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賠償責任保険は使えない 地震が原因の近隣トラブル

日経マネー

2017/7/18

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日経マネー

 契約はしたものの、細かな内容はよく知らない――。生命保険や損害保険の契約者の中には、こんな人も少なくないだろう。だが、保険は契約条項ひとつで受けられる補償が大きく変わる上、新たなサービスも続々と登場している。本コラムでは、生命保険と損害保険を交互に取り上げ、保険選びの上で知っておきたい知識を解説する。

◇  ◇  ◇

 地震の直後、マンションの一室で排水管の亀裂による水漏れ事故が発生。損害を受けた階下の住人は、上階の区分所有者に損害賠償を求め提訴した──。

注:日本弁護士連合会の「東日本大震災無料法律相談事例集」から引用。2011年3月中旬~12年5月下旬の茨城県全体における集計結果で、震災に関連する上位10項目

 これは、東日本大震災後に実際に起きたトラブルだ。震災で自ら損害を被る一方で、近隣からも損害賠償を求められるとは踏んだり蹴ったり。だが、こうしたトラブルは実は少なくない。

 日本弁護士連合会がまとめた「東日本大震災無料法律相談事例集」には、冒頭の事例に類する相談が「工作物責任・相隣関係(隣り合う土地間の法律的関係)」というカテゴリーで数多く掲載されている。特に茨城県では、相談の4割超がこれに該当した(右表参照)。

 法的根拠となるのが、民法717条の「工作物責任」だ。工作物(瓦や石垣、ブロック塀、ガラス、壁など)の設置または保存の瑕疵(かし=欠陥)で他人に損害を与えたら、占有者(住んでいる人など)あるいは所有者が賠償責任を負うとするもの。瑕疵の有無を問わず、社会通念上要求される注意や予防を講じても損害が防止できない「不可抗力」が認められない限り、地震などで発生したトラブルでも責任が免除されることはない。

 想定をはるかに超える巨大地震でもない限り、近隣に損害を与えた時の賠償責任を免れることは難しいということだろう。

■個人賠償責任保険も対象外

 こうした場合、「個人賠償責任保険が使えるのでは」と思う人もいるだろう。日常生活の上で他人を死傷させたり、モノに損害を与えたりして法律上の賠償責任を負った時、個人賠償責任保険に加入していれば、負担する損害賠償金をカバーできる。しかし、この保険には「地震免責条項」があり、地震が原因の賠償責任は対象外としている。中には、自然災害全般を免責とする保険商品もある。

 冒頭の事例では、加害住宅の所有者が加入していた個人賠償責任総合補償特約の保険金請求に対し、損害保険会社が地震免責条項を理由に支払いを拒否したため、被害者は損保会社も提訴している。

 東京高等裁判所は、強度や規模にかかわらず、地震の発生でその結果が生じたと認められる損害は地震免責条項の対象になると判断し、損保会社の主張を認めた(2012年3月19日判決・確定)。地震免責条項の有効性は過去にも争われたが、無効とする判決が確定したことは現在のところない。

 地震が原因で起きたトラブルで賠償責任を負うことになっても、保険ではカバーはできず、高額の賠償金負担が発生する最悪の事態も起こり得る。回避する手立ては、そのような事故が起こらないようにすることしかない。住宅のメンテナンスを普段から十分に行い、事故を未然に防ぐことだ。

 と同時に、自らが被害者になることも踏まえて地震保険に適切に加入し、修繕資金を確保しておくことも欠かせない。

清水香
 生活設計塾クルー。学生時代から生損保代理店業務に携わり、2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。翌年、生活設計塾クルー取締役に就任。『地震保険はこうして決めなさい』(ダイヤモンド社)など著書多数。財務省「地震保険に関するプロジェクトチーム」委員。

[日経マネー2017年8月号の記事を再構成]

日経マネー 2017年8月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP出版センター
価格 : 730円 (税込み)


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