2017/6/22

投資道場

――既存金融機関の系列ではない独立系運用会社もありますが、それらはいかがでしょうか。

竹川 本当の意味での独立系は少なくなりましたね。たとえば、セゾン投信も日本郵便とクレディセゾンが株主ですし、ひふみ投信を運営するレオス・キャピタルワークスもISホールディングスが株主になっていますから、厳密な意味での独立系ではないですね。今、独立系は、スパークス・アセット・マネジメントや鎌倉投信、さわかみ投信など少数です。投信の販売方法も、販売会社を通さない「直販」だけではなく、銀行や証券会社を通してネットや窓口などで販売する会社も出てきています。最近ではDCでも運営管理機関に商品を提供しているところもありますしね。昔はまとめて「独立系直販」と呼んでいましたが、その形態はかなり変わってきています。

馬渕 独立系だから良いとか、直販だから良いということはないと思うんです。どのような経営・販売形態であれ、ちゃんとしているところはちゃんとしている、という話ですから。その点で区別して評価するのは意味がなくなってきているかな、という気は私もしますね。

岡本 それがファンドの良しあしにつながるものではないですからね。要は販売会社の意向に左右されず、投信会社が自ら良いと思う商品を出すということです。

竹川 かつては、受益者(投信の保有者)との対話を重視するのは直販の運用会社くらいしかありませんでしたが、良い意味で変わってきている部分はあります。もともと直販の運用会社はお客さんの名簿を持っていますから、投信の決算時に運用報告会を実施したり、相場が大きく変動したときなどに「今後はこういう方針で運用していきますから安心してください」といったメールを直接送ったりすることができました。最近では直販以外の運用会社でも、動画でファンドマネジャーが運用方針について説明したり、運用報告をウェブサイトで行ったり、ブロガーさんとのミーティングを開催したりしています。少しずつではありますが、受益者ともっと対話しないといけないという意識を持つ運用会社も出てきています。

岡本和久さん(左)、大江英樹さん(右)

馬渕 でも、販売会社が間に入っているので、ゆがんでいる部分があります。私は以前、運用会社にも勤務しましたが、「ファンドとしてこういう運用をしたい」ということと、販売の最前線で話していることに乖離(かいり)があるんですよ。運用会社の方針と違うことを営業の現場で話したりしているので、ねじれてしまう。投資家の方は場合によっては怒るので、運用会社としてはつらいところですね。投資家と直接話をすることは良いかもしれませんが、それならば、理想的には買ってもらうところから説明したほうが良いですね。

大江 以前からある直販のひふみ投信やセゾン投信には、投資家の方たちを育てようという感覚がありますよね。同じことを大手がやると、投資家は、「いいよそんなの。もうけてくれたらいいんだから」という考えになりがちです。やっぱり投資家のレベルも上げていかなければいけないと思うんです。

私が昔、野村証券にいたころ……1992、93年ごろですからかなり前ですが、顔の見えるファンドを作ろうと、ファンドマネジャーの最高責任者が、毎年、今の藤野英人さん(レオス・キャピタルワークス社長)のように、全国行脚して投資家と直接対話するということをしたんです。でも結局、「いいよ別に。もうけてくれれば」という白けた感じで、ちっとも人が集まらなかったんです。あの人、話がおもしろくないし、みたいな(笑)。

竹川 投信の作り手である運用会社がどういう会社なのかは、もう少し意識を向けたほうが良いと思います。どこで買うかではなく、やはり作り手、メーカーを見ないと。

岡本 野菜でもなんでも、生産者と消費者の距離が近くなってきています。投信だって同じことなんですよね。「誰が運用しているの?」というところを見ないと。

竹川 ただ、運用担当者を表に出したくないらしくて……。「開示した瞬間に、外資系の会社から引き抜きの誘いが来るからダメだ」と(笑)。それと、物理的に危ないということもあるようです。

岡本 でもねえ、引き抜かれるような人を置いておかないとダメなんじゃないですか? 引き抜かれたらまた引き抜けばいいんですよ。結局、それも運用会社の競争の一部です。それが進めば単なる信託報酬の安売り競争はできなくなる。

竹川 機関投資家や海外投資家向けの情報開示と、個人投資家向けの情報開示には大きな差があります。もう少し個人投資家にも優しくしてほしいなと思いますね。面倒くさいと思われるのかもしれませんが、海外投資家向けの英語版資料には運用体制やファンドマネジャーなどをちゃんと出していることがあるんです。

投信が普及するためのカギは

大江 私はDCの投資教育をずいぶんやりました。その中で、「最後に質問なんですが、その投信を運営している人の電話番号を教えてください。『運用指図』をするのだから、この株を買えとかあの株を売れとか言っていいんですよね」と言ってきた人がいました。今まで私の話の何を聞いていたんですか、と思いましたね(笑)。

岡本 「運用指図」ね。私の友達に、信託報酬というのは自分がもらえるものだと思っていた人がいましたよ。

大江 「目論見書」もふつう悪いことをたくらんでいるときに「もくろみ」という言葉を使うじゃないですか。もう少しふつうの人が理解しやすい言葉を考えたほうが良いように思いますね。

馬渕 学資保険などの「祝金」もおかしいですよね。自分が支払ったお金の一部が戻ってくるだけなのに、保険会社がお祝いをくれるように錯覚してしまう(笑)。

竹川 投信って身近ではないですよね。トヨタの株を買うのはイメージできても、投信を買うというのは今ひとつわからないと、よく言われます。いまだに家計の金融資産に占める投信の割合は5%程度。投信を普及させるにはどうしたらいいんですかね。

大江 世帯普及率も1割を超えてないでしょう。

竹川 それほど増えていないですよね。購入が増えても解約も増えているので、同じ人たちの中で入れ替わっているだけという印象が強いです。

大江 企業型DCでは、投信を持っている人が――一部でも持っている人ということですが――4割くらいいるんですよ。ということは、投信の世帯普及率が1割なのに、DCを使っている人は4割も投信を経験しているんですね。ところが、投信が何かよくわかっていない。「これが良いと言われたから選んだ」というレベルなんですよ。でも、そういう人が60歳になって、資産が増えていた、減っていたという体験をすると、はじめて「こういうものだったのか」と理解できるようになるのではないでしょうか。これからDCの受給者が増えるほど、投信は浸透していく可能性があると思うんです。

竹川 最近、名古屋証券取引所で行われた女性限定セミナーの講師をつとめました。テーマは個人型DC(iDeCo)だったのですが、約80人の参加者のうち半分くらいの人が投信を買ったことがない、投資未経験者だったんですよ。証券取引所で、こんなに多くの投資未経験者を見たの初めて!というくらい。興味を持っていただくきっかけとしては、iDeCoは良いのかもしれません。せっかくなので、少し勉強して、預金だけではなくて投信も対象に加えてほしいですね。

■この人に聞きました
馬渕治好さん 世界経済・市場アナリスト
竹川美奈子さん ファイナンシャル・ジャーナリスト
岡本和久さん 投資教育家&ファイナンシャル・ヒーラー
大江英樹さん 経済コラムニスト

日経プレミアシリーズ『投資の鉄人』の一部を再構成

投資の鉄人 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 岡本 和久, 大江 英樹, 馬渕 治好, 竹川 美奈子
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)


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