不動産・住宅ローン

転ばぬ先の不動産学

借地にまさか1000万円の価値? 地主提示でトラブル 不動産コンサルタント 田中歩

2017/6/14

 「うちは財産が少ないから相続税のことは気にしなくても大丈夫。遺産分割でもめることはないはずだ」。こうした話をよく聞きます。ある家族も同じような考えでした。母親の主な財産は現金。実家は借地で、老朽化が進んだ建物があるだけでした。長男のAさんいわく、地元の役所の無料税務相談でも「相続税はかからない」と言われたそうです。

 その後、母親が亡くなり、相続が発生します。Aさんを含む兄弟三人は、母親の主な財産である現金を3等分にして分けることにしました。実家の建物は「たいした価値はないだろう」ということで、最後まで母親の面倒を見ていた長男のAさんが受け継ぐことになりました。

■地主が「借地を返してほしい」

 それから数年後のこと。

 実家の土地の地主から「補償料を払って借地を買い戻したい」という話が舞い込みます。補償料は1000万円とのこと。Aさんは実家の建物を受け継いだ時点で自動的に借地権も引き継いでいます。「地主が借地を買い戻す」というのは実はよくある話で、このケースでは地主が空き家のまま放置されるのを嫌い、Aさんに打診したようです。Aさんも借地の価値がこんなにあるとは思っていませんでしたし、空き家のまま地代や固定資産税などを払い続けるのはもったいないと思っていたので、地主からの申し入れを受けることにしました。

 ところがここで大きな問題が発生します。実家の建物の登記名義人が母親のままになっていたのです。

 借地を売却するためには、その土地の上に建っている建物の登記名義人を母親名義から相続した人に変更する必要があります。いわゆる「相続登記」を済ませないと、売買ができないのです。

 相続登記をするためには、相続人であるほかの兄弟との間で、実印と印鑑証明書を付した遺産分割協議書が必要となります。つまり、改めてほかの兄弟に対し、実家の建物を長男のAさんが一人で相続することについて、書面で全員が合意しなければならないのです。

 相続が発生した時、口約束ではあるものの、長男のAさんが実家の建物を受け継ぐことには兄弟全員が合意していますし、これまで、地代や建物の固定資産税も少ない額とはいえAさんが負担してきました。ですから、Aさんは自身が単独で実家の建物を受け継ぐ内容の遺産分割協議書に、ほかの兄弟は当然、記名押印してくれると思っていたのです。

 しかし現実はそうではありませんでした。借地の売却価格が1000万円ともなると、ほかの兄弟も権利を主張し始め、兄弟でもめることになってしまったのです。

■トラブル防止、遺産分割協議書で

 筆者はトラブルの原因は二つあると考えています。一つは相続発生時に相続税がかからないからといって遺産分割協議書をつくらず、実家の建物の登記名義人を母親のままにしておいたことです。

 筆者が懇意にしている相続専門の東京シティ税理士事務所の石井力税理士によると、今回のケースのように遺産分割協議書を作成せず、借地上の建物の登記名義も変更せずに放置した結果、後日、相続人の間でトラブルに発展するケースが少なくないといいます。

 相続時に是が非でも相続登記をしなければならないわけではないので、そのままにしておく人は多いのですが、相続税がかからないケースでも財産の中に不動産がある場合は、いつでも相続登記ができるよう遺産分割協議書を作成しておいたほうが安心です。

■借地にも一定の価値

 もう一つの問題は、借地に一定の価値があるという認識を持っている人が少ないということ。「借りている土地の上に単に古い建物が残っている」という認識をしている人が多いのです。たとえ老朽化が激しく、価値がほとんどないように見える建物であっても、それが借地の上に建っている以上、借地人には財産権(借地権)があることをしっかり認識し、市場価値がどの程度なのか調べておきたいものです。

田中歩 
 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

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