「でも、そうすると、人生の半分を占めるであろう働く日々が、死ぬほど苦痛に満ちた日々となってしまうわけです。そんな考えが前提にあれば、『俺はカネを稼ぎにきているだけだから仕事中はどんな服でもいい』『スーツは着ろといわれているから嫌々着ているだけだ』となって当たり前ですよね。嫌なことにカネをかけたくないし、何も考えたくない。そうなるでしょう」
「私はそれが嫌だった。昔から仕事は大好きだったしね。30歳を超えたあたりから、『仕事以外の自分のプライベートなライフスタイルも仕事も充実させたい』と、睡眠時間をガンガン削ったことはあったんだけど(笑)。仕事も遊びも、毎日死ぬほどやり続けたことはあったけど、仕事も私のなかではライフの一つだからね」
「仕事でもほかのことでも、『やらされている』という気持ちでやっているものは一つもない。だから、一つ一つはしんどいけど、仕事も楽しい。しんどくても自分のために、楽しくてやっている」
■スーツは高いものを選べ そうすればそれに見合う男になれる
「くだらないんですけど、学生のころから、直木賞作家の藤本義一さんがダンディーで格好いいなと思っていて。彼も私と同じ、関西出身だったしね。藤本さんが、たしかエッセーだったと思うんだけど、『スーツは、高いものを選べば選ぶほどいいんだよ』と書いていた。人間は、その服装に似合う人間に必ずなるから、限界までスーツや服で高いものを買えば、それに見合う男になれる、とね。単純に『なるほど、格好いいな』と」
「それで、就職すると給料をひたすらためて、2カ月分がたまったときに、そのお金でスーツを買いました(笑)。最初は父親に買ってもらった3万円くらいのスーツを着て会社にいっていたんだけれど、『これじゃあ、だめだ』と。『3万円分』の男にしかなれないから。ただ、1着しか買えなくて結局1年間、毎日同じ服をきていました。けれど、すごくいい買い物だったと思っています」
「働くうちに『スーツは戦闘服だ』と思うようになった。私はコンサルティングの仕事をしていたから、外に出てお客さんと話すときに、スーツは本当に重要なアイテムだなと思ったね。第一印象を決めるときに服装は重要だし、牧野は『こういった格好にしている』という個人のブランディングにもなるから。スーツに関してこだわるようになったのは、そのあたりかな」
(聞き手は松本千恵)
後編「上着は絶対に脱がない 『シャツは下着だから』」もあわせてお読みください。
「リーダーが語る 仕事の装い」は随時掲載です。

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