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ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している街を離れて、虎ノ門まで足を延ばした。虎ノ門交差点のほど近く、路面店として店を構える老舗書店、虎ノ門書房本店だ。虎ノ門のオフィス街、霞が関の官庁街いずれからも近く、ビジネスパーソンから中央官庁の職員まで、客層は年齢層も含めて幅広いという。この書店で一番売れていたのは、ノーベル経済学賞受賞者2人による自由市場のマイナス面に焦点を当てた経済書だった。

詐欺やごまかしがテーマ

その本はジョージ・A・アカロフ、ロバート・J・シラー『不道徳な見えざる手』(山形浩生訳、東洋経済新報社)。著者のアカロフ氏は2001年、シラー氏は13年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者で、「いずれも経済や人々が必ずしも完全な合理性に基づいてはいないことを指摘したことで、その地位を確立」(訳者あとがき)した経済学界の重鎮だ。その2人が本書で分析の対象にしたのは、フィッシング、つまり詐欺やごまかし、だましといった「釣り行為」についてだ。本の帯には「経済とは、釣り師とカモの永遠の闘いである」「賢いはずのあの人が、なぜカモられてしまうのか?」と刺激的な言葉が並ぶ。

まえがきで著者たちはスロットマシンの話から始める。ギャンブル用のスロットマシンが登場したのは1893年。1890年代の終わりごろには早くもスロットマシン中毒が広がる。市場経済は人の欲しがるものを与えてくれる一方、どう見ても本人が望むはずもない選択をさせ、お金を奪う商品をも生み出していくというのだ。「現実世界の経済均衡では、多くのカモ釣りが発生する」。その様子を日常のお金の工面やリーマン・ショックから見ていくのが第1部だ。

SNSも釣り事象?

第2部になると、「カモ釣りのミクロ経済学」と銘打って、生活の様々な局面で現れるカモ釣りの様相を描き出す。広告とマーケティング、不動産、自動車販売、クレジットカード、ロビイングと政治などなど、あらゆる場所で人々は操られ、後悔を伴うような選択をしてしまう。フェイスブックなどのSNS(交流サイト)まで、「カモ釣り」の事例として語られる。結論を示す第3部では、市場経済を絶対視するものの見方に一石を投じる経済学を提唱する。

「この店は本格的な経済書も比較的よく売れる。先週はランキングトップでした」と同書房の本店部長で、ビジネス書や経済・経営書を担当する諸橋伸哉さんは話す。5月半ばに店頭に並んだ直後から売れ行きが良く、話題の新刊への反応速度の速さがこの街の読者の傾向のようだ。

AI関連本が複数ランクイン

それでは先週のベスト5を見ていこう。

(1)不道徳な見えざる手G・A・アカロフ、R・J・シラー著(東洋経済新報社)
(2)ビジネスパーソンのための決定版人工知能超入門東洋経済新報編(東洋経済新報社)
(3)宝くじで1億円当たった人の末路鈴木信行著(日経BP社)
(4)決定版AI 人工知能樋口晋也、城塚音也著(東洋経済新報社)
(5)努力不要論中野信子著(フォレスト出版)

(虎ノ門書房本店、2017年5月21日~5月27日)

1位が冒頭に紹介した本。2位と4位に人工知能(AI)関連書が入る。2位の本はAIの技術動向を米国における先端企業の実例や日本企業の取り組みを中心に取材・紹介したムック、4位の本はNTTデータのAI担当者2人によるAIビジネス全般の解説書だ。AIへの関心はこのところ高く、関連書も多いことから最近の売れ筋だそうだ。3位は様々な体験の「末路」を語った本。日経ビジネスの副編集長が著者だ。宝くじで1億円当たった人だけでなく、キラキラネームの人の末路や自分探しのバックパッカーの末路などを取り上げる。5位はテレビ出演なども多い脳科学者による努力絶対主義からの脱却を説く本。刊行は2014年と古いが、先週出演番組があったためか、再浮上した。

(水柿武志)

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