株には果実とリスク 業績や割安感見極め、選別投資を日本株投資のイロハ(上)

トヨタ自動車の株主総会に向かう株主ら(14日、愛知県豊田市)
トヨタ自動車の株主総会に向かう株主ら(14日、愛知県豊田市)

午後7時。筧家では良男が株主総会の招集案内の封書を並べて、何やら思案しています。幸子はスマートフォンで、興味がある株式銘柄の株価を調べています。そこへ会社員の恵が少しぷんぷんした表情で帰ってきました。いったい、何があったのでしょうか。

幸子 お帰り、恵。会社で何かあったの。顔に「話を聞いて」って書いてあるわよ。

 ちょっと聞いてよ、お母さん。来週、うちの会社で株主総会が開かれるんだけど、担当部署は最近、総会対策で残業続きなんだって。同期の男性に「君たちは楽でいいよな」って皮肉を言われたのよ。

良男 今年は6月29日が総会のピークなんだ。お父さんも今、株式を持っている企業の総会に出席すべきか悩んでいる。平日午前の開催がほとんどだから、仕事と重なるんだ。

幸子 最近はインターネットによる議決権投票を認める企業が増えているの。電子投票のシステムを運営しているICJによると、電子投票を採用している企業は、5月末時点で東証1部の半数近くを占めるわ。

 私の金融資産は預金ばかりだけど、株式にも興味があるの。株主になると、いろいろもらえるみたいじゃない。

良男 まず株数に応じた配当を受け取る権利が生まれる。年1~2回程度、権利が確定する日があって、その3営業日前までに株を買っておけば配当を受け取れる。金額は企業の利益を基に経営陣が案を出し、株主総会で決めるのが基本。取締役会でも決められる。株価に対し1年間でどれだけの配当が得られるかを示す予想配当利回りは日本は欧州より低いけれど上昇傾向にある。東証株価指数でみると、10年前の1.6倍の2%強。株主に配当で報いようとする意欲が企業で強まっているんだ。

 株主優待の権利がもらえるとも聞いたわ。楽しそう。

幸子 権利確定日に株式を持っていると、株主優待品が受け取れる銘柄があるの。大和インベスター・リレーションズの調べでは、採用している企業数は3月末時点で約1350で全上場企業の36%。自社の製品やサービス、金券が多いわ。近くにある小売店チェーンやよく使う交通機関、好きなレジャー施設の運営会社の株式を買っておくと、メリットはありそうね。

 株主総会に出ても何かもらえるそうね。

良男 総会に出席した株主に土産を配る企業も多い。日本企業の約4分の3が土産を配っているとの調査結果もある。ただ最近は見直す動きもあって、例えば東レは27日に開く定時株主総会から「来場記念品」の配布をやめるんだ。個人株主の間では「出席できない株主もいる中で、来場者に一律に土産品を配布するのは不公平」との声があるのも事実だよ。

 株主というと、経営に関与するイメージもあるわ。

良男 上場企業の株主になるということは会社の一部を「所有」するともいえる。株主は1取引単位に満たない「単元未満株」など一部の場合を除き、原則として総会で議決権を行使できる。野村証券エクイティ・マーケット・ストラテジストの若生寿一さんは「自分の関心ある企業の株式を保有することで経営の視点に立つことができ、社会との接点を広げられる」と話している。自分が株式を買った企業が成長し利益を増やせば、受け取る配当も増えるんだ。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 良男の妻。ファイナンシャルプランナー資格を持ち、家計について相談業務を手掛ける。 筧良男(かけい・よしお、52=中) 機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。最近、親の相続が気になり始めた。 筧恵(かけい・めぐみ、25) 娘。旅行会社に勤める社会人3年目。自分磨きと"コスパ"にはかなりこだわっている。

 株主総会では個人株主も意見を述べられるのよね。

良男 ただ、実際には個人株主の声はかき消されがちだ。総会の議案の賛否は大株主に左右されやすい。企業法務に詳しい宮野勉弁護士は「持ち株の単位数に応じた議決権を与えられても、少額出資の個人株主が会社の決定を動かすのは難しい」と指摘している。総会でも「ご意見として承ります」との経営陣の答弁をよく聞くよ。

 株式の価格も日々動くのよね。

幸子 満期時に元本と利息が得られる預金に比べ、株式は価格変動のリスクに留意が必要よ。相場全体による要因もあるけれど、基本的には企業の業績見通しを基に株価は上下するの。保有株式の株価が下がれば損切り、つまり損失覚悟の売りも考えなくてはならないわ。

 会社が倒産すると、株式が紙くず同然になるという話も聞くわ。個人投資家は株価の急落を予測できるのかしら。

良男 残念ながら難しい。2008年秋のリーマン・ショックは多くの投資家が予測できず、相場は乱高下した。東日本大震災による原子力発電所事故の賠償問題を抱えた東京電力や、米国の子会社の巨額損失で債務超過に陥った東芝の株価急落も、少なくとも個人株主は予測できなかったんじゃないか。

幸子 株式を持っている企業が解散する際、株主は残った財産の分配を求める権利があるわ。ただ一般的に優先順位は税金の支払いが最優先で、従業員への賃金の支払い、銀行など債権者への返済などと続き、株主への分配は最後になるの。

 株式には「果実」もあるけど、リスクもあるのね。

良男 業績の推移や株価の割安感などを見極め、銘柄を選別することでリスクを少しでも回避する姿勢が必要になる。今は日銀のマイナス金利政策の影響で、預金金利は限りなくゼロに近い。日本株への選別投資は、これから資産を形成する恵の世代にとっても一つの選択肢になるんじゃないかな。

■まず3銘柄、20万~30万円から
ファイナンシャルプランナー 今野隆文さん
日本株は日本人にとって身近で分かりやすい存在で、資産形成上、重要な選択肢といえます。配当収入や株価値上がり益が期待できる一方で、株式市場で業績悪化の見通しが強まれば株価下落のリスクが高まります。人生の余裕資金のうち、仮に株価が半値に下がっても構わない範囲で投資するのが基本です。
日本株は分散投資が基本。まず3銘柄、20万~30万円程度から始めてはどうでしょう。各銘柄の株価や業績などを定期的に確認し、売り時を考えます。慣れれば5銘柄、10銘柄と増やすのもよいでしょう。現状で成長株を狙うなら、純利益が2ケタの増益予想で予想PER(株価収益率)が10倍前後なら割安で、検討対象ではないでしょうか。相場も刻々と変わるので、日経平均株価の動きをとらえて相場観を養うことも大切です。
(聞き手は南毅)

[日本経済新聞夕刊2017年6月21日付]

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