
戸建てのマイホームをしっかり維持管理するには築後30年で約800万円ものお金がかかるとの試算がある。雨漏りなどがないか定期的に点検し、修繕費用も積み立てておきたい。
「思わぬ出費で家計がピンチだった」。東京都で築13年の戸建てに暮らす会社員Aさん(46)は2年前の外壁の修繕工事を振り返る。工費は約110万円。実はその1年ほど前に工務店から塗り替えを薦められたが、「もう少しは大丈夫だろう」と甘く考えて見送ったところ、外壁の一部がはがれてしまったのだ。
一般的にマンションには共有部分の修繕に充てる積立金の仕組みがあり、外壁の塗り替えなどは管理組合が計画を立てている。一方、戸建ては修繕費用をどう積み立てるか、いつ工事をするか、どの工務店に発注するかなどをすべて自分で決めなくてはならない。これを意識していないと、Aさんのように慌ててしまうことがある。
新築住宅は、コンクリート基礎や柱、梁(はり)など重要な構造部分の欠陥と雨漏りに限って築10年まで売り主に修繕させる法律がある。欠陥住宅の被害を防ぐためだ。しかし、しっかり施工された住宅でも築10年を過ぎると、風雨や日照にさらされて劣化する屋根や外壁の修繕は避けて通れなくなる。水回り設備の故障も少なくない。
不動産コンサルティング会社、さくら事務所(東京・渋谷)が木造2階建て、延べ床面積116平方メートルの一般的な戸建ての場合で試算したところ、築後30年で想定される修繕費用は832万円にのぼった。屋根は85万円、外壁は120万円をかけて15年ごとに塗り替える。バルコニーの防水工事や床下のシロアリ対策も欠かせない。
これらは住宅の基本的な機能を維持するための修繕だが、それでも30年間でならすと月約2万3000円と、一般的なマンションの修繕積立金を上回る。追加で間取りを変更したりするとさらに費用がかさむ。毎月均等にお金が出ていくのではなく、築15年前後などの節目にまとめて100万円単位のお金がかかるのもやっかいだ。
修繕費用を確実に積み立てるにはどんな方法があるだろうか。ファイナンシャルプランナーの黒須秀司氏は「自分の意思だけで積み立てる自信がない人は『財形住宅貯蓄』を使ったらどうか」と助言する。毎月の給料やボーナスから5年以上にわたって天引きで積み立て、工事費が75万円超などの条件を満たす修繕に充てられる。残高550万円まで利子は非課税になる。
火災保険を「積み立て型」にするのも選択肢の一つだろう。一般的な掛け捨て型に比べて保険料は高くなるが、5年、10年といった保険期間が満期になると入ってくる満期返戻金を修繕費用に充てられる。例えば損害保険ジャパン日本興亜「THEすまいの積立保険」で保険期間を10年とし、建物に2000万円の保険をかけて満期返戻金を200万円に設定すると、都内の木造住宅なら月々の保険料は1万9200円になる。
日本住宅保証検査機構(東京・千代田)は昨年、一定条件を満たす住宅を対象に積み立て型の火災保険と専門家の定期点検などをセットにしたサービスを開始した。
こうした積立金だけでは足りない場合、リフォームローンで借り入れることもできる。ただし、自分の年齢や収入とのバランスに注意したい。追加工事などにお金をかけすぎるとローン返済が家計の重荷になりかねないからだ。
修繕費用を抑えるには不具合の早期発見も重要になる。さくら事務所の長嶋修会長は「建築のプロでなくても見つけられる不具合がある。少なくとも年1回は自宅を定期点検してほしい」と呼びかける。外壁にヒビがないか、点検口からのぞいた屋根裏や床下に雨水や漏水のシミがないか、自分の目でチェックをしておきたい。
(堀大介)
[NIKKEIプラス1 2017年6月17日付]