白河 他社から高いオファーをされても、サイボウズには他にはない「働き方」がある。お金だけではない優位性がありますからね。
青野 それと、自分の市場価値を意識すると、資格を取得したり、副業したり、人脈をつくったり、実績を上げようとしたりして、自分のバリューを高めようとしますよね。それぞれの社員が自立し始めるんです。ここが、すごく大事なところだと思うんです。
例えば、明日サイボウズが倒産しても、うちの社員の多くは困らないと思います(笑)。
白河 あるIT企業の社長さんから、こんな話を聞いたことがあります。1997年に山一証券が破綻した時、彼は「さぞかし優秀な人材が流れてくるだろう」と思って、ずいぶん面接をしたそうです。でも、「あなたは何をしてきましたか?」と聞くと、「私はA支店の支店長でした」としか言えなかった人が多くて、結局はほとんど採用できなかったというのです。
青野 今、問題になっている東芝でも、同じリスクがあると思います。今まで、社内のことだけしか分からない人たちが、突然転職しようと思うと、何もアピールできないでしょう。
副業は本業の「敵」ではない
白河 先ほど、副業というキーワードが出ましたが、副業OKにすることで、メリットはありましたか。
青野 当社の社員に、中村龍太という者がいまして、彼は農業を副業にしています。週のうち4日はサイボウズに勤務し、残り3日が農業で、休みがないんです。
農業をやりながら、会社でクラウドサービスの開発をやっているんです。彼はクラウドサービスを使って、効率の良い農業経営をしている。栽培から販売まで、ITを駆使しているんです。
それが、思いもよらない効果を生みました。農業とクラウドサービスを語れる人物など国内探しても彼くらいしかいないから、農業界でだんだん知名度が上がってきたんです。今、彼は農業のイベントで講演や司会などをやっています。
僕らにとっても、メリットがありました。当社のソフトが、農業法人にも売れるようになってきたんです。彼が「副業」ならぬ「複業」をしてくれたおかげで、2つの業界の間にブリッジがかかった。
すると、僕もモードが変わりますよね。みんなもっと複業しろと。「お前は不動産業に行け」とか。僕は、イノベーションってこういう感じだと思うんです。
