Xperiaに先端カメラ 自撮り女子はソニーを選ぶか?
佐野正弘のモバイル最前線
ソニーモバイルコミュニケーションズが最新スマートフォン(スマホ)「Xperia XZ Premium」と「Xperia XZs」の国内市場向けに発表した。最上位機種の「Xperia XZ Premium」はNTTドコモから、従来機種からのマイナーチェンジになる「Xperia XZs」はNTTドコモのほか、au(KDDI)、ソフトバンクからも発売する。
両機種に共通するのがカメラ性能の高さ。今回は前機種よりもあえて画素数は下げ、その代わりに1秒間に960コマ(標準速度の32倍)を撮影する「スーパースローモーション」を実現した。
スマホのカメラに求めるものが写実よりも次第に誇張へと移る中、我が道を行くソニーの戦略は受け入れられるのだろうか。
カメラの進化ポイントは画素数にあらず
Xperia XZ Premiumは2017年2月にスペイン・バルセロナで開催された携帯電話の総合見本市イベント「Mobile World Congress」で発表された。世界中のスマホ・メーカーがこのイベントに合わせて新機種を発表する中でベストスマートフォン賞に選ばれた、世界的にも高い評価を受けている機種だ。
実際、その仕様は際立っている。ディスプレーは解像度こそ2015年9月に発表された「Xperia Z5 Premium」と同じ4K(3840×2160ピクセル)だが、今回はより立体的でリアリティのある映像を実現するハイダイナミックレンジ(HDR)に対応した。チップセットはクアルコムのフラッグシップ「Snapdragon 835」を搭載。理論値で下り最大788Mbpsの通信速度を実現する。
だが最も特徴的な機能は、やはりカメラである。
ソニーはイメージセンサーで世界最大のシェアを持っている。デジカメやスマートフォンのカメラ機能の中核部品だ。その技術がXperiaシリーズにはいち早く用いられ、他社の一歩先を行く新機能を搭載してきた。
例えば、2016年夏に発売された「Xperia X Performance」では、撮影中に動いている被写体をタップすると、その被写体を追随してフォーカスを合わせ続ける「先読みオートフォーカス」を搭載。2016年冬発売の「Xperia XZ」では、人間が見えない色域も認識して調整することで、自然な色合いを実現する「RGBC-IRセンサー」を搭載してきた。
0.2秒間の映像を6秒かけて再生できる
Xperia XZ Premiumは、スマホとしては初となる、イメージセンサーにメモリーを搭載した「メモリー積層型イメージセンサー」を採用した。センサーにメモリーを搭載することにより、撮影した写真を高速に保存できるようになる。Xperia XZと比べ保存速度は5倍高速になっているという。
その速度を生かしたのが「スーパースローモーション」である。これは、動画の撮影中にスーパースローボタンを押すと、押してから0.2秒間の映像を、1秒間あたり960コマのスーパースロー映像で撮影してくれるというものだ。つまり0.2秒間の映像を6秒かけて再生できるようにする。
スーパースローモーションで撮影する時はHD画質に落ちるものの、1秒あたり960コマの撮影ができるというのは、業務用のカメラに匹敵する。一般的なスマホのスローモーション撮影は1秒あたり120コマ程度であることを考えると、Xperia XZ Premiumのカメラ性能がいかに高いかが理解できるのではないだろうか。
ちなみにソニーモバイルの関係者によると、スーパースローモーションの撮影時間はボタンを押してから0.2秒間に固定されている。「撮影の時間が長すぎると、動画の内容がだらけてしまう」ためで、スマホの使われ方に配慮した結果となるようだ。実際に試してみると、スローモーション撮影を効果的に活用するにはボタンを押すタイミングにやや慣れが必要だが、タイミングよく撮れれば、とても印象的な映像を撮影できる。
