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旭山動物園、坂東元の伝える命

旭山動物園、次の50年へ挑戦 認め合う「共生飼育」

2017/6/11

テナガザルとキョン(小型のシカ)の共生展示(桜井省司撮影、提供:株式会社LEGION)

 開園50周年の夏期開園も無事にスタートしました。協賛商品を開発したり、記念の年だからと企業からご寄付をいただいたり、手作りイベントを企画・準備したりで例年になく、忙しい日々が続いています。改めて、多くの方の支援でここまでこれたのだと実感しています。

■旭川市が消滅しても動物園は存在するほどの覚悟

 記念の年だからといって、大きな施設のオープンがあるわけでもないのですが、50年の歴史を市民と共に振り返り、旭山動物園が存在することの意味を問いかけていきたいと考えています。旭川市の人口は確実に減少し続け、高齢化も進みます。公共のサービスや施設は引き算の時代を迎えざるを得なくなります。その時公立で運営している動物園とは何なのかの本質が問われるでしょう。

 動物園は命を預かっている場所でもあります。カバの寿命は40~50年、旭山の百吉はあと40年は生き続けます。40年後まで責任を持たなければいけません。たとえ旭川市が消滅しても旭山動物園は存在しなければいけない、くらいの覚悟を持たなければいけません。動物園を存続させるために、運営の面から財源の多元化を真剣に具体化していかなければいけないと考えています。

 さて、旭山動物園では平成9年から始めた老朽化した施設の建て替えがほぼ一巡しました。これからはリフォームの時代を迎えます。目的は動物たちの暮らしをより豊かにすること、来園者の心に優しさや喜びや新鮮な驚きを届けること、なにより自然の玄関口として、野生動物の本質の発現を具体化することです。今年ニホンザルの「さる山」のリフォームをしました。メインはニホンイノシシとの共生(共存)飼育です。残念ながらニホンイノシシの導入が遅れているので現時点で具体化はしていないのですが、イノシシの寝室の増築を行いました。

中南米に生息しているクモザルとカピバラの共生展示(桜井省司撮影、提供:株式会社LEGION)

 動物園ではどうしても1種類ごとに飼育し展示することが多くなりますが、本来自然の中では多種多様な生きものが空間(環境)を「共有」して生きています。よく森の中では「たくさんの生きものが仲良く暮らしています」といった話を見聞きしますが、皆が仲良く生きているわけではありません。小鳥たちは今晩自分の命を奪って食べてしまうかもしれないフクロウと空間を共有して生きているのです。

 動物たちは基本的に自分にとって不都合な生きものでも排除ではなく、存在を「認め合う」生き方をします。僕が動物たちにすばらしさを感じる原点の一つでもあります。生態系、食物連鎖といった言葉の本質は、大きな循環の輪の中で多様な種が多様な生き方を認め合うことなのだと思います。それは優れている劣っている、正しい間違っている、好き嫌いということではないのです。自然は調和とバランスです。

 私たちの社会が全体から個の時代になる中で、ヒトはどんどん認め合えなくなっているように思います。

 認め合うことは、ヒトが生態系の中の一種から抜け出しヒトという一種類にだけ通用する勝手な価値基準を構築する過程で忘れてしまった生きものとしての基本、大切な感性なのかもしれません。

■共生飼育を積極的に進める

 旭山動物園では、動物が本質的に持つ「認める」という感性を引き出し、より多様な動きや感情の発現の機会が生じるとともに、来園者には自然や野生動物の本質を感じてもらえるよう、共生(共存)飼育に取り組んでいます。展示効果という点からも共生させるのは、生息地域が同じ種同士としています。

 とはいえ飼育下という不自然で圧倒的に狭い閉鎖環境の中で、本来の習性や感性を導き出して共生させるのは簡単ではありません。興味関心の対象がお互いに一種類しかいないことで過度な関心が高まり、どちらかがストレスを受け続けることにもなりかねません。

マルミミゾウ(平成18年死亡)とペリカン(提供=板東元)

 共生展示の効果を如実に感じたのは、マルミミゾウとペリカンの同居でした。本来母系集団をつくり社会性の強いマルミミゾウのメスを単独で飼育していたため、行動が単調になり感情が働く機会がほぼない状態でした。放飼場にプールがあったので、ペリカンの同居を試みました。ゾウだけのときはプールの水を飲みに行くときに直線で動いていたのが、同居を始めるとペリカンがプールの縁にいると、鼻を伸ばしてペリカンに近づく。ペリカンは「そばに来るな」と大きな口を開け、威嚇してきます。するとゾウはペリカンを追い払おうとせず、ペリカンがいない側に回り込み、水を飲むようになりました。ペリカンの側も、不必要にゾウに近づくことはありませんでした。明らかに、それぞれ単独で飼育していたときとは違う行動をするようになりました。常にお互いを意識しつつ、適度な間合いを保ち、時に譲り、時に相手の反応を確かめるといった行動をとるようになりました。けっして仲良くということではありません。我を通せるはずのマルミミゾウの方が、ペリカンに気を使うようになったのは印象的でした。

 それぞれの種が自分らしくできる環境を用意し精神的にゆとりが生まれることが、共生を成功させる条件です。旭山ではテナガザルとキョン、クモザルとカピバラ(現在はカピバラが老衰で死亡したために行えていませんが、夏ごろまでに新たな個体を導入し、再開する予定です)、キリンとペリカン・ホロホロチョウ、アザラシとウミネコなどの共生飼育を行っています。今後はニホンザルとイノシシ、オランウータンとボルネオカワガメなどチャレンジを続けていきたいと考えています。

坂東元
 
1961年旭川市生まれ。酪農学園大学卒業、獣医の資格を得て86年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働く。動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」のアイデアを次々に実現し、旭山動物園を国内屈指の人気動物園に育てあげた。2009年から旭山動物園長。

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