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投資道場

米インフラは60歳代!? 日本からの投資余地は大きい 世界のどこに投資する?(2)米国・後編

2017/6/9

 「資産の海外分散が大事と言われても、世界のどこに投資すればいいのか?」と悩む日本の個人投資家のために、世界経済の最新動向とプロのアドバイスをまとめる本連載。前回の「海外投資ならまず米国 指標良好、成長が持続」では米国経済の指標面での良好さと政治動向を確認し、高格付け債市場について海外のファンドマネジャーから助言をもらった。後編でも運用のプロに取材しつつ、世界的な視野から見た米国資産のとらえ方、トランプ大統領が力を入れるインフラ投資の現状と可能性について考える。

■狙いは米国株、ドル高は進まず

 最初に話を聞いたのはUBS証券の青木大樹・最高投資責任者(日本)だ。青木氏は日ごろ、国内外の為替や債券の動向をウオッチしており、海外投資家に日本経済を、国内富裕層に海外経済の最新状況を伝えている。

――米国経済の成長は持続するか。

 「米国の主な景気指標を見ると、強弱が交錯している側面がある。企業の景況感指数は大きく回復しているのに対し、賃金上昇率や貸し出しの伸びは足元で鈍化する傾向が読み取れる。米国の実質GDP(国内総生産)成長率は2016年は1.6%だったが、今年は2%台後半で推移すると見ている。1%台にまで落ち込む可能性は低いだろう」

UBS証券の青木大樹・最高投資責任者(日本)

 「米連邦準備理事会(FRB)は利上げを進めていくはずだ。今年は3月に利上げを実施済みで、年内はあと2回(6月、9月)実施すると見る。来年はバランスシートの縮小を進めるが、利上げは2回程度にとどまる可能性もある。過度に利上げを進めれば設備投資の伸びを抑制するので、経済成長率が押し下げられるリスクもある」

――米国が2%台の経済成長を実現するなら、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の観点から円安・ドル高が進むと見るべきか。

 「答えはノーで、円安・ドル高は進みにくい。1年後の円相場は1ドル=110円前後と予測している。2年債利回りは最近2年間で0.6から1.3%(5月19日時点)に上昇したが、長期金利の指標の10年債利回りは2.0から2.3%(同)と、上昇幅が小さい。過去の経験則からも、10年債利回りが上昇していかないとドル高の流れにはならない傾向がある。米国が利上げのペースを速めるとは考えにくいので、10年債利回りが3%まで上がるとは予想しにくく、18年にかけて横ばい圏で推移すると見ている」

――トランプ大統領の経済改革は進むのか。

 「最大の焦点は法人税減税が実現できるかどうかだ。税率の35から15%への引き下げを掲げているが、『財政中立』を守らなければならず、せいぜい25%までの引き下げにとどまるのではないか。規制改革の中身が見えていないのも気がかりだ」

――米国投資に関して、個人投資家にはどのような運用姿勢を勧めるか。

 「現在、米国株式はニュートラルとしているが、製造業からサービス業へのシフトも進んでおり、ヘルスケアや教育、外食といった業種は有望だ。ただしトランプ大統領の政権運営に伴うリスクも無視できず、改革の動向にはしっかり目配りする必要がある。ドル高は進みにくいと見ているので、現段階では米ドルへの投資は推奨していない」

 「むしろ注目したいのは欧州だ。ユーロ圏の経済成長率は回復傾向にある。欧州中央銀行(ECB)も量的緩和の縮小に動き出すだろう。足元では1ユーロ=1.12ドルだが、1年後には1ユーロ=1.2ドルまでユーロが強くなると予想している。ユーロの通貨と株式は今後1~2年間は魅力ある投資対象になるだろう」

■インフラ改修で高水準の投資続く

 続いて大和証券投資信託委託の東根裕シニア・ファンドマネージャーに話を聞いた。東根氏は米国インフラ関連の投信「米国インフラ・ビルダー株式ファンド」の運用を担当している。

――米国経済の現状と見通しはどうか。

 「米景気は回復・拡大傾向にある。17年1~3月期の実質GDP成長率は1.2%と、16年10~12月期(2.1%)に比べ減速したが、その内訳(寄与度)に注目したい。これまでは個人消費のみが米国の経済成長をけん引していたが、設備投資もプラスに寄与するようになった。消費一本足でなく、投資にも火がついたということだ」

大和証券投資信託委託の東根裕シニア・ファンドマネージャー

 「16年7~9月期以降、米国の企業業績は増益基調に転じている。原油価格の回復でエネルギー企業の業績が復調しているほか、競争力の高い情報技術(IT)企業、M&A(合併・買収)ビジネスも好調だ。その上、住宅販売件数などの指標も堅調だ。実質GDP成長率は17年後半、18年とも2%台後半の高水準を維持すると見ている」

――トランプ大統領はインフラ投資の額を年1兆ドルとしている。実現するのか。

 「額はさておき、インフラ投資は高い水準が続きそうだ。利上げを進めているとはいえ、いまだ金利は低く、企業にとっての調達コストは低い。トランプ大統領は大統領選のときから『雇用を取り戻す。老朽化したインフラを維持・改修する』と強調してきた。米議会で法人税減税など税制改正も含めた措置が議論されているが、インフラの質が欠如したままではさらなる成長は望めない。ビジネスマンでもあるトランプ氏はかねて『経済成長は重要』と指摘しており、高水準のインフラ投資を進めるのではないか」

――米国のインフラは、そんなに実態が悪いのか。

 「米国は先進国なので、インフラも先進的というイメージがあるかもしれないが、実際は道路上の白線が消えかけていたり、所々に陥没があったりと、老朽化は深刻さを増している。公共インフラは1950~60年代に造られたものが多く、国土も広大で修繕がなかなか進まない。一方で人口は増加しており、物流の面からもインフラは重要度を増している」

 「インフラ投資は各州に委ねられており、カリフォルニア州議会は4月、ガソリン税を中心とした増税で投資財源を確保する法案を可決した。同州では道路が整備不良なせいで、ドライバーが自動車修理などに年700ドル超も負担しているとの試算があるという。オクラホマ州、サウスカロライナ州など他の州でも道路インフラ関連のプロジェクトが進んでいる。橋梁で有名なのはジョージ・ワシントン橋。ワイヤの老朽化で崩落の危険性があり、ニューヨーク港湾局はワイヤの取り換え工事に約10億ドル投資する方針だ」

 「またトランプ大統領は、中断していた『キーストーンXLパイプライン開発計画』を認可した。カナダからメキシコ湾岸までの総延長4500km超の区間をパイプラインで結ぶもので、カナダ産原油の輸送コストの低減が期待される。同大統領がインフラ投資に本気である様子がうかがえる」

――ご自身が担当している「米国インフラ・ビルダー株式ファンド」の運用状況は。

 「このファンドは電力・通信会社などではなく、機械・リースや建設・土木などのインフラ工事に直接かかわる部分の株式に投資している。米国経済の中の一部の業界を中心に投資しているため、米国株価指数に比べればブレが大きくなりやすい側面はある。ただし米インフラ問題は中長期的に解決が必要なテーマであり、投信の存在意義はあると考えている」

◇  ◇  ◇

 2人の話を総合すると、意外に進みにくい円安・ドル高、危うい法人税減税などの問題はありそうだが、トランプ氏の公約のインフラ投資を中心に、まだ米国には潜在的な成長余地(=日本からの投資余地)が多くあると言えそうだ。

(マネー報道部 南毅)

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