どうする老親の財産管理 代理人になり金融機関と取引判断能力の有無で「任意代理」か「成年後見」

2017/6/10

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任意代理、成年後見の届出書類
任意代理、成年後見の届出書類

親が年老いて要介護になったりすると財産管理にも手伝いが要るが、老人ホーム入居金などの大金は通常、ATMでは取引できない。いざという時にあわてないよう、子どもが正式に親の代理人になる手続きを知っておこう。

東京都の主婦Aさん(52)は近所に暮らす80歳代後半の両親の銀行キャッシュカードを預かり、暗証番号も聞いてATMでお金の出し入れをしている。両親ともに要介護でAさんやヘルパーの付き添いがないと外出が難しいからだ。ATMは1日50万円まで引き出せるので生活費には十分だが、父親が入居を考えている有料老人ホームの入居一時金は数百万円にのぼる。

「ATMに何日も通わないといけないの?」と不安になって銀行に問い合わせたAさんに担当者が勧めたのが「任意代理」の手続きだ。キャッシュカードと暗証番号で本人のお使いとして取引するのではなく、正式に父親の代理人となる仕組みで、数百万円の引き出しや振り込みも銀行窓口に出向いて1回でできる。

Aさんが父親の銀行取引を任意代理するには、まず「どんな取引を、どのくらいまで代理できるのか」を父親が決め、それを委任状にしなければならない。「預金口座からの引き出しと振り込みを1回300万円まで」といった具合だ。父親にこれを判断する能力がなければ任意代理の仕組みは使えない。

判断能力が十分でも委任状のような法律的な文書の作成は慣れない人にとって簡単ではない。そこで多くの銀行では委任状と銀行への届け出書を兼ねる「代理人届」のひな型を用意している。記入はそれほど難しくはない。親の預金口座番号などを書き、口座の届け出印を押す形式になっている。三井住友銀行は「1回の出金限度額」も届け出る。

証券会社での株式取引も子どもが代理人になれる。野村証券では定められた届け出によって現物取引の銘柄や売り買いの時期、価格まで子どもが判断できるという。ただし、信用取引やデリバティブ取引など損失リスクの大きい取引はできない。

認知症などで親の判断能力がかなり低下している場合は「成年後見制度」が選択肢になる。たとえ親の銀行口座や届け出印が分かっていても子どもだけで任意代理の手続きを進めるのは禁物だ。原則として銀行も証券会社も届け出を受理するときに、取引口座の名義人である親の意思を電話や面談などで直接確認している。

成年後見は認知症や精神障害、知的障害で判断能力の低下した本人に代わり、子どもなどが「成年後見人」になって財産管理をするものだ。親のために使うには、まず子どもなどが家庭裁判所に申し立てる。

親の判断能力のレベルに応じて「後見」「保佐」「補助」の類型が決まり、最も子どもの権限が大きい後見では、預金の出し入れや株式売買などはすべて子どもだけで判断できる。

親の銀行口座の管理を心配する子どもは多い

ただし、成年後見はあくまで親のための制度なので、子どもが自分のために親の財産を使うことは許されない。おおむね年1回、家裁に財産の動きや収支を報告することも義務づけられる。親の生活の拠点である自宅を売却するには事前に家裁の許可を取らなくてはならない。

だれを後見人にするかは家裁が決めるため、子どもが後見人になれるとは限らない。親に多額の財産があり、子ども同士の仲がよくない場合などは、家裁が弁護士など第三者を後見人に選ぶことがある。後見人の地位を悪用した使い込みなどを警戒するからだ。これが気に入らないという理由で申し立てを取り下げることは原則できない。

法律の専門家が後見人になると、月2万~3万円ほどの報酬を親の財産の中から負担することになる。不動産の売却など後見人が大きな取引をした場合には、家裁が認める範囲でさらに報酬が上乗せされる。

(後藤直久)

[NIKKEIプラス1 2017年6月3日付]