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ピアニスト福原彰美とハイフェッツの高弟

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ピアニストの福原彰美さんが欧米の著名演奏家と共演を重ねている。15歳で単身渡米し、コンクール出場ではなく、室内楽のピアノ伴奏など実演が評判となり、世界一流の弦楽奏者たちに信頼され築かれた絆だ。20世紀最高のバイオリニストといわれるハイフェッツの高弟らとブラームスの「ピアノ四重奏曲第1番」を練習する現場を訪ねた。

5月15日、東京都渋谷区のスタジオリリカに2人の高名な演奏家が集った。米国人チェリストとして唯一チャイコフスキー国際コンクールで優勝したナサニエル・ローゼンさん。もう一人はフランス屈指のバイオリニスト、ピエール・アモイヤルさん。2人とも米ロサンゼルス市の南カリフォルニア大学でヤッシャ・ハイフェッツ(1901~87年)に学んだ仲だ。「ピエールはハイフェッツの門下生の中でも特に優れた学生だった。ハイフェッツの猿まねをしなかったからだ」とローゼンさんは親友をたたえる。ハイフェッツに師事しながらも自身の演奏スタイルを貫いたアモイヤルさんは「偉大な教師は自分のまねをさせず、教え子が自らの弾き方を見いだすよう助けるものだ」と恩師をたたえる。

「百万ドル・トリオ」の流れをくむ巨匠らと共演

2人が学んだハイフェッツは、言わずと知れた世界最高と評されるバイオリニスト。ロシア(現リトアニア)生まれのユダヤ人で、ロシア革命を避けて米国に移住し活躍した。「ツィゴイネルワイゼン~ヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリン」など現在CDで残っている録音の数々を聴くと、超絶技巧を要する曲を難なく、遊びを効かせて余裕で弾く姿が思い浮かんでくる。あまりにも楽々と弾けてしまうから、ブラームスの協奏曲やソナタなど重厚さもほしい曲でもやや軽く聞こえてしまう面もあるのが、強いて挙げられる難点といえるくらいだ。ハイフェッツを崇拝するバイオリニストは多い。神尾真由子さんも昨年のインタビューで「絶対に間違わない」演奏と「クラシックの狭い世界にとどまらない、いかにもアメリカらしい」エンターテイナーとしての魅力を語っていた。

今回の映像では、アモイヤルさんが恩師ハイフェッツとの貴重なエピソードを披露している。パリ出身のアモイヤルさんは12歳にしてパリ国立高等音楽院で1等賞を受賞。17歳で渡米し、ハイフェッツの下で研さんを積んだ。一方のローゼンさんは同じ南カリフォルニア大で、ソビエト政権成立後のロシアから亡命したチェリストのグレゴール・ピアティゴルスキーに師事し、ハイフェッツにも学んだ。このピアティゴルスキーとハイフェッツ、そして20世紀最高のピアニストといわれるアルトゥール・ルービンシュタインの3人は「百万ドル・トリオ」と呼ばれる。村上春樹さんの長編小説「海辺のカフカ」では「百万ドル・トリオ」によるベートーベンの「ピアノ三重奏曲第7番《大公》」の音楽が重要な役割を果たすが、そこでのチェリストはエマニュエル・フォイアマン。ピアティゴルスキーは早世したフォイアマンの後を継いだ。ローゼンさんとアモイヤルさんはこの「百万ドル・トリオ」のメンバーの高弟に当たる重鎮なのである。

ハイフェッツの高弟2人はピアニストの福原彰美さんと共演を重ねている。この日は樅楓舎(山梨県笛吹市)の主催による翌5月16日のハクジュホール(東京・渋谷)でのコンサートに向けたリハーサルだった。樅楓舎とは、日本を代表する弦楽器製作者の一人、飯田裕(ゆう)さんを中心とした音楽家集団。今回はビオラ奏者の清水祐子さんも加わり、ブラームスの「ピアノ四重奏曲第1番ト短調作品25」を練習した。清水さんとアモイヤルさんは夫婦で、現在はオーストリアのザルツブルクに暮らす。ローゼンさんも日本人と結婚し、今は山中湖畔の樅楓舎第二工房(山梨県山中湖村)の近隣に住んでいる。映像はこの4人の練習風景を捉えている。弦楽奏者3人はそれぞれ飯田さんの製作によるバイオリンとチェロ、ビオラを弾いている。「すごい先生方と一緒に演奏ができて、自分が1段階引き上げられた感じがする」と福原さんは謙虚に話す。

実演を通じてプロの演奏家に実力が知れ渡る

ではピアニストの福原さんはハイフェッツ門下の巨匠たちとどんなつながりがあるのか。それは共演を通じて実力を認められた信頼関係にほかならない。「彰美さんのピアノは完璧だ。共演者としてほかに代え難い。日本のピアニストは誰もが彼女の才能をうらやむはずだ」とローゼンさんは絶賛する。お世辞ではなかろう。アモイヤルさんも「ブラームスの『ピアノ四重奏曲第1番』は特にピアノが超絶技巧を要するが、我々は素晴らしいピアニストと共演することができて幸せだ」と話す。インタビューが英語だったので、清水さんも英語で「福原さんは一つ一つの音を注意深く鳴らし、クリスタルな響きを出せる。弦楽奏者は彼女の一音一音を聞き取りながら演奏できる」と指摘した。

