梶取校長は「生徒には『いいオタクになれ』と言っています。ノーベル賞級の研究者は、寝ないで研究に没頭してオタクみたいな人が多いが、外部の人と議論したり、協力しないと研究は実らないでしょ」と話す。武蔵には、「いいオタク」になるための環境が整っているという。梶取校長に校内を案内してもらった。

中庭にヤギがいる

武蔵の中庭にあるヤギの小屋

同じ敷地内には武蔵大学もあり、面積は7万平方メートルと広大だ。深い緑の森に包まれ、小川や池もある。「メェー、メェー」とうるさい声が聞こえるので、左手を見ると中庭にヤギの小屋があった。「数学の先生の発案です。動物が生まれ、出産して死ぬ、『命の大切さ』を教えるのが狙い」という。

校舎を抜けると、広々とした人工芝の2つのグランドが見える。図書館も大きく、専門書が並んでいる。ところで職員室はどこですかと問うと、梶取校長は「職員室はないですね」と一言。「教員が集まって情報交換する控え室はありますが、そこに各教員の机はありません。各教員は英語、数学など学科ごとに分かれた研究室をベースにしています。これも旧制高校の名残なんです」と話す。

武蔵の最大の特長が旧制高校から継承した独自の校風だ。旧制高校というのは、現在の大学の教養課程に相当する高等教育機関。当然、職員室はなく研究が主体だ。武蔵の専任教師は約50人だが、いずれも専門分野のある研究好きな先生たちだという。生徒はそれぞれの研究室を訪ね、雑談したり、質問したりするが、専門分野の研究に目覚める生徒も少なくない。

太陽観測部の先輩後輩 JAXAで再会

武蔵の校舎屋上にある天体望遠鏡

校舎の屋上に面白いクラブがある。「太陽観測部」だ。約80年にわたり、太陽黒点の観測を続けており、狭い部室には10人前後の生徒が集まり、機器をいじっていた。高価な天体望遠鏡もある。

太陽観測部は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)幹部を次々輩出している。「10年に(小惑星探査機の)『はやぶさ』が地球に戻ってきましたが、JAXAの3人の幹部がいずれも武蔵の太陽観測部の先輩後輩だったと話題になった。はやぶさのエンジン開発を主導した(JAXA宇宙科学研究所教授の)国中均さんは、本来はなくても構わないような部品を組み込んでいたそうなんです。それが奏功して戻れたというような話を聞きましたが、そんな発想が武蔵らしいなと感じましたね」と梶取校長は話す。

3人の進学先は、国中氏が京都大学、JAXA宇宙科学研究所教授の佐藤毅彦氏が東京理科大学、JAXA広報部長の庄司義和氏が一橋大学と別々だったが、その後、JAXAで再会した。庄司氏は「実は僕は文系だったんですが、土日も太陽を観測していましたね。毎日太陽観測していたのは全国でうちと諏訪清陵高校(長野県)ぐらいだったのでは」という。

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