仕事の筆記具変えた、本当に芯が折れないシャープペン納富廉邦のステーショナリー進化形

「学生の筆記具」という印象が強かったシャープペンシルだが、最近、大人の間で人気が高まっている
「学生の筆記具」という印象が強かったシャープペンシルだが、最近、大人の間で人気が高まっている

学生時代は毎日のように使っていたシャープペンシル。大人になってからはほとんど使っていない、という人も多いかもしれない。しかし、今、高級なシャープペンシルが好調だ。ビジネスで使う人も増えているという。文具を見続ける納富廉邦氏が、ボールペンの進化(「消耗品から『高級実用品』へ ボールペン、進化の秘密」)に続き、シャープペンシルのイノベーションを解説する。

学生の筆記具として進化してきたシャープペンシル

シャープペンシルという呼び方は、1830年代に米国のキーラン氏が発売した「エバーシャープ」という製品に由来するらしい。その後、1915年、錺(かざり)職人であった早川徳次氏が日本最初の実用的なシャープペンシル「早川式繰出鉛筆」を作り、その改良版を翌年に出したとき、米国のエバーシャープの名称を借りて、「エバーレディシャープペンシル」、つまり「常に芯がとがった状態で準備されている鉛筆」と名付けたのが、日本でのシャープペンシルの始まり。この「早川式繰出鉛筆」を作った早川氏が、この時の「シャープ」の名称を使って、現在のシャープ社を立ち上げることになる。

2014年を契機に、シャープペンシルは販売金額だけでなく販売数量も上昇に転じている(経済産業省生産動態統計より)

以来、「シャープペンシル」という呼称は、日本独自の呼称として受け継がれている。海外では、「メカニカルペンシル」、または単に「ペンシル」と呼ぶのが一般的だ。

筆記具は、その国の文字を書く道具だから、書かれる文字が変われば、使い方も製品自体の性能や機能も変わってくる。シャープペンシルは、最初こそ凝った彫金技術を駆使した高級筆記具として人気を博したものの、最初に名付けられた「常に芯がとがった状態で準備されている鉛筆」としての需要が中心となり、「便利な鉛筆」として日常的な筆記具の方向で進化することになった。

70年代後半にはプラスチック軸の100円シャープペンシルも発売され、シャープペンシルは中高生を中心にした学生用の筆記具として発展していく。もう、本当にずっと、メインユーザーは学生だったのだ。だから、登場する新製品も学生を意識したものが多かった。

数少ない例外がいわゆる「製図用シャープペンシル」だ。こちらは、使い方からして筆記用とは違うのだけど、ほとんど大人向けの製品がなかったからか、シャープペンシルを使う学生にとって憧れの製品として位置づけられていたりした。たぶんこの製図用シャープペンシルへの憧れも、現在のブームの伏線になっている。

ともあれ、78年に発売された速記用シャープペンシル「プレスマン」(プラチナ万年筆)などの一部の例外を除き、シャープペンシルはほぼ学生のための筆記具として発展してきた。しかし、2008年に発売された三菱鉛筆の「クルトガ」で、大きな転機を迎えることになる。

三菱鉛筆「クルトガ」:それまで軸を自分で回して対処していた、芯の片減りによって描線が太くなる問題を、芯を回転させることで解決。筆圧による縦方向の力を回転方向に変換する機構がポイント。450円+税

知らない学生はいないのに、大人は知らない

40画で1回転、芯が回転することで、シャープペンシルの芯の片方だけが減って描線が太くなってしまうことを防ぐ機能を持つクルトガは、学生の間で大ヒットした(「1画」は書き始めてから芯先が紙面から離れるまで)。このヒットは、それまで芯を出す仕組みやデザインなどでしか新しさを演出できなかったシャープペンシルに、まだ開発の余地があることを筆記具メーカーに知らしめることになった。もともと、削らなくても細い線が書けるのがシャープペンシルの魅力。だから、細い文字が安定して書けるクルトガが人気になるのも当然といえば当然だった。

しかし、このクルトガ、学生の間では知らない人はいないほどの大ヒット商品だったのだが、大人にはほとんど知られていなかった。筆者は、ちょうど息子の中学受験とクルトガのヒットが重なっていたため、彼らの間での圧倒的な人気を目にしていたが、ビジネスマン向けのメディアでクルトガの記事を書くのは、それから6年ほどたってからになる。

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