福原さんは世代的にもハイフェッツの門下生ではないし、南カリフォルニア大の卒業生でもない。14歳でデビューし、15歳で渡米してサンフランシスコ音楽院とジュリアード音楽院に学んだ。在米中に米国の女性チェリストの大御所、クリスティーヌ・ワレフスカさんと共演を重ね、その実力がプロの演奏家の間で徐々に知れ渡っていった。2016年10月には山手ゲーテ座ホール(横浜市)でローゼンさん、アモイヤルさん、それに米国屈指のバイオリン兼ビオラ奏者のポール・ローゼンタールさんというハイフェッツ門下生3人とシューマンの「ピアノ四重奏曲変ホ長調作品47」を演奏した。同じ門下生とはいえ個性の異なる3人の弦楽奏者に対し、福原さんは柔軟なテンポの変化と繊細な音色で伴奏し、要所ではしっかり手綱を引き締めるピアノを聴かせた。非常に速い第2楽章「スケルツォ」では特に、一寸の隙もない精巧な演奏を実現していた。

5月16日のハクジュホール公演ではローゼンさんとベートーベンの「チェロソナタ第3番イ長調作品69」、アモイヤルさんとはグリーグの「バイオリンソナタ第3番ハ短調作品45」も演奏した。いずれも大作で、巨匠2人がそれぞれ個性的で自在な演奏をした。これに対し福原さんのピアノ伴奏は、一貫して研ぎ澄まされた響きを出し、揺らぎが大きい巨匠2人の演奏をしっかり捉え、楽曲の構成美をくっきり浮かび上がらせる役目を果たしていた。ベートーベンの「チェロソナタ第3番」では、ローゼンさんのチェロの音程にやや疑問を持つ部分もあったが、福原さんのピアノは終始引き締まった演奏だった。グリーグの「バイオリンソナタ第3番」でも、アモイヤルさんの柔軟で自由なバイオリンの歌い上げ方に対し、硬質感のあるクリアなピアノの音色とテンポの取り方でバランスを取っていた。

ブラームス「ピアノ四重奏曲第1番」の超絶技巧

ブラームスの「ピアノ四重奏曲第1番」は、哀愁を帯びた薄暗い響きと、激情の吐露が交錯するロマンチックな音楽。リハーサルの映像では、福原さんが弦楽奏者3人の演奏に細心の注意を払いながら、ピアノの音色に繊細な強弱やテンポの変化を付けていく様子が見える。最後の第4楽章での超絶技巧のピアノは圧巻だ。室内楽の中で最高難度ともいえる終結部のパッセージでは、福原さんの正確無比のピアノを聴ける。「最後の部分をもう一回練習しよう」とローゼンさんが号令をかけて、また演奏が始まった。「2回繰り返すには本当に大変な曲なんです」と福原さんは練習後にこぼしたが、弾けてしまうのも事実だ。ハクジュホールでの本公演でも、アンコールでこの終結部をもう一度演奏した。

欧米の演奏家との室内楽の共演を通じて実力で勝ち取った信頼。しかし日本では、ショパン国際ピアノコンクールやチャイコフスキー国際コンクールなど、名だたるコンクールの入賞者をありがたがって話題にするブランド志向が強い。福原さんはそうした国際コンクールに出場してこなかった。加えて彼女は米国を中心に活躍してきたため、日本での知名度が低い。だがコンクールの入賞者やドラマを礼賛し取り上げる風潮は古臭いものとなりつつある。エフゲニー・キーシンさんや小菅優さんらコンクール入賞歴がほとんどないピアニストが演奏経験と実力だけで国際的に活躍する時代になってきたからだ。福原さんも日本でのソロ活動をいよいよ本格始動した。このソロ活動が突破口になりそうだ。

有名コンクール受賞歴なしでも頭角を現す必然性

2月10日、汐留ベヒシュタイン・サロン(東京・港)で開かれたソロ公演「ショパンセンター オールショパン・コンサートシリーズ第3回 福原彰美」。彼女はショパンの「バラード(全4曲)」や「スケルツォ第1、2番」を弾いた。特に「スケルツォ第1番ロ短調」では、細部まで制御された弾き方で感情の揺れ動きをくっきりと描き出した。無機的ともいえるクリスタルな音色が逆に、激烈な悲劇の音楽を浮き彫りにする効果を上げていた。「バラード第1番ト短調」では、研ぎ澄まされた硬質な音色が、速く激しいパッセージの細部にまで行き届いていた。「バラード第4番ヘ短調」では、澄み切った水面(みなも)にさざ波が立つように、分散和音の明確な一音一音のはざまから美しい旋律の模様が物語のように描かれていった。

そして5月下旬、ついに2001年以来の通算3枚目となるソロCDのレコーディングを終えた。ブラームスの「8つの小品 作品76」「6つの小品 作品118」「4つの小品 作品119」を収めたCDとなる。「ブラームスにはオーケストラをイメージしたピアノ曲が多い。先生方の音が耳に残った状態でピアノソロの楽譜を広げると、バイオリンやチェロ、弦楽四重奏の音が聞こえてくる」とアモイヤルさんやローゼンさんとの共演がソロCDの録音の際にもいい影響を与えることを語っていた。知る人ぞ知る彼女の実力が久々のソロCDを通じていよいよ広く知れ渡る可能性が出てきた。有名コンクールの受賞歴なし、現場たたき上げの実力派ピアニストがどこまで大きなステージに立つか。頭角を現すのが必然なのは間違いない。聴き手の耳もこれからが試しどころだ。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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