『君の名は。』の上白石萌音 軸は「真っ白な自分」
2017年の「タレントパワーランキング」女優部門の急上昇ランキングで8位に入り、若手トップクラスの成長を見せたのが19歳の上白石萌音だ。
日経エンタテインメント!が年1回発表している「タレントパワーランキング」は、アーキテクトが3カ月に1度実施している、タレントの「認知度(顔と名前を知っている)」と「関心度(見たい・聴きたい・知りたい)」の調査を基に、2つのデータを掛け合わせて「タレントパワースコア」を算出、ランキング化したものだ。(調査の詳細は総合編の「タレントパワー、マツコが連覇 新垣、星野が急浮上」をご覧ください)
上白石萌音は11年の「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞し、14年の『舞妓はレディ』で映画初主演。タレントパワーのスコアが急上昇したのは16年8月以降。アニメ映画『君の名は。』でヒロイン・宮水三葉の声を担当したのがきっかけだ。
「『君の名は。』は、オーディションで台本を読んだ時から、『すごいものができるな』という胸騒ぎがしていたんです。でも受かる自信なんてなかったので、『絶対、劇場に見に行かなきゃ!』と楽しみにしていて(笑)。そんな作品でヒロインをやらせていただき、作品の人気が広がっていく様子を見た時は、夢見心地を通り越して、他人事みたいな感じでした。
三葉を演じて学んだのは、声のお仕事は繊細だということです。例えば、息を鋭く吸うのか、柔らかく吸うのか、それだけでもセリフの意味や伝わり方が違ってきます。だから一瞬たりとも気が抜けないし、役に入っていないと筒抜けの世界。ひたすら三葉に寄り添って、『あなたに入り込みたい』という一心で演じました」
上白石の武器といえるのが、透明感のある声と表現力。それは歌手としても生かされることとなった。16年10月にCDデビューすると、『君の名は。』の主題歌の1つ『なんでもないや(movie ver.)』のカバーなどがチャート上位を席巻。歌番組にも多く出演し、認知をさらに高めた。
また11月公開の出演映画『溺れるナイフ』がスマッシュヒット。『君の名は。』のイメージを覆すような役柄で、女優として新境地を見せた。
親近感を担える女優へ
「歌手デビューは、まさかまさかの夢のようでした。『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に初出演した時は、寿命が縮まりそうなくらい緊張しましたね(笑)。でも、もともと歌は大好きな趣味でしたし、『声が好き』と言ってくださる方も多いので、歌手活動も大切にしていきたいです。
『溺れるナイフ』は、今までにない表情を求められました。私は方言を話すどんくさい女の子の役が多くて(笑)、この映画でも前半はそうなんです。でも後半になると、性格が変わって狂気を見せる。その静かに燃えるものをどう表すか葛藤して、最終的には『目に込める』をテーマに演じました。『見る人を気持ち悪がらせたい』と演じたので、『君の名は。』を見た方は『三葉がっ…!』とショックを受けたかもしれません(笑)」
激動の16年を越え、17年1月からは『ホクサイと飯さえあれば』で連ドラ初主演。4月からはレギュラーでテレビ番組のナレーションや、ラジオのパーソナリティーまで務める。急速に仕事を広げる一方で、大学生活も送る日々だ。
「仕事の幅が広がることに対しての怖さもありますが、常に1本軸を通しつつ、でも視野は広くという姿勢でいられたらと思っています。私の軸は、田舎に暮らしていた頃の、何者でもなかった自分。『舞妓はレディ』の時に、富司純子さんから『常に真っ白でいなさい』という言葉をいただいたんです。その言葉通り、作品ごとに新しい色に染まり、終わったら心のお洗濯をして真っ白な自分に戻りたい。そのためにも大学に通って、学食で食べて、という生活があることがすごく大切だと感じます」
上白石の支持層は10代~20代の女子が特に高く、50代~60代の女性が次ぐ。イメージワードは「素直そう」など親しみを感じさせるものが高ポイント。同年代は「友達になりたい」、親世代は「娘にしたい」という存在のようだ。今後、欲しいイメージワードは?
「『友達になりたい』とか『話をしたい』とか、親近感を持ってもらえる言葉がうれしいですね。それは女優さんというキラキラしたイメージからいうと、逆かもしれません。でも、そういう演技ができる女優さんが素敵だと思うし、映画やドラマにはきっと、身近に感じられる部分が1カ所は必要だと思うんです。そこを担って、お客さんを突き放さない。見る人に近くに感じてもらえる演技や歌を歌っていける人になりたいです」
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2017年6月号の記事を再構成]
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