保活説明会に500回コール、異常さに涙 細川モモ
10代・20代で両親が末期がん患者になった経験から予防医療に関心を持ち、以後7年間サンフランシスコやニューヨークの大学・学会等で学んだ細川モモさん。2009年から企業・官公庁等ともコラボレートした女性の健康や美を啓発する活動を続け、特に、先進国の中でも日本が深刻な状況に陥っている低出生体重児と不妊症の予防に力を入れています。夫婦両母親が他界している環境で、夫は1カ月の育休、起業家である自身も約3カ月の育休を取り、新たな家族の生活の形を日々更新しています。
想像を超える厳しい現実に、言葉を失った
これから親になる人、そして親になったばかりの人にとって最大の関心事のひとつである「保活」。私自身、周囲の先輩ママたちに妊娠の報告をしたときから「すぐに保活を始めるべし!」と気迫すら感じるアドバイスを受け、「認可と認証って何? どう違うの?」というレベルから保活をスタートしました。
このときはまさか34歳にもなって保活で涙することになるとは夢にも思わず、「なんだかんだ言っても、結局はどこかに入れるだろう」と完全になめていたのです。
まず始めたのは、周囲の保育園を検索すること。夫とは小・中の同級生なので、実家近くで子育てするのが良いだろうと結婚を機に地元に戻りました。住み慣れた街のはずなのに保育園を探したことなど一度もなく、「へー、こんなところにあるんだ!」と日経DUALの保育園検索機能をフル活用したものです。
近隣の保育園をチェックしたのち、夫に役所の窓口に行くことを提案。ここで目が覚めるような現実を突きつけられることになります。
対応してくれたのはかっぷくの良いベテランオーラ漂う女性。保育園の場所をはじめ、小学校入学まで預かれる保育園の有無、小規模保育園など、一通りの説明を受けます。ここまでは、ウンウンと気楽なもの。一通りの説明が終わった後、渡された昨年度の入園申し込み状況が書かれた一枚の紙を見て、私たち夫婦は凍りつくことになります。
まず驚いたのは、「0歳を預ける人ってこんなに多いの?」という事実。募集枠に対して、倍以上の申し込み状況。「お母さんたちそんなに早く復帰するの?」と驚きを隠せないまま、1歳児の欄に目をやると……正直ひっくり返るかと思いました。
「何、この倍率!」 入園できるのは、応募者3~4人のうちたった1人。ディズニーランドの抽選席じゃあるまいしと、ただただ驚きを隠せないまま2歳児欄を見て、保活の現実を悟りました。「0歳児で入れないと保育園には通えないんだ……」。私の保育プランが音を立てて崩れた瞬間です。
説明会=武道館チケットのような殺到ぶり
続いて、わが家は認可保育園に入れるかという、現実的な話が始まりました。点数の中身に関してざっと説明があり、質問するより前に「保育園入園を希望される世帯では、ほぼすべての家庭が100点は満たしています」と言われました。「よって加点ポイントが重要です」と言われ、加点ポイントの説明を受けながら、夫と私の顔はどんどん曇ります。
第一子だし、互いの母親は既に他界しているけれど実家は近い、おまけに私は自営業。条件を聞き出す担当者の顔もどんどん曇っていきます。「あぁ、うちは認可は無理なんだ」。途中でそう察しました。想像を超える現実に言葉を失いつつ、認証と無認可を探そうと帰り道で夫と話しました。
探すと認証も無認可もそれなりに数はあり、説明会などの実施予定がホームページに掲載されていました。いくつか目星をつけ、まず第一希望の園の説明会に参加することにしました。予約受け付けが数日後の朝10時となっていたため、その日は9時50分から夫と携帯片手にスタンバイ。10時になった瞬間にコールしましたが、つながらない……そこからコールし続けること500回。保育園説明会=武道館チケットか? 回線混雑をアナウンスするNTTに何度もはじかれながら、めげずにかけ続けること40分。プルルル‥と夫の携帯がつながりました。
説明会の申し込みができただけでも入園が確定したかのような喜びようだったわけですが、冷静に考えると単なる説明会なのです。そこに500回もコールするってなにごと?。この辺りから「保活」という名の異常事態に気付いていくことになります。
最長時間で預けるほうが有利?
その後、願書を出す保育園を2駅先まで視野に入れて決め、提出書類の準備を始めました。ここで私はいい歳をして涙することになります。……というのも、認証は民間企業による経営なので、保育料が高い(=預ける時間が長い)ほうが選ばれやすいとか、切羽詰まっていることを伝えるために最長時間で預けるほうが良いとか、色々な情報が入ってくるのです。
初めは「そうか、なるほどね。じゃあわが家もMAXで」と思い、申込書の保育時間を記入しようと筆をとったときにふと思いました。「待てよ。ということは、私は起きている娘にはいつ会える?」。週6回1日10時間以上も預けたら、私は昭和の働くパパよろしく「平日は娘の寝顔しか見ていません」ということになるのではないか?
