ジジの大人買い 50~60代、「カッコいい」に貪欲
ヒット不在で八方ふさがりのファッション市場で今、50~60代男性が脚光を浴びている。高度経済成長、バブル景気、ITバブルの3つの上げ潮を体験し、先端のスタイルを謳歌した「消費の熟練者(ベテラン)」たちだ。今なお「カッコ良くなりたい」意識は健在で、衣料やクルマ市場のリーダー役。同世代の富裕層に焦点を当てた新雑誌も創刊される。彼らの消費スタイルや生き方が若い世代の心を揺さぶり、モノへの関心に火がつけば、と売り手は期待する。
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50~60代の富裕層で物欲も好奇心も旺盛な「ゴールデン・ジェネレーションズ」すなわち「ジジ」。そんな一群を対象とする新雑誌「GG(ジジ)」(GGメディア)が23日創刊される。編集長は岸田一郎氏(66)。流行語「ちょい不良(ワル)オヤジ」を生んだ男性誌「LEON」(主婦と生活社)の元編集長だ。
誌面では高級毛織物ビキューナのコート、スポーツカー、秘境の旅といった高級ライフスタイルを前面に押し出す。キャラクターにはファッションプロデューサーの四方義朗氏(68)を起用。「若作りしない」をキーワードに、ラグジュアリーなファッションを提案する。
ジジと名付けた男性群は、雑誌を教科書代わりにファッションを学んだ世代。雑誌が仕掛けるブームに乗って、アメリカンカジュアルや欧州ブランドなど各時代の先端のスタイルに親しんだ。「そんな彼らに、今ならではの教科書を提供したい」と岸田氏。「だって、ちょいワルは60になって、いきなり寺巡りや盆栽いじりはしないでしょ」
数十万円のパイプに行列
倹約が美徳と考える70代。教育費やローンに追われ、物欲が希薄な40代以下の世代。今、彼らの消費意欲を喚起するのは容易ではない。一方、50~60代を見ると「ぜいたくを楽しむ」余裕も意欲もある人は少なくない。「この先の人生は短いから早くお金を使いたい、との強迫観念もある」(岸田氏)
実際に彼らの消費行動は随所で顕在化している。スポーツカー人気や昔乗っていた二輪車に再び親しむ「リターンライダー」が好例。それだけではない。おしゃれに関心の高い男性客が集まる伊勢丹新宿本店メンズ館(東京・新宿)では「50~60代の比率はお客様全体の3割。しかし全世代の中で唯一、売上高が前年比プラスで推移している」と紳士・スポーツ営業部販売担当の嶋崎信也氏は明かす。
売り場ではこだわりの品が人気だ。派手なイラストのサスペンダーが売れ、数十万円する一点物のパイプには行列ができる。「今流行の体にフィットしたパンツが売れるなど、以前の60代とは明らかに売れ筋が違う」と嶋崎氏。「体形維持に気を配り、女性によく見られたい。何が似合うかよく知っている」
60代にはファッションや映画、音楽で「アメリカ好き」という共通言語がある。折しも最近、70年代のアメリカンカジュアルブームが復活し、ここでも彼らは大いに存在感を示している。
アメカジ復活、ラコステ指名
三軒茶屋(東京・世田谷)のアメリカンカジュアルのセレクトショップ「セプティズ」には最近、ラコステのポロシャツなど定番品を指名買いする60代男性が全国から訪れる。運営するクッキーアンドカンパニーの玉木朗社長(61)は「服に対する情熱が衰えない人が多い。昔は買えなかったから、と今になって来る人も目立つ。こちらがびっくりするほど商品知識が豊富なのも特徴だ」と話す。
感度の高いジジたちは、よりマニアックなものを求めはじめている。昨年4月創刊の「ヘイルメリーマガジン」(ヘイルメリーカンパニー)は「知的不良」がテーマのライフスタイル誌。50~60代をコア読者として部数を伸ばす。オーディオ、ギターなどマニアックな趣味の特集、一点物のジュエリー、オーダーのブーツなどの、知る人ぞ知る名店が読者を引きつける。
小野里稔編集長(61)は「結局、ファッションセンスに求められるのは、いかに自分をカッコよく見せられるかという自己プロデュース能力に尽きる」と語る。ファッションに関心が薄いといわれる若者世代も、並み居る熟練者たちの自己プロデュースを目の当たりにすれば、それに感化されるかもしれない。「我々は皆の憧れになるような男性を起用し、学んで下さい、と発信する。そうすれば、いずれ下の世代だってついてくる」と期待を寄せる。
(編集委員 松本和佳)
[日本経済新聞夕刊2017年6月17日付]
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