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私の履歴書復刻版

「月給をもらうためだけなら来るな」 石川島の技術魂 第4代経団連会長 土光敏夫(12)

2017/6/22

清貧ぶりと無私の姿勢で「メザシの土光さん」と慕われ、1980年代の行政改革の先頭に立った土光敏夫氏(どこう・としお、1896-1988)の「私の履歴書復刻版」。大正9年、土光氏は東京石川島造船所(現IHI)に入社します。配属されたのはタービンの設計部門でした。

■石川島入社――タービン国産化に没頭 習慣づけられた5時間睡眠

東京石川島造船所は、非常にユニークな行き方をとっている企業であった。

もとは、嘉永6年(1853年)、水戸藩が作った造船所から端を発し、長崎出身の平野富二に買いとられて、明治20年代に株式会社東京石川島造船所となったものである。

創立者平野は、造船所と名付けながら、早くから、ボイラー、発電機、蒸気機関、製糸機械など、機械製造方面にも広く手をのばし、多角化経営を採っていた。この多角化が、不況期に、この会社をどれだけ救ってきたかわからない。

私が入社した大正9年(1920年)は、その直前まで4割配当を行うほど造船ブームにわいていたが、翌年から一転して大不景気に見舞われ、会社経営は、造船よりも機械製造に重点を置かざるを得ない状況にあった。私が配属されたのは、その機械方面、具体的にいえば、タービンの設計であった。

蔵前時代、私はタービンを主力に勉強してきた。しかし、そのころ、タービンについて翻訳された技術書などあるわけはなく、洋書を四苦八苦して読みあさり、実験等も先生と一緒になって取り組むありさまであった。先生にとっても、未経験の分野だったのである。

タービンが、歴史的にデビューしたのは、1884年のこと。英国のパーソンズが設計した反動タービンが、4.2キロ平方センチの圧力の蒸気を用いて4キロワットの発電機に直結、運転されたのが嚆矢(こうし)で、これが火力発電界に応用された。その後、ド・ラバール、カーチス、ツェリー、ラトウら多くの先覚者が、頼るべき理論もなく、ただ経験だけを唯一の基礎にして、苦心さんたん、研究してきたものである。

私が入社したころは、舶用機関タービンとしては、パーソンズ式またはジョンブラウン式など英国流のものが普及していた。これらは、低速度で構造が複雑だからよく故障した。

ところが、そのころ、スイスのエッシャーウイス社が、非常に優秀なツェリー式タービンの製造、販売を始めた。石川島はこれに目をつけ、大正10年(1921年)に同社と契約、東洋での一手販売、製造権を手に入れた。

英国式とツェリー式を比較すれば、前者は1台に数十万本の回転翼を有しているのに対し、後者はわずか3、4000本の翼で済む構造になっている。したがって、英国式よりはるかに高速回転できる。しかも、高級な材料を用い、加工検査も厳重にしてあるので、ほとんど故障もなく、取り扱いも容易であった。

石川島が、ツェリー式を販売し始めて、一大センセーションが巻きおこり、艦船用のタービンは、競ってこの使用に踏み切った。しかし、われわれ技術者は、外国製をたんに輸入して販売するだけでは存在価値がない。せっかく優秀な機械を輸入したならば、それをもとに研究に励み、わが国独特の国産品を生み出さなければ意味がなかろう。その先兵は設計課である。

われわれは、辞書を片手に勉強や試作にとり組んだ。特に課せられたのは、陸上タービンの分野への進出であった。もともと、石川島は技術に熱心な雰囲気があり、「月給をもらうためだけなら来るな、仕事を趣味とする奴だけ来い」という所である。議論が盛んで、退社後にも、力学20題などと、宿題を出す先輩がうようよいた。

話は変わるが、私は永い間、朝4時起床、夜11時就寝という5時間睡眠を原則とした生活を続けてきたが、これは、この時代に習慣づけられたものである。

新しいタービンに取り組む際、ドイツの科学雑誌のバックナンバーを山ほどとり寄せた。これを読みこなすため、自分のドイツ語の読解力と資料のボリュームとを比べて計算したら、一日5時間の睡眠時間しかとれないという結果が出た。それを実行しているうち、習い性となってしまったものである。

大正9年の石川島の規模は、資本金500万円、従業員数は1000人弱、社長は渡辺嘉一氏であった。私の初任給は45円だったが、その他諸手当があり、72、3円にはなったと思う。

この連載は、昭和57年(1982年)1月に日本経済新聞に連載した「私の履歴書」および「私の履歴書 経済人 第20巻」(日本経済新聞出版社)の「土光敏夫」の章を再掲したものです。毎週月曜日と木曜日に更新します。2012年、日経Bizアカデミーで公開した記事を再構成しました。文中には今日では不適切とされる表現や行為の記述などがありますが、作者が故人であり、作品の発表された時代的・社会的背景も考慮して、原文のまま掲載しました。

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