日経Gooday

お酒(アルコール)に強い人と弱い人がいるように、カフェインにも強い人と弱い人がいるのです。カフェインが結合するアデノシン受容体に個人差があることが知られています。カフェイン感受性が高い人は、実際に脳が反応しやすいというわけです。

カフェインを分解する能力が低い場合も、肝臓でカフェインが分解されず、そのまま全身をめぐることになります。つまり、多くのカフェインが血中に長くとどまることになるわけです。先ほど1日のコーヒー摂取量は、3~5杯が目安という話をしましたが、カフェインの効果を強く感じて心配な人は、飲む量を控えたほうがいいでしょう。もしくはカフェインレスを選んでください。カフェインレスコーヒーもポリフェノールは同じだけ入っていますので、夕食後の一杯のカフェインレスコーヒーはポリフェノール摂取の観点でもお勧めです。

カフェインは基礎代謝を上げる

――その他に、福島さんが注目されているカフェインの効果はありますか。

「カフェインは基礎代謝を上げる」という研究が1980年にスイスのネスレ中央研究所によって報告されています(Am J Clin Nutr,33(5),989-97,1980)

コーヒー6杯程度のカフェインを空腹時に摂取すると、基礎代謝は約16%上がり、脂肪燃焼のもとになる遊離脂肪酸が増え、脂肪燃焼が高まるというものです。コーヒー3杯程度でも、基礎代謝は約12%上昇しています。

ただし、「じゃあ、コーヒーでカフェインをとればやせるの?」というとそんなに話は簡単ではありません(笑)。カフェイン摂取量が増えた場合に体重に影響があるかどうかを12年間追跡した米国の調査があります。平均体重はどの条件でも増加していくのですが、BMIが30以上の肥満女性に限り、太り方がやや小さかったという結果でした。他の条件では差は見られませんでした。このようにカフェインによる体重増加の抑制は、非常に限定された結果しか出ていません。

――やはり、ただ飲むだけではやせないんですね。「ダイエットしたいなら運動と組み合わせよう」ということですね。

その通りです。しかも、運動とコーヒー摂取を組み合わせると、スポーツ時のパフォーマンスが上がります。実際、カフェイン入りコーヒーを飲むと中距離走(1500m走)のタイムが3秒ほど速くなることが分かっています(Br J Sports Med,26(2),116-20,1992)。3秒といえば、かなりの効果だといえます。

このため、2004年まではカフェインはドーピングの検査対象薬物とされていたくらいです。コーヒーやお茶からカフェインは日常的に摂取されることもあり、今は指定薬物ではなくなりましたが、競技会での監視は続けられています。

カフェインによる血圧上昇は緩やか

――そのほかの、コーヒーの「心配な点」についても教えてください。「コーヒーは血圧を上げるのではないか」という話があるそうですね。実際、コーヒーを飲むと「ドキドキする」という人がいます。私もそう感じることがあります。

確かに、高血圧について心配されている方がいらっしゃるようです。カフェインには強心作用(心臓の収縮力を高める働きのこと。心拍数や血圧が上がったりする)がありますからコーヒーを摂取した直後は血圧は上がります。ただし、その上昇の度合いはそれほど高くはありません。

実際に、こんな研究があります。「コーヒーを一度に3杯摂取した時、3時間後までに上の血圧は8mmHgしか上昇しない。しかも1日3~5杯を2週間摂取しても、血圧には変化がない」という研究結果です(Am J Clin Nutr,94(4),1113-26, 2011)。

私たちの生活の中には、さまざまなタイミングで血圧上昇の機会があります。例えば緊張する会議では血圧は20mmHg上がり、通勤では14mmHg、歩行によっても12mmHg上がるといわれています。もちろん血圧が高い人はお医者様に相談すべきですが、健康な方が過度に気にする必要はないでしょう。

ただし、強心作用があるのは確かです。パニック障害の患者さんは、動悸(どうき)などの症状から不安感を誘発する可能性があるので、注意が必要です。

コーヒーは胃にいい? 悪い?

――コーヒーは胃に悪いというイメージを持っている人も多いですよね。実際私も、コーヒーを空腹時に飲むと、体調がよくないときなどに胃に不快感を覚えることがあります。コーヒーが胃を悪くすることはありませんか?

確かに、空きっ腹でコーヒーを飲むのは良くない場合があるかもしれません。なぜなら、カフェインには胃酸分泌を促進する作用があるため、もともと胃酸過多の人が空腹時にコーヒーを飲むと、胃酸によって胃粘膜にダメージを与える可能性があるからです。

ただし、「健康な人がコーヒーを飲むことによって胃を悪くするか」というと、そうではなさそうだと考えられます。8013人の健康な日本人男女を対象に行われた横断研究によって、コーヒーは胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎のいずれにも影響を与えないことが示されています(PLoS One,8(6),e65996, 2013)。むしろ、胃の疾患リスクを明らかに高めるのはピロリ菌感染や喫煙です。

――コーヒーを飲むとトイレが近くなって困るという人もいますね。

カフェインのマイルドな利尿作用によるものですね。これは、カフェインを含む緑茶などでも同様に見られる現象です。コーヒーの利尿作用は実はそれほど強くないのですが、気になる方は、カフェインの摂取を控えたほうがいいかもしれません。睡眠の質への影響もありますので、コーヒーを飲んでもぐっすり眠れる、という人でも寝る前は、カフェインレスにすることをお勧めします。

――なるほど、コーヒーの不安を払拭する研究も多く行われているのですね。1日3~5杯という適量を考慮し、寝る前のカフェイン入りのコーヒーは控える、といったことを心がければよいのですね。

コーヒーに限らず、どんな飲み物、食べ物でも言えることですが、それぞれ個人の適量を、おいしく楽しんでいただくことが大事だと思います。

コーヒーは世界中で多くの人に飲まれています。日本でも今では、コーヒーがたくさん飲まれるようになりましたが、それでも欧米よりも少なく、一人当たりの摂取量は北欧各国の半分以下です。まだまだ伸びる余地はあると思います。正しい飲み方を知って、より多くの人に楽しんでもらえると嬉しいですね。

福島洋一さん
 ネスレ日本ウエルネスコミュニケーション室室長。1988年、東京農工大学農学部農芸化学科卒業、1990年に同大学大学院修了後、ネスレ日本に入社。1999年博士号(農学)取得。ネスレ中央研究所(ローザンヌ)、ネスレリサーチ東京R&Dプロジェクトマネージャーを経て2010年より現職。

(ライター 柳本操)

[日経Gooday 2016年3月1日付記事を再構成]

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