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マネーフォワード社長の辻庸介氏

マネーフォワード社長の辻庸介氏

人工知能(AI)やあらゆるものがネットにつながるIoTと並んで注目を集めるフィンテック(Fintech)。金融(Finance)とテクノロジー(Technology)を融合させたこの新分野で、いま注目を集めるのがベンチャー企業のマネーフォワードだ。創業から5年で、同社の個人向け自動家計簿・資産管理サービスの利用者は500万人を突破。ビジネス向けのクラウドサービスでもシェアを伸ばしている。同社の辻庸介社長兼最高経営責任者(CEO)に、目指すリーダー像などについて聞いた。

顧客の反応を肌で感じ取る

――最近では、地方の銀行や事業会社との連携にも力を入れ、辻さん自身で全国を回っていますね。

「基本的にお客さまとお話しするのがすごく好きなんです。一番大事な当社のバリューは、とことんユーザーの立場に立つ、という『ユーザーフォーカス』。そのためには、僕自身がまずは直接お話をして、お客さまの課題を本当の意味で理解することから始めなければなりません。もちろん、営業やカスタマーサポートの部署から、様々なリポートは上がってきますし、それを読んでいれば、お客さまの抱えている課題はある程度わかります」

「でも、僕はそれだけでは不十分だと思うんです。やはり、お客さまの課題の『温度感』のようなものは、お会いするからこそ、肌で感じ取ることができる。そして、直接顔を見て話すことで『何としてでも期待に応えたい、課題を解決したい』という強い思いが湧き上がってきます。そうした思いがあって初めて、リーダーとしての意思決定もできるのだと思います」

「『定期的にお客さまと会いに行ったほうがいい』というのは、営業だけではなくプロダクトを作るプロダクトオーナーやエンジニアやデザイナーにも常々言っています。いいプロダクトは、やはり強い思いとパッションからしか生まれません。さらに、その思いがあることで、開発のスピードも上がると思います」

――そうした考え方を持つようになったきっかけはありますか。

「経営者の本を読んだりDVDを見たりするのが好きなんですよ」

「経営者の本を読んだりDVDを見たりするのが好きなんですよ」

「社長自ら動くというのは、以前、日本電産の永守重信社長の講演をDVDで見たとき、『社長が一番熱くないといけない』とおっしゃっていて、それを聞いたときに、なるほどと膝を打ちました。永守さんいわく、経営者が集まる講演会で一人の経営者が『うちの社員は働きません』というと、他の経営者も口々に『うちもそうだ』『うちもそうだ』と言いだしたのだそうです」

「それで永守さんが『それはあんたたちのせいですな。人には可燃性、自燃性、不燃性があって、不燃性はいくらやっても燃えへんから、しゃあないけど、可燃性の人は自燃性が燃えれば燃える。それが燃えてへんのは、社長の燃え方が足りてないんです』とおっしゃったら、会場がしーんとしたらしいんです。永守さんにそう言われたら、もう黙るしかないですが、僕自身、その話を聞いて、ハッとしました」

永守、柳井両氏にうなる

――経営者の講演DVDはよく見るのですか。

「結果を残されている経営者の本を読んだりDVDを見たりするのが好きなんですよ。最近は勉強会、といっても若手の経営者仲間数人で誰かの家にDVDを持ち寄って、ビールでも飲みながら見る、というだけなんですけど、永守さんのDVDは正座して見ましたね。経営者として、永守さんやソフトバンクの孫正義さん、ユニクロの柳井正さん、ヤマト運輸の小倉昌男さんなどはレベルが違いすぎて、僕がリトルリーガーだとしたらその方々はメジャーリーガーくらいの差がある」

「どうしたらあんなふうになれるんだろうと日々、必死に考えています。世の中を見渡せば、成功している経営者はごく一握り。つまり普通にやっていても、成功できないってことです。そうであれば成功している経営者から学ぶしかありません」

「特に、ユニクロの柳井さんが書かれた『経営者になるためのノート』は、迷ったときに必ず読みます。きのうも、会社に来てひとり、自分の考えは浅かったのかなあと思うことがあって、あの本を開きました。読んでいる間中、ずっと柳井さんに怒られているみたいで、ああ自分は未熟だなあと。あそこに書かれているのは、テクニックではなくて本質論。だからこそ頭を殴られたような感じがするんです」

「どんなことも口で言うのは簡単ですが、行動に移すのはほんとに大変で、実績を残すのはもっと大変。柳井さんは自分に対してはもちろん、人に対しても厳しい方です。理解できずに去って行かれた方もいらっしゃるでしょうし、そういう中でご自身もとても悩まれたと思います。そういうすべての経験から学ばれたことを、本でシェアしてくださるのって、めちゃくちゃありがたいですね」

それでどうするの?

――先輩経営者から学ぶことでご自身のリーダーシップにどんな影響がありましたか。

「一つは、目標を高く持つことを意識するようになりました。目標を高く置けば、大概みんな『無理』って言います。できないことだらけですから。でも、それが『できない』で終わったら、イノベーションが起こらず、企業は成長できない」

「だから、できない理由を言うのではなくて、どうやったらできるかを考えないといけないし、行動しないと意味がない。そのことを肝に銘じるようになりました。社員にも『評論家になるな』というのは常に言っています。『○○は難しいんです』と言われると、『それでどうするの?』って聞き返しますね」

「もう一つは、本来の目的を忘れない、ということです。マネーフォワードで言えば、それは『ユーザーのお金の課題を解決すること』。競合を意識しすぎたり、短期的な売り上げ増など目先のことにとらわれてはいけないなと。例えば去年1月に開始した『MFクラウド経費』というサービスは、月末の経費精算業務を楽にするプロダクトですが、精算のほぼ完全な自動化と、スマホですべてのプロセスが完結することに、とことんこだわっています」

「スマホでできるのは途中まで、承認や申請作業は従来通りパソコンで、などという中途半端なものにならないように、ひたすらチャレンジし続ける。既存のサービスについても『ここまででいい』と線を引くのではなく、新しいアイデアを常に出し続けていく。そういう本質を追い求める姿勢、ぶれない姿勢を社内はもちろん、社外にも発信していくのがリーダーの役割だと思います。伝え続けていると、思わぬヒントや助けを得ることもできますから」

辻庸介
1976年大阪府生まれ。京都大学農学部卒後、ソニーに入社。2004年マネックス証券に出向(その後転籍)。ペンシルベニア大学ウォートン校にMBA留学を経て2012年、マネーフォワードを起業。

(石臥薫子)

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