そしてもう1つ、カメラの高速性を生かしたのが「先読み撮影」だ。これはカメラが被写体の動きを検知すると、センサーのメモリに画像を保存しておき、シャッターを押すと、撮影した写真に加え、一時保存していたメモリの写真も最大4枚同時に記録できるというもの。シャッターを押すだけで4枚のうちからベストショットが選べることから、動いている被写体を一層ブレなく撮影しやすくなったといえるだろう。
ソニーがカメラに力を入れる理由
今回、メモリ積層型イメージセンサーは、「Xperia XZs」にも搭載されている。
Xperia XZsは16年11月に発売されたXperia XZのマイナーチェンジ版。チップセットやディスプレー性能といった基本性能はほぼ同じである。4Kディスプレーや788Mbpsの通信速度などには対応していない。
それなのにカメラ機能だけはXperia XZ Premiumと全く同じものを用意した。
あえて基本性能があまり変わらない機種に最先端のカメラを載せたことに、ソニーの戦略が現れている。
ソニーモバイルのスマホ事業は2014年に販売不振に陥った。低価格化が急速に進んだためだ。スマホの機能が陳腐化していく中で、他社と差異化して高付加価値を付けるには自社で強みを持つデバイスを活用するのが近道だ。例えば、ディスプレー技術ではサムスン電子やシャープがそれを実践している。ソニーの場合は、そのキーとなる技術がカメラとなる。
カメラに優位性があることをアピールし続けるには、継続的にカメラの進化を見せ、ユーザーに体感してもらう必要がある。そこでソニーモバイルは、フラグシップの機種だけでなく、マイナーチェンジの機種にも最先端のカメラを搭載したのだろう。
しかもXperia XZ PremiumはNTTドコモのみが取り扱い、カラーも2色に限られるのに対し、Xperia XZsはauやソフトバンクからも販売されることが発表されており、カラーバリエーションも4色と豊富であるなど、より買いやすいモデルとなっている。ソニーモバイルとしては、Xperia XZ Premiumの性能の高さでユーザーの注目を高めつつ、販売の中心は、より手に入れやすいXperia XZsに置く狙いなのかもしれない。
デバイスへのこだわりはユーザーをつかむか
とはいえ、ソニーモバイルの目指すカメラの方向性が、多くのユーザーに受け入れられるとは限らない。
Xperiaシリーズのカメラは、最先端のデバイスを使って写実的な撮影能力を高めたものだ。だが最近、スマホでは現実を正確に表現するよりも、より見栄えが良く、楽しい写真がワンショットで手軽に撮影できることが重視される。そのことを象徴しているのがインスタグラムの人気である。いかに"インスタ映え"、つまりインスタグラムで公開した時に映える、友達から高く評価される写真を撮影できるかが、重要になってきている。snowなど、写実とかけはなれた写真を撮るアプリの人気もそれを裏付ける。
それゆえ、例えば最近の中国メーカーのスマホなどは、セルフィー(自分撮り)をする女性の利用を増やすため、肌を白く美しく見せたり、目を大きくしたりするなど、顔を積極的に加工する機能を搭載することが多く、それが女性などから高い支持を集めている。ユーザーは写実的表現にこだわっている訳ではないので、加工を取り入れてでもユーザーが求めるものを映し出すカメラが、高い評価を得るようになってきている訳だ。
もちろん基礎となるカメラ技術が高くなければ、加工を施した写真であっても美しく表現できないのは確かだろう。しかし折角高いカメラ技術を持っていても、写実的表現へのこだわがユーザーから受け入れられないとしたら、宝の持ち腐れになってしまう。
加工による現実とは異なる表現ができる楽しさもあれば、Xperia XZs/XZ Premiumで実現したスーパースローモーションのように、高いカメラ技術があるからこそ実現できる楽しさもある。いかに技術とユーザーニーズのバランスをとった、スマホユーザーに適したカメラ機能を提供できるかが、今後のXperiaシリーズには求められることになりそうだ。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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