「理想の上司」が若年化、カリスマ型から伴走型に編集委員 小林明

松岡修造さんは2017年度「理想の上司」(産業能率大学調べ)で3年連続首位
松岡修造さんは2017年度「理想の上司」(産業能率大学調べ)で3年連続首位

毎年発表される新入社員が選んだ「理想の上司」(産業能率大学調べ)。ランキング上位の顔ぶれを眺めると、社会心理や時代状況の興味深い変化が浮かび上がってくる。最新の2017年度の「理想の男性・女性上司」の動向を分析するとともに、過去20年間の上位ランキングの変遷を追いかけてみた。

■男性上司は「松岡修造・マツコ」、熱意や愛がある指導に支持

産業能率大学は今年3月から4月にかけて新入社員523人を対象に2017年度の「理想の上司」を書面でアンケートし、436人から有効回答を得た。

まずは「理想の男性上司」から見てみよう。

ランキングでは元テニスプレーヤーの松岡修造さんが3年連続で首位、女装タレントとしてテレビや雑誌などで活躍するマツコ・デラックスさんが昨年に続いて2位を維持した。どちらにも共通しているのは、厳しいが熱意や愛のある指導への評価の高さ。松岡さんについては「熱心に後輩に向き合ってくれそうだから」、マツコさんについては「愛のある説教をしてくれそうだから」などの感想が寄せられた。

マツコ・デラックスさん

トップテンの顔ぶれで特に目立つのは、親しみやすさや温かさが感じられる兄貴分的な存在の上司。

共演者をうまく引き立てることで定評があるタレントの内村光良さん(6位)、コミカルな演技で人気急上昇の個性派俳優、ムロツヨシさん(9位)が初のトップテン入りを果たしたのもそのためとみられる。プロサッカー選手の長谷部誠さん(4位)、ほんわかした優しさが魅力のタレントの城島茂さん(6位)も後輩に対する身近さが持ち味だ。

女性上司は「水卜アナ」、7年連続「天海」時代に幕?

「理想の女性上司」はどうか。

大きなニュースは首位に君臨してきた女優の天海祐希さんが3位に落ちたこと。7年続いた「天海」時代が途切れ、前年度2位だった日本テレビアナウンサーの水卜麻美さんが初めて首位に輝いた。水卜さんは「丁寧に後輩を指導してくれて面倒見が良さそうだから」など誠実で対人関係を大切にするイメージが支持を集めたようだ。

「男性上司」と同様に温かさや親しみやすさ、身近さをより重視する風潮が見て取れる。

吉田沙保里選手
澤穂希さん

2位のレスリング選手、吉田沙保里さん、4位の元サッカー選手、澤穂希さんも後輩を温かく励まし、指導する姉貴分的な姿勢が評価された。人気ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)の出演などで再ブレーク中の女優、石田ゆり子さん(5位)や天真爛漫(らんまん)な“天然ぶり”が人気の女優、綾瀬はるかさん(7位)、お笑いタレントのいとうあさこさん(7位)らが初めてトップテン入りしたのも後輩や部下への親近感が決め手になった。

混迷時代は「カリスマ型」、アベノミクス景気は「伴走型」

「数年前までは就職難の混迷の時代で強さや冷徹さを持ち合わせる『カリスマ型』の上司を求める風潮が広がっていたが、アベノミクス効果などで景気が徐々に上向くにつれ、熱意や愛に満ちた『伴走型』の上司に支持がシフトしているようだ」と産業能率大学は分析する。

イチロー選手

たとえば「理想の男性上司」だと「松岡修造」時代が到来するまでは、大阪府知事・大阪市長を歴任した弁舌鋭い弁護士の橋下徹さん、野球道を黙々と貫く米大リーガーのイチローさん、国際情勢や社会問題を幅広く解説する池上彰さんらが首位に名を連ねていた。

教えを請う→チームワーク重視、雲の上より身近な上司

自分により身近な存在として向き合ってくれる「伴走型」の松岡さんに比べて、橋下さんもイチローさんも池上さんも人生を生き抜く卓越したスキルを持つ「カリスマ型」。どちらかというと雲の上の憧れに近い存在と言える。

天海祐希さん

「理想の女性上司」でも2016年度まで首位だった天海祐希さんははっきりとした物言いで強い指導力を発揮する「カリスマ型」。一方、2017年度に首位に躍り出た水卜麻美さんは物腰が柔らかく、後輩や部下との距離がより近い「伴走型」。教えを請うというよりも、同じ組織の仲間としてチームワークを重視するイメージが強い。

上司像の若年化が進む、野村・北野・星野(50~60代)→堺・松岡(40代)

さらに面白いのが「理想の上司」の年齢の推移。

比較可能な過去20年間のランキングを見ると、大きな傾向として「理想の上司」の年齢が徐々に若返っている様子がうかがえる。

「男性上司」だと、首位は「調整型」の所ジョージさんが2年連続で首位に立った2007~08年度まで50代~60代以上の「理想の上司」が多かったが、2012年度以降は30代~40代の上司が目立つようになってくる。ランキングのトップテンの平均年齢も50代が多かったが、2013年度以降は40代が続いている。

野村克也さん、北野武さん、星野仙一さんら雲の上の存在だった「理想の上司」が、古田敦也さん、イチローさん、橋下徹さんらの登場で一気に若くなり、さらに堺雅人さん、松岡修造さんと年齢もイメージもより身近な存在へと変化した格好だ。

女性上司の平均年齢40代→30代、「団塊の世代」定年の影響も

「女性上司」も同じ傾向に沿っているようだ。

過去20年間の前半までは、たしかに20~30代の「理想の上司」も入ってはいるが、50代や60代以上の「理想の上司」がかなり多かった。

平均年齢も当初は40代が圧倒的に多かったが、最近3カ年は30代に低下。これは、団塊の世代が大量に60歳の定年期を迎える2007年問題が到来し、ベテランというよりも身近で若い上司像が浸透してきた事情が関係しているためとみられる。

こうした要因を背景に、今の世相を象徴する「女性上司」の水卜麻美さんが2015年度に3位に浮上して以来、2位(2016年度)、1位(2017年度)とグイグイ順位を上げることになったわけ。

ランキングの推移にはタレント・芸能人としてのメディアへの露出度や好感度が大きく影響しているが、今どきの若者の心理や社会情勢も色濃く反映していて興味深い。

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