育児で鍛えた人材生かせ 多方面に忍耐力・交渉術ありダイバーシティ進化論(村上由美子)

2017/6/24
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ジューンブライドの季節だが、近年の日本では女性が結婚・出産し、家族を形成するという伝統的なライフスタイルに変化が起きている。結婚をしない、あるいは子どもを持たない人の割合が増えているのだ。価値観はそれぞれなので、子どもを持たない人生を選ぶことには何の問題もない。しかし望んでも、経済的及び社会的な事由が多くの女性に子どもを持つことをためらわせているのであれば、大問題だ。

日本の男女の賃金格差は世界でも極端に大きい。女性は男性より27%も賃金が低く、経済協力開発機構(OECD)加盟国中、賃金格差は最大レベルだ。子どもを持つ女性の場合、格差は2倍以上に広がり、61%も男性より低くなる。もともと女性は男性より経済的に不利な立場にあるのに、家族形成でさらなる経済ペナルティーが伴えば、出産を諦める人が増えるのは当然だ。出生率を上げるには、賃金を含めた女性の労働条件の抜本的な改善が不可欠である。

出産や育児を支援することが企業にとってコストではなく、企業価値を高めるための重要な戦略であるという認識を深めなければならない。今後さらに少子高齢化が進み、人材の希少価値が高まる日本では、社員の採用コストが急騰する。ライフイベントに対応しながらも、社員が男女とも断続的に成長できる環境を、どこまで提供できるかが企業の競争力を左右する。

社員の育児経験はビジネスに新たな視点をもたらすという利点に経営者は気付くべきだ。私自身、3人の子の育児から得た教訓は、MBAや金融機関での勤務経験からの知識に匹敵するほど強力だった。マルチタスキング、作業工程の最適化、能力開発、優先順位の即断力、忍耐力、交渉術……。まるでビジネススクールのシラバスのようだが、実はこのようなスキルを親は子どもに鍛えられるのだ。男性も育児を経験することで、生産性向上への意識変革につながるかもしれないとさえ思う。

私の母親は5人の子育て後、48歳でドラッグストアを創業し山陰地方で最大級の企業に成長させた。長所を見つけて褒めて伸ばすという育児の知恵を、彼女は社員の育成に生かした。そして主婦の視点は消費者ニーズを見極めるのにも最適であった。ライフイベントの経験から得られる貴重な視点を、資産として捉えるという発想の転換を企業と社員の双方に提案したい。

村上由美子
経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。

[日本経済新聞朝刊2017年6月19日付]