白河 さらには、副業も兼業もOKにしていますよね。サイボウズは、働き方改革実現会議でテーマになったことはすべてやってしまったという印象があります。あのポスターの反響もそうですが、青野さんは、働き方改革に何が起きているとお考えですか?

青野 電通の事件が社会的にあまりにも大きなインパクトがあって、「長時間残業はヤバイ」という空気になりました。もっと言うと、「残業させる会社は悪者だ」と。

そこに国民の興味が集まったので、経営者が危機感を覚えて、とにかく現場に「残業するな」という号令だけかけてしまっている。今はそういう状況ではないかと思います。

でも、現場からすれば、早く帰るようにしろと言われただけで、仕事量は従来と変わらないわけです。「残業するなって言われても、どうすればいいんですか!」という不満が現場の中でたまっているのではないでしょうか。だから、あのポスターがバズったんでしょうね。まずは「経営者、落ち着け」と言いたい。

経営者は一時的な減収減益を覚悟せよ

白河桃子さん(写真:吉村永)

白河 先日、東京大学 大学総合教育研究センターの中原淳准教授から、「働き方改革は、ただの残業削減だと思ってはいけない。会社の魅力化プロジェクトだと捉えてください」というお話を伺ったんです。私も様々な企業へ取材をしていますが、まさにちゃんとやったところは、そうなっているんですよね。会社の魅力が増し、人が押し寄せ、働きやすく、成果もあがっている。

「残業時間を短縮しろ」とアクションを決めること自体は無駄ではないと思います。日本人は横並び意識が強いので、まずは形を決めないと、現場は何をしていいか分からない。しかし、それだけでは何も変わりません。業務効率化の仕組みやツールを導入し、ルールを決め、それを支える人事制度、評価制度を見直しつつ、トップが旗をふり、耐えて、発信し続ける。こうして1年半から2年くらい経過すると、マインドチェンジが起きてくる。これが、私が今取材している中での実感です。最初の1年間は混乱期なのかなと思いますね。

青野 まさにそういう感じだと思います。

白河 働き方改革とは、個人が生産性を上げようと頑張るだけのことではなくて、まずは経営者が、人が豊富でコンプライアンスもゆるかった頃の古いビジネスモデルを改めることだと思っています。経営者の覚悟が必要なことです。青野さんはどう覚悟を決め、何をやったのでしょう?

青野 僕たちも、多様性あふれる働き方を実現するために、社内のシステムやビジネスモデルを全部作りかえていきました。

白河 その時に、一度は業績が落ちる覚悟はしました?

青野 当社の場合は、クラウドというビジネスモデルの大転換も重なりましたから、それを加味して、毎年10%くらい収益が落ちても仕方がないと考えていました。

白河 なぜ、そこまで覚悟を決められたのでしょうか?

青野 ビジネスモデルがうまく切り替われば、理論上、その先は明るいということが見えていたからです。今よりも負荷が軽く、事業も持続的に成長できるモデルにシフトできると。

白河 環境もあると思いますが、実際に改革を始めてどれぐらいで、成果につながったと実感しましたか?

青野 1~2年です。短期的にも、施策を打つほど結果が分かりやすくついてきました。

白河 減収減益に耐えなければならない時期はどれくらい続くと思いますか。

青野 これはビジネスモデル次第なので、意外とダメージの少ない事業もあれば、5年くらいは耐えなければならない事業もあるかもしれません。

経営者がビジョンを示し、ブレないことが重要

(写真:吉村永)

白河 働き方改革を進めている経営者には、「とにかく売り上げは落とさないように」と言う人と、「減収減益を覚悟して改革する」と言う人の2通りあると感じます。その点に関して、青野さんはどう捉えていらっしゃいますか?

青野 会社によって事情が異なるとは思いますが、共通して言えることがあります。例えば、もしも現場で、深夜残業したら取れる案件があったとして、それを取るのを良しとするか、取らないのを良しとするか、判断に迷うことがありますよね。その場合、判断軸がなければ、今までと同じやり方をしてしまうんです。

当社では、この場合は「無理して案件を取らない方が正しい」と社内に発信しました。深夜残業せず、体をしっかり休めて、また翌日から頑張る方が大事なんだと。ですから、もし取引先から「今夜中に見積もりを出せ」と言われたら、受注しなくてもいいと伝えています。この判断軸が浸透しない限り、何も変わりません。

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働き方改革とは、「多様性」にシフトすること