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生活か仕事か? 減給転職の選択、あなたはどっち? 20代から考える出世戦略(10)

2017/6/20

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 「転職しました。給与は減ったけれど、楽しくやっています」という言葉を聞くことがあります。20代や30代前半の人からそういう言葉を聞くとき、まったく正反対の2種類の理由があるようです。生活を重視するための転職と、さらに成功するための転職。どちらもイマドキだからこそ手に入る選択肢です。それもまた、イマドキ出世の一つではないでしょうか。

■人事制度を知って転職を決意した若者たち

 転職の挨拶が来ることもあたりまえになりました。さまざまなセミナーで講演する際に、受講されている方々に「転職の有無」を聞くようにしているのですが、昨年くらいから半数以上が手をあげられるようになっています。

 特に若い世代において、転職にためらいがなくなっています。新卒1年未満でも、会社に合わないと思えばすぐに転職を選ぶ人が増えているのですが、そのきっかけは今いる会社に限界を感じることのようです。

 人間関係はもちろん、キャリアの将来性、給与の問題などさまざまですが、自分の会社の人事制度を知ることで転職を決意した2人の若い知人がいます。

 1人目のAさんは「働かされ方」についてのルールを知った時。もう一人のBさんは「賃金カーブ」を知った時に、転職を決意したという話を聞きました。

■「残業しないと出世できないから、やめます」

 「前の会社がむちゃくちゃ嫌だ、ということではなかったんです。給与も良かったです。ただ、毎月受け取っている給与の構成を知った時にあれ?って思ったんです。そして良く考えてみたら、30代や40代の上司の働き方を見ていて、『ああこういう働かされ方のための給与なんだ』って気づいてしまって」

 とある集まりで交換した30代前半のAさんの名刺には、ある市役所の名前が記載されていました。聞いてみれば、新卒で入った会社に違和感を持ち、それから地元の市役所に転職したとのこと。転職をするきっかけが「給与の構成」を知った時だと聞いて、私はもう少し詳しく聞いてみました。

 「新人で月給が28万円、それから毎年1万円ずつ増えて、3年目で30万円の給与でした。賞与も3カ月分出ていたので、年収で言うと450万円。悪くはないですよね。でも給与明細を見たら、30万円の月給のうち9万7000円が企画手当って書いてあって、その意味を聞いたのが3年目でした」

 どういう理由の手当だったんですか?

 「企画手当の本当の意味は、残業見合手当、ということでした。残業してもしなくても、先に一定時間分の残業代を定額で支払っておくための手当だと」

 9万7000円はずいぶん高いですね。

 「60時間分だそうです。つまり毎日だいたい3時間くらいは残業しても、それはもう企画手当として支払っているということでした」

 実際にそれ以上残業をしていた? 残業代を払わない会社だから転職を決めた?

 「いえ、僕は60時間以上残業していませんでした。それに60時間以上働いている人たちもその分だけ残業代を追加でもらっていたので、法律を守らない会社というわけではなかったです。けれども『ああ、これが会社のメッセージなんだ』って気づいたのが転職のきっかけですね」

 メッセージ?

 「出世している先輩や上司はみんな、60時間を超えて働いている人たちばかりだったんです。つまり、60時間分の残業見合としての企画手当は、それ以上働く人を出世させる、という会社からのメッセージなんだなぁ、と気づいてしまいました。会社のために私生活を犠牲にすることを求める会社なんだ、とわかってしまった瞬間に冷めましたね。今は給与は下がりました。けれども役所に人生を捧げることは求められていません。僕は、こういう生き方がしたかったので、今とても満足しています」

 彼が気付いた「メッセージ」が、会社からの本当のメッセージなのかどうかは、私には確認することができませんでした。ただ、新卒1年目で28万円という給与水準は決して低くはありません。だからおそらく企画手当は、初任給を増やすための方便として導入された経緯もあったのではないか、と推測しました。そして残業をしない人にも高い給与を支払い、優秀な人に来てほしい。そう考えた会社側の想いはAさんには伝わらなかったようです。

 そしてたしかに、Aさんが気付いたように、残業時間を減らそうとする意志は、経営側にはなかったのかもしれません。

■「年収の天井に希望がないから転職します」

 Bさんは人事制度設計についての講習会に、会社からの派遣で来られていた方でした。その一環として、自社の給与制度についての分析結果を確認してほしい、という依頼を受けて指導をしていたのですが、しばらくして転職の挨拶をいただきました。

 「賃金カーブという概念を教わったじゃないですか。それで自社の給与制度をもとにして、賃金カーブを作ってみたんです。それが出来上がった瞬間に、ああ転職しようって思っちゃいました」

 賃金カーブとは、横軸に年齢をおき、縦軸に給与額をおいたグラフのことです。欧米企業ではほぼ直線になることも多いのですが、日本企業ではこれがきれいな曲線を描くことから、賃金カーブと言われたりします。特に、若いうちは低い給与でガマンして、40代や50代で高い給与をもらうような曲線を描くことが多くなります。

 「ある程度の年功昇給があると思っていたんですが、実際のところはそうじゃなかったんです。前の会社の賃金カーブは、40才から45才でぴたっと止まってたんですよ。」

 それは欧米の会社に近い形ですね。だとすれば年功昇給がないということでよいのでは?

 「おっしゃる通りです。だけど、その時の金額が40万円。年収にすれば700万円くらい。人生の最高年収が700万円と考えたら、この会社で頑張る意味があるのかなと悩んだんです。結局、転職するときに給与は下がるけれど、上場を目指して頑張っている会社に転職しました。今は具体的な上場準備に入っていて、株も受け取ることができたので、むちゃくちゃやりがいがあります」

■安定も成長も、どちらも選択できる時代

 仕事以外の生活を大事にすることを選んだAさん。

 仕事でのさらなる成功を選んだBさん。

 どちらの選択も、自分が考える生き方を選ぶという意味で、イマドキの選択だといえます。そして、こういった選択肢を選べることがイマドキ出世の本質ではないでしょうか。同じ会社の中で上を目指すことだけが出世ではなくなっているのですから。

 そして、出世のために適切な選択をするためには、会社の人事制度をしっかりと理解しておくことが重要なのです。ただ、人事制度を理解するためには、若いうちに経営者の視点を持つことが必要なのですが、そのあたりのことについてはおいおい説明していきましょう。

平康慶浩
 セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年から現職。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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