成長戦略、新事業促す「規制の砂場」制度とは?
政府が成長戦略の一環として「レギュラトリー・サンドボックス」という仕組みを導入しようとしています。日本語にすると「規制の砂場」。子どもが安全が確保された砂場で思うがままに遊ぶように、企業が限られた期間や範囲で自由に新しいサービスを試すことを認める制度です。金融と情報技術を融合したフィンテックや自動運転、ドローン、人工知能などで導入が議論されています。
いまも地域を限定して規制を緩める特区という仕組みがあります。ただし、特区ではどの規制を緩和するかを国があらかじめ決める必要があります。ものすごいスピードで技術が進歩するフィンテックなどの新分野では、個別に規制を選ぶ方式では対応が追いつかず、海外の競合相手に対して後手に回る懸念が出てきました。
そこでいったん規制を凍結して自由にサービスを試し、あとで規制のあり方を考える仕組みが必要になったのです。法規制に詳しい増島雅和弁護士は「日本の役所は前例のないことをなかなか認められない。サンドボックスはそれを解決できる」と話しています。
海外ではここ1、2年で導入の動きが出ています。例えば英国ではフィンテックの分野に限って導入されています。野村総合研究所の柏木亮二上級研究員は「ベンチャー企業の挑戦を促して、大手銀行が独占している状態を変えようとしている」と説明します。
「砂場」に入ることができる企業や期間などはどうやって決めるのでしょうか。東京大学の柳川範之教授によると、明確なやり方はありません。法律体系や規制のあり方によって変わるので、日本も今後、具体案を詰める方針です。
英国では挑戦したい企業を公募しました。第1弾として2016年7月までに69社が応募。このうち認可された18社が、仮想通貨を支える分散台帳技術「ブロックチェーン」を活用するなどのサービスを展開しました。第2弾も近くサービスを始める予定です。
規制が停止された「砂場」のサービスは利用者を保護する仕組みが不十分な可能性もあります。実証段階とはいえ関わることがあったら、この点を留意する必要もありそうです。
野村総研の柏木亮二上級研究員「省庁間の連携、課題」
英国ではフィンテックにレギュラトリー・サンドボックスが導入されている。日本で導入されるとどんな影響があるのか。フィンテックに詳しい野村総合研究所の柏木亮二上級研究員に聞いた。
――レギュラトリー・サンドボックスによって日本のフィンテックは盛り上がるのでしょうか。
「どこまで踏み込んで規制の停止ができるようになるのかによって変わる。日本では貸金業法によって、P2P融資やソーシャル融資といわれる個人間でのお金の貸し借りをすることは難しい。これがレギュラトリー・サンドボックスを通じて可能となれば、大きなインパクトがある。一方で、広告規制の停止であれば影響は小さい。金融関連の広告規制は厳しく、フィンテックベンチャーが新しい事業を始めようとしても、ユーザーインターフェースが見づらいものになるとはいわれている。その規制を停止したとしても、画面が見やすくなるだけで、インパクトは小さいだろう」
――英国ではすでにレギュラトリー・サンドボックス制度が導入されています。そこでわかったことはありますか。
「まだ始まったばかりの制度で、制度そのものの評価はまだできない。しかし、ひとつ分かったことがある。英国では、事業者はレギュラトリ-・サンドボックスを利用する前に事業内容の審査を受ける。そこで、そもそも規制の対象ではなく、制度を利用しなくてもいいような申請が多くあった。この事実から、法律が分かりにくいために事業をあきらめているという潜在的な損失があるのではないかということが分かった」
――日本で導入する上での課題はありますか。
「課題は省庁同士の連携だ。フィンテックとはいっても、金融庁管轄の法律のみではない。例えば、口座開設に伴う本人確認に関わってくる犯罪収益移転防止法は警察庁の管轄だ。個人情報を扱うとなれば、個人情報保護法も関わってきて、調整が必要になる。早期に制度が実施できるのか注目している」
(久保田昌幸)
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