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公的年金、お得なもらい方は 繰り下げで最大42%増 公的年金 丸わかり(4)

2017/6/18

 梅雨冷えの日曜。筧家のダイニングでは幸子と良男がお茶をすすっています。良男が「ほっこりするねぇ」と大きなあくびをすると、旅行会社に勤める娘の恵が入ってきました。公的年金を少しでも多くもらうにはどんな方法があるのか、関心があるようです。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 良男の妻。ファイナンシャルプランナー資格を持ち、家計について相談業務を手掛ける。 筧良男(かけい・よしお、52=中) 機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。最近、親の相続が気になり始めた。 筧恵(かけい・めぐみ、25) 娘。旅行会社に勤める社会人3年目。自分磨きと"コスパ"にはかなりこだわっている。

  なんだかとってもいい香りがするわ。

 幸子 鼻がいいわね。いつものお茶じゃないのよ。パパの同僚の香港出張のお土産よ。

  中国茶って、美容によさそうね。

 良男 我々おじさんの健康にもいいかもな。香港は男女とも寿命が世界一なんだって。

 幸子 長生きすると年金もたくさんもらえるしね。

  公的年金は100歳でも120歳でも、生きている限りずっともらえる終身年金だからでしょ?

 幸子 正解だけど、それだけじゃないわ。もらい始める年齢を繰り下げることで、一生涯でもらう年金総額をもっと増やせるかもしれないのよ。

 良男 それは知らなかったな。繰り下げってどんな仕組みなんだい?

 幸子 公的年金は原則65歳から受給するわけだけど、これを最長で70歳まで繰り下げられるの。この5年間は年金なしで生活しなければならないけど、その代わりに70歳から受給する年金は42%も増やしてもらえるのよ。受給開始を1カ月繰り下げるごとに年金を0.7%ずつ増額するルールなの。

 良男 5年間、つまり60カ月の繰り下げで42%の増額か。それってお得なのかな?

  受給開始を65歳にする場合と70歳にする場合で、年金総額を比べてみたらどう?

 幸子 比較のグラフを作ってあるから見てちょうだい。単純計算だけど、70歳から繰り下げ受給する場合の年金総額が65歳からの受給を上回るのは、おおむね82歳からになるわね。

 良男 要するに82歳まで生きてトントン、さらに長生きすればどんどんお得になるというわけか。2015年の日本人男性の平均寿命は80.79歳だからビミョーだけど、健康に自信があれば繰り下げてもいいな。

  同じく女性の平均寿命は87.05歳だから年金を増やすチャンスは大きそうね。繰り下げってかなりお得なのね。

 幸子 そうね。だけど実は年金の繰り下げ受給をする人はとても少ないのよ。厚生労働省によると、2015年度の老齢基礎年金の受給者2974万人のうち、繰り下げ受給は38万人にとどまっているわ。

 良男 たった1.3%か。

 幸子 長生きできるかどうか分からないから、とりあえずもらっておきたいという心理が働くのかもね。年金は60歳から繰り上げ受給することもできるけど、実はこちらを選ぶ人のほうがずっと多く、397万人。繰り下げの約10倍ね。ただ、繰り上げは1カ月ごとに年金が0.5%減らされるから、5年の繰り上げで30%もの減額になることは覚えておいてね。

 良男 たしかに65歳で健康で長生きの自信があったとしても、先のことは分からないしな。でもせっかく繰り下げで年金を増やすチャンスがあるのに、もったいない気もする。

 幸子 パパみたいに会社員だった人なら、いわゆる1階部分の基礎年金と2階部分の厚生年金のどちらか一方を繰り下げることもできるの。例えば70歳まで年金ゼロだと家計が厳しいけれど、どちらか一方を65歳から受給すればゆとりができるという人の選択肢にはなるわ。

  もっと確実に年金を増やす方法はないの?

 幸子 基礎年金は60歳まで40年ずっと保険料を納めてはじめて満額が受給できるの。もし未納期間などがあって60歳になっても40年に満たない場合、希望すれば65歳まで引き続き保険料を納められる。これを「任意加入制度」というの。

  なるほど。フリーランスの個人事業主などは「第1号被保険者」っていうのよね。この人たちの年金は2階部分がなくて基礎年金だけだから、少しでも満額に近づけたいよね。

 幸子 第1号の人たちは会社員や公務員といった第2号被保険者に比べてもらえる年金が少ないので「付加年金」という上乗せの仕組みがあるわ。月400円の付加保険料を納めると、納めた月数に200円を掛けた金額だけ年金が増えるの。

 良男 例えば付加保険料を40年間納めると、19万2000円か。それで1年間にもらえる年金が480カ月に200円をかけた9万6000円も増えるわけだから、物価上昇率などを考えない単純計算だと、平均寿命どころか受給開始から2年で元が取れることになるのか。これはかなりお得だな。

 幸子 ほかにも自分で保険料を納める第1号は6カ月分か、1年分か、2年分の保険料を前もってまとめて納められる「前納」という制度があるわ。今年度に2年分を前納すると、口座振替なら1万5640円、現金、クレジットカードなら1万4400円の割引があるの。現金、カードの2年前納は4月に始まったばかりだけど、高い還元率でポイントが付くカードなら、実質的に口座振替より有利になるかもしれないわね。

  年金を増やしたり、保険料を節約したりする方法っていろいろあるのね。

 幸子 もっとも、どれも長生きが大前提だけどね。パパ、お茶もう一杯いかが?

■個人事業主、付加年金も有利
 ファイナンシャルプランナー 八ツ井慶子さん
 70歳まで退職金を大きく取り崩すことなく生活できる見通しがあるなら、年金の繰り下げ受給も選択肢です。基礎年金か厚生年金のどちらか一方を繰り下げることもできます。とりわけ平均寿命が長い女性の場合、繰り下げによって一生涯に受け取る年金の総額が増える可能性が高いといえます。第1号被保険者の付加年金もとても有利な仕組みです。
 最長5年間の繰り下げで年金は額面で42%増えますが、所得税や社会保険料は高くなり、手取りベースではこれをやや下回ります。受給を繰り下げた配偶者が亡くなっても遺族年金は増えない点も注意が必要です。年金受給者のうち繰り下げは1%余り。むしろ目先の家計のために繰り上げる人がずっと多いのが現実です。老後資金は現役時代からコツコツと蓄えておくことが重要です。
(聞き手は表悟志)

[日本経済新聞夕刊2017年6月14日付]

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