投書マニアの小学生 バイト感覚で図書券を換金して…
立川笑二
師匠と兄弟子の吉笑とともにリレー形式で連載させていただいているまくら投げ企画。23周目。今回の師匠からのお題は「アルバイト」。
私は小学5、6年生の頃、よく新聞に投書をしていた。
当時は投書が新聞に掲載されると、新聞社から図書券をいただくことができて、それを親が現金に換金してくれていたからだ。
アルバイト感覚で投書しているなんて、全くもってかわいげのない子供だ。
今回のお題を受け、国会図書館へ出向き、過去の新聞の中から掲載されている当時の自分の投書をいくつか読んでみて思い出したことがある。23周目。えいっ!
色々と見つけた中で、まず、地元紙に掲載されていた投書。
◇ ◇ ◇
「ぜったいになるぞ先生に」小5・知花弘之(読谷村)
ぼくの夢、それは、小学校の先生になることだ。なぜなら学校の先生は、子どもに夢をあたえることができるからだ。それとぼくたちの先生は、みんなを笑わすし、授業でわからないところは、ちゃんとわかるようになるまで教えてくれるし、やさしくもある。しかし、おこるときはとてもこわいから性格の悪い人は、良くなり、よい人はもっと良くなる。だから、ぼくもそんな先生になって、ぼくに教えられた生徒は、社会に出てもいい大人になり、今よりずっといい世の中にしたいという気持ちもある。
そしてぼくは、今からいい先生になるためにやらなければならないことが一つある。それは、今の担任の先生の教え方を良く見て覚えておくことだ。今の担任の先生はおしえる時は完ぺきになるまで教えてくれるから、こういうチャンスは、めったにないのだ。今のうちにこの先生の教え方をしっかり覚えておくのだ。
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将来の目標を断言し、具体的になにをすべきか考えているあたり、イチローが小学生のころに書いたという有名な作文と似ているが、教師ではなく落語家になり、「働かなくても生きていけるなら働く必要はない」と高座で言う大人になってしまっているところに、イチローとの雲泥の差がある。
というか、そもそもこの投書自体、イチローの作文を踏襲して書いたのを覚えている。かわいくない子だ。
この投書の前にも3つほど別の投書が地元紙に掲載されていたのだが、この投書だけ、たまたま当時の担任の先生の目についたのか、クラスの皆の前でほめられた記憶もある。
当時の私は、
「お金をもらって、ほめられちゃった」
と思っていたのだから、本当にかわいくない。
そしてこの時期から私は、地元紙ではなく全国紙にも投書するようになった。
その理由は、地元紙なら掲載されてもらえる図書券が千円分だが、全国紙ならそれが3千円分だと知ったから。どこまでかわいくないのだろうか。
ただ、全国紙ともなると競争率は激しいこともあり1度しか掲載されることはなかった。そのときの投書がこちら。
◇ ◇ ◇
「本当におこる先生は世界一」小学生 知花弘之(沖縄県 12歳)
3学期が始まった。3学期は、一番早く終わるが、一番さびしくなる学期でもある。
ぼくたち5年4組の先生は、1年の約束で来たというけど、もう3年以上もいる。先生は「そろそろてんきんの準備しないと」といっている。
でも正直いって、ぼくは先生にいなくなってほしくない。なぜなら、授業中わからないところは、かんぺきになるまで教えてくれるからだ。
それに、おこるときは本当におこる。だから、先生のクラスにまたなりたい。なれなくても、先生がいれば、この学校はぜったい世界一になれると思う。
でも、先生は、いなくなるかもしれない。だから、ぼくだけじゃなく、クラスみんなにとっても、先生といっしょにいられるこれからの1日1日、そして1時間1時間がとても貴重な時間だ。その時間を大切にしていきたい。
◇ ◇ ◇
これが掲載されたことで3千円を手に入れた私は、そのお金で、小学生が吸ってはいけないものと飲んではいけないものを買ってしまう。
そして、それを学校に知られてしまい、本当におこる先生から本当におこられた。
それからというもの、あれほど「大切にしたい」と書いていた「1日1日、1時間1時間」を早く終わってくれと願いながら過ごすようになったのを覚えている。
当時の自分に会えたら言いたい。
ざまぁみろ!
(次回6月18日は立川吉笑さんの予定です)
1990年11月26日生まれ。沖縄県読谷村出身。2011年6月に立川談笑に入門。前座時代から観客を爆笑させ評判に。14年6月、二つ目に昇進。出囃子は「てぃんさぐぬ花」。立川談笑一門会のほかにも、立川吉笑、立川笑坊ら一門、立川流の若手といっしょに頻繁に落語会を開いて研さんを積んでいる。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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