娘は入園時に生後6カ月。これからお座り、ハイハイ、立っちと愛くるしい成長を遂げていくであろう大事な時期に、見ているのは寝顔中心になるの? その事実と向き合ったとき、ペンを持つ手が止まりました。娘が生後3カ月になったと同時に仕事復帰し、以後一度も昼寝できていないほど忙しくしている身でも、そもそも1歳まで保育園には預ける気がなく、主人と協力しながら(主人の勤務時間が一定でないこともあり)シッターさんにお世話になるつもりでした。
でも、1歳児入園の奇跡のような低い確率にキャリア継続を懸けるわけにはいかず、多くのお母さんたちと同じように、悩み迷いながらも0歳児での入園を決意したのです。
娘の成長をそばで見守りたい
きっと娘の「初めての◯◯」を目撃するのは園の先生たちだろう。それだけでも寂しいのに、寝顔を見続けるような生活が私にできるのか、耐えられるのか……。でも、確実に入園できないと、後が困る。重苦しい葛藤が胸に渦巻き、気付いたらポタポタ……と、涙が書類にこぼれ落ちました。
娘の成長を側で見守りたい。親として至極まっとうな願いがなぜかなわないのだろう。なぜこんな究極な問いを突きつけられ、苦しまねばならないのだろう。保活を巡る現状は「異常」の一言です。
そんな私の様子を見て娘もいつも以上に泣き、産後ホルモンバランスの影響でただでさえメンタルが乱れやすい母親を追い詰める社会構造にがくぜんとしたものです。
一人では答えが出せず、主人に相談すると主人は私の思いを受け止め、「向こう数年間は馬車馬のように働いて、貯金を切り崩してもよいから、落ちたらシッターにしよう」と言ってくれました。覚悟を決めて、通常の保育時間で記入しました。それをカバーしようと、私の仕事の現状や保育で頼れる人がいないことなどをつづった手書きの手紙と、仕事の内容をまとめた資料を夜なべしてすべての園の園長宛てに作り、提出日を迎えました。
が、結論から言うと「読んでいる暇がない」ということで、一切受け取ってもらえませんでした。目の下にクマを作って頑張ったのに……。何度となく肩を落とす私に主人もかける言葉がなかったようです。結果は園によって手紙、電話、メールと様々でしたが、基本的には「期日までに連絡がなければ落ちたと思ってください」ということでした。その期日がよりによって3月3日、娘の初めての桃の節句の日でした。
ソワソワと落ち着かない2月を過ごし、各園から音沙汰のないまま桃の節句を迎えました。手まり寿司やふろふき大根の牛しぐれ煮添えなどのごちそうをテーブルに並べ、娘は夫の膝に抱えられながら、無邪気におひな様の飾りに手を伸ばします。物を認識し、つかもうと手を伸ばせるようになったんだね、成長がとてもうれしく幸せな夜でした。
0時を回り、ついに保育園内定の連絡は一通も届きませんでした。
「つかみ食べ」は最高の育脳!
保活では悲しい思いをたくさんしましたが、育児にはそれ以上の喜びや幸せがあります。最近、娘が離乳食を始め、モチモチふっくらしてきました。毎日ひな鳥のように手をバタバタさせ、あーんと口を開けて離乳食をたくさん食べてくれます。手はお米や野菜でベトベト。親からすると、あぁ大変~となる瞬間ですよね。
でも、「つかみ食べ」って最高の育脳であることをご存じですか? 脳に最も刺激を与え、活性化するパーツに、指や手、舌や唇といった口腔(こうくう)環境があります。認知症予防でもそしゃくや指先を使う行為は推奨されますよね。
これらを一緒に使うつかみ食べは脳への刺激が大きく、子どもにとっては最高の育脳に。栄養面では妊娠20週から2才まで、DHAの需要が脳の肥大に合わせて右肩上がりに増していきます(※1)。血中DHAは食事からの摂取量に比例するため、食事からきちんと与えてあげることが育脳に欠かせない要素です。ぜひこの時期はDHAを意識した食事やおやつを与えてあげてくださいね。
※1 出典:Martinez.J pediatr 1992; 120: S 129-38(一部改変)
予防医療コンサルタント/一般社団法人ラブテリ代表理事。2009年から企業・官公庁等ともコラボレートした女性の健康や美を啓発する活動を続け、特に、先進国の中でも日本が深刻な状況に陥っている低出生体重児と不妊症の予防に力を入れる。2016年9月に女児を出産、多難な保活を乗り越えて今年4月に保育園デビューしたばかり。
[日経DUAL 2017年4月20日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界