも仲介できることから、一般ユーザーに情報を出さないという面もあります。

 実は割安な物件で現実的なのは、古い建物がある土地なのです。建物の代金がゼロとか、解体費相当を土地代から差し引いているような物件はこれに該当します。もし建物をホームインスペクション(住宅診断)した結果、まだまだ使えるということがわかれば、建物をリノベーションして再生すればよいのです。リノベーションであれば新築を建てるより安くできることが多く、結果的に割安な物件を取得できるのです。

■値下がりしにくい物件とは?

 「割安物件にはこだわらないが、少なくとも値下がりしにくい物件を選びたい」と考える人も多いでしょう。値下がりしにくい物件となると、やはり立地にこだわるべきです。駅周辺の商業・文化施設の集積度、交通費の水準を含む都心部へのアクセスの良さ、駅からの距離、水害の起こりやすさや地盤の揺れやすさなどの災害リスク、治安の良しあしといった周辺環境などがポイントになります。

 今後の人口や世帯数の減少に目を向ければ、すべての地域に上下水道や交通インフラの整備を行き渡らせ、維持しつづけることは不可能です。そうしたことから、居住を誘導する地域とそうでない地域の線引きを進めようという動きがあります。都市再生特別措置法の改正に伴い、2017年3月31日時点で348の地方公共団体が立地適正化計画(居住を誘導する地域とそうでない地域の線引き計画)の策定に着手していますので、チェックしておくとよいでしょう。

 こうした要素が影響し、今後は値上がりしやすい物件、値下がりしにくい物件、下がり続ける物件に色分けされていくと思いますので、予算に制約がある中でも、いくつかの候補の物件の中でこれらの要素を比較検討するとよいと思います。

 期間35年の住宅ローンを組んだ場合、ローン返済が終わる35年後には日本の人口は約9700万人と15年に比べて3000万人減り、高齢者の比率も高まります。住宅需要は確実に減退します。筆者の肌感覚として、不動産価格が平均的に値下がりするなかで、値上がりする、または値下がりしにくい物件は全体の16%程度にとどまるのではないかとみています。

 これは正規分布における標準偏差の考え方で、平均値を50、標準偏差を10に置き換えた偏差値でいえば、偏差値60以上(全体の16%)が値下がりしにくく、偏差値70以上(全体の2.5%程度)が値上がりチャンスあり、偏差値60未満は値下がりする可能性が大きいというイメージです。

■自分にとっての「価値」

 さて、ここまでやや世知辛い話をしてきましたが、住まいを選ぶとき、「割安」「値下がりしにくい」という観点を捨てる必要はないものの、それだけに固執するのはいかがなものかと思うときがあります。

 そもそも「相場」とは何なのでしょう。本来、売買取引というのは、売り手と買い手のそれぞれの価値観のぶつかり合いです。それらの取引事例が積み上がって相場が形成されるわけです。ですから相場はあくまで参考です。一番大切なことは、自分にとってその住まいの「価値」がどれくらいあると感じられるかなのです。

 例えば、3000万円という価格が相場から逸脱していないか、値下がりする可能性はどのくらいあるのかということを意識しながらも、その住まいを自分のものにし、そこで暮らすことによって得られる価値が3000万円という価格に対して見合うのかどうかという観点です。その価値とは、必ずしも金銭的、経済的な価値だけではありません。子育てしていくという喜びだったり、誰にも邪魔されず一人趣味に没頭できる空間を得ることだったりするかもしれません。

 割安感や値下がりしにくいという観点も大事ですが、「そこに暮らすことで得られる自分にとっての価値」に着目し、納得できるのであれば、結果的に損しない住まい選びができると思います。

田中歩 
 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

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