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「母は出家します」 看護師であり僧侶、治癒への祈り

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NIKKEI STYLE

「私、出家しますから」。東京都内で看護師として働く憂子さんは5年前、2人の息子にこう告げました。

看護師、そして看護教員として十数年、順調に経歴を重ねてきた中、突然の決意でした。ところが、当時20歳と小学3年生の息子たちから返ってきたのは「フーン……」という反応だけ。憂子さんの両親に「出家することにした」と伝えても、やはり「へえー……」と言うだけでした。自分と同じく実家がお寺ではない女性に「出家すると告げたときは親に泣かれた」と聞いていた憂子さんは、家族が誰も驚かなかったのが逆に驚きだったといいます。

看護師として働き続けていく上で、出家した後もこれまでどおりに患者さんに接して支障はないかという心配もありました。「『坊さんは呼んでいない』とか言われるのではないかと。職場とも相談はしましたが、まあとにかくやってみようということになりました」。実際には特に問題はなく、僧侶と知って患者さんのほうからいろいろ話をしてくれることも増えたそうです。

高野山真言宗の僧侶となった玉置妙憂(僧名)さんは、現在も看護師として忙しい日々を送る一方、誰もが避けることのできない「生老病死」と向き合うための精神的な支え手として活動しています。現代人の多くは、がんなど深刻な病気になったり、親が終末期を迎えたときなどに初めて「死」という問題に直面します。現代社会では「死」はタブーとして日常から切り離され、覆い隠されているために「死ぬということが頭では分かっていても、腑(ふ)に落ちていないんですね。親は何となくずっと死なないように思っている若い人も多いんです」。30~40代のうちから、死について学び、考えられる場があればいい。そういう思いから妙憂さんは「養老指南塾」と名づけた勉強会も主宰しています。

タクラマカンの砂漠で見たデジャブ

憂子さんは最初から看護師を目指したのではなく、大学で学んだのは法律でした。ちょうど法学部に在学中のころ、日中共同取材のドキュメンタリー「NHK特集 シルクロード」が放映され、喜多郎さんのテーマ曲とともに大人気になりました。それを見た憂子さんは「自分の前世は中国の修行僧ではないか」と思い込むほどにシルクロードの光景に魅せられ、両親に頼み込んで中国・北京に1年間の語学留学を果たしました。

中国では勉強の合間にあちこちへ放浪の旅に出て、かつて玄奘三蔵が経典を求めてインドに向かったルートの一部も歩きました。タクラマカン砂漠の大地に立ち、あちらこちらから竜巻が上がっている光景を見たときに「ここは来たことがある。やはりそうだったんだ」と、確信に近いデジャブ(既視感)が押し寄せてきたといいます。

その後、西安まで行き、たまたま訪れた青龍寺がなぜかとても気に入って、1週間も滞在しました。しかし留学から戻った後は、法学部を予定通り卒業して弁護士事務所に就職。その後結婚し、出産してからは中国での体験を思い出すことはほとんどありませんでした。

生まれた長男には強いアレルギー症状があり、専門知識に基づいたケアが必要でした。憂子さんは「それなら、息子専属の看護師になろう」と本格的に看護の勉強を始め、長男が6歳のときに看護師の資格を得ました。幸い、長男は小学校に上がるころには体力がつき、アレルギー症状もかなり良くなっていました。憂子さんは「せっかくだから働こうかな」と、看護師として就職。30歳とやや遅めのスタートでした。

看護教員として指導も手がけ、「楽しく仕事を続けていた」という憂子さん。ところが40代の半ば、夫ががんにかかります。いったんは克服したものの、再発。写真家だった夫は、残された時間で仕事の整理をやり遂げたいと考えたのでしょうか、「入院はせずに家にいたい。治療もしない」と強く希望しました。看護師である憂子さんは「医療的にやれることがたくさんあるのは分かっているのに」と葛藤しましたが、夫の希望を受け入れ、最後の半年間は休職して夫の看護に専念しました。

夫をみとった後、一大仕事を終えたという気持ちとともに、すっかり忘れていたタクラマカンの砂漠の光景がよみがえってきたといいます。「何か、やるべきことはひととおりやり終えた、と思えたんですね。ならば本来のやるべきことに戻ろう、という気持ちが強くなりました。それが出家だったのかなと思います」

休職していた職場に戻って上司にまず告げたのは「復職します」ではなく「出家します」という言葉でした。最初は驚いていた上司も、「出家するなら親戚に僧侶がいるので紹介しましょう」と言ってくれて、そのつてで入信したのが高野山真言宗でした。

それまでは仏教の宗派についてもほとんど知らなかったといいますが、学生のときにとても気に入ってしばらくとどまった西安の青龍寺は、まさに真言宗の開祖である弘法大師空海が、真言八祖の一人である師の恵果阿闍梨(けいかあじゃり)から密教を伝授された場所。不思議な縁を感じたといいます。

学生のときにシルクロードを訪れて、自分は修行僧だったのかもという「直感」を得ながらも、そのときに出家しようという発想はなかったのでしょうか。「それは全くなかったですね。若かったし、おしゃれや恋愛にも興味があった。"雑味"がありすぎたんですね。仮に当時、出家していたとしてもきっと挫折していたと思います。時期が至って初めて、物事は成るということだと思います」(妙憂さん)

中国で得た「直感」は、時期が至るのを種子のようにどこかで待っていたのかもしれません。「出家する」と告げた憂子さんを家族が自然に受け止めたのは、時期が至った何かをその姿に感じたからではなかったでしょうか。

医療と祈りが出合う場で働く

2017年6月、東京・銀座に新しいクリニックがオープンしました。名称は「空海記念統合医療クリニック」。西洋医学に加えて漢方や鍼灸(しんきゅう)を取り入れ、がんなどの難病をかかえる患者の通院治療を行います。

名称からわかるように、クリニックの治療方針には真言宗の考え方が取り入れられています。内装は高野山の風景や自然をイメージし、病院らしさを感じさせません。医療スタッフには僧侶も何人かおり、希望者にはヨガや瞑想(めいそう)の指導もあります。妙憂さんは現在、このクリニックの看護師長を務めています。

同クリニックの星野惠津夫院長は、がん研究会有明病院で多くのがん患者を診てきた経験から「病気は自分自身の意識を変えないと治らない」と考えます。それと呼応するような真言密教の「自分自身の中にある仏性を見いだし、自分を変えていく」という思想との出合いが、新しい統合医療の場の誕生につながったといいます。

宗教施設ではないので仏像や法話などはありませんが、僧侶である医療スタッフは毎朝、クリニック内で「おつとめ」を行います。「常に祈られている場である、ということが大切だからです。祈ることによって場のエネルギーが上がるという方もいます」(妙憂さん)

その昔、宗教者は病気平癒の祈祷(きとう)や薬草の調合を行うなど、医療者的な存在でもあったそうです。現代では、医療と宗教は別々の世界のもの。しかし、妙憂さんが僧侶として定期的に開催している「祈りの会」では、病気の治癒に祈りが与える影響や効果について、西洋医学の専門家と僧侶が意見を交わすこともあります。現代の医療と祈り、2つが出合うところが妙憂さんの新たな仕事の場になったことは、決して偶然ではないでしょう。

(秋山知子)

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