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スタンフォード 最強の授業

スタンフォードは勇気と情熱を評価 日本人よ来たれ! スタンフォード大学経営大学院 ジョス名誉教授に聞く(3)

2017/6/18

スタンフォード大学経営大学院のキャンパス (C)Elena Zhukova

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。2000年代のカリキュラム改革を学長として主導したロバート・ジョス名誉教授の3回目、最終回だ。

数年前の夏、中国地方の中堅メーカーの社長がスタンフォード大学経営大学院のエグゼクティブ講座に参加して話題になった。この日本人社長は必ずしも滑らかに英語が話せたわけではないが、果敢にもアジア系アメリカ人向けのエグゼクティブ講座に参加し、大活躍したのだという。スタンフォードは彼のどんなところを評価したのか。ジョス名誉教授に聞いた。

スタンフォード大学経営大学院 ロバート・ジョス名誉教授

■日本企業の課題、社員の階層意識

佐藤:リーダーシップを教えるジョス教授の目から見て、日本企業の課題は何だと思いますか。

ジョス:日本企業を観察していていつも思うのは、日本企業は非常に階層的だということです。部下は上司を尊敬して上司に服従しなくてはなりませんし、一般社員が直接、経営陣に進言したりアイデアを提案したりすることはめったにありません。

経営陣は、「現場で何かおかしなことが起こっているぞ」と感じても、何が起きているか、何が真実なのか、正確に把握できません。現場の社員は上司に伝え、その上司が翻訳して、その上の上司に伝え……となるからです。翻訳に翻訳を重ねて伝えられれば、現場が抱えていた問題の本質をつかむことができません。

日本企業の課題は、変革のスピードが遅いことだとはよくいわれることですが、その要因は、社員の階層意識にあると思います。若い一般社員は、どれだけ良いアイデアをもっていても、経営陣に直接伝えることはありません。「まずは自分の上司を立てなくては」「上司に伝えたら私の仕事は終わり」と考えてしまうのです。だから、現場のニーズや問題を経営陣が知るまでに時間がかかりますし、イノベーションをおこすにも時間がかかるのです。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤:日本企業は中間管理職が実質的な権限を持つ「ミドルアップ、ミドルダウン」だといわれています。この組織構造を変えない限り、イノベーションを阻害している階層意識は変わらないでしょうか。

ジョス:どんな会社にも組織構造はありますから、構造そのものが問題なのではありません。これは、コミュニケーション、社風、慣習の問題なのです。会社の慣習上、何が許されて、何が許されないのか、この会社ではこれまでどのようなコミュニケーションルートで問題が報告されてきたか。こうしたことをまず見直さなければ、革新的な組織にはならないでしょう。ただし、日本企業で長く続いていた慣習を変えるのはとても難しいことだということも私は理解しています。

■日本企業の慣習は逆境に弱い

佐藤:スタンフォードの学生は日本から何を学んでいますか。

ジョス:(1)圧倒的な遂行力(2)品質管理能力(3)社員への思いやり――の3点です。日本経済はこれまで数々の浮き沈みを経験してきましたが、日本にはとてつもなく優良な企業がたくさんあります。

まず1つめですが、日本企業には圧倒的な遂行力があります。「これをやるのだ」と決まったら、日本企業ほどきっちりやり遂げる組織はありません。自動車メーカーでも、カメラメーカーでも、家電メーカーでも、魚を養殖している水産会社でも、日本企業は卓越した遂行力で戦略を実行します。

2つめは、日本企業には優れた品質管理能力があります。高品質な製品を低価格で提供できることを世界に教えてくれたのは日本企業です。日本のメーカーが台頭するまでは「高品質な製品は高価で、低品質な製品は安価」というのが常識でした。高品質と低価格は両立できないと思っていたのです。ところが日本企業が、私たちがそれを実現しますと言ってやってみせました。

3つめは、日本企業には、社員を大切にする社風があります。日本人は他国の人に比べて、本当に人を大切にすると思います。上司は部下のことを気遣い、部下は上司のことを尊敬する。終身雇用制を維持しているのも、社員が安定した生活を送れるようにするためです。

佐藤:先ほど、日本企業の社風・慣習が、変革やイノベーションを阻害しているという話がありました。日本企業の強みが、弱みにもなっているということですね。

ジョス:日本企業の慣習は、順境のときはとても大きな威力を発揮するのです。階層的な組織は社員一丸となって目標を遂行するのに適しているのです。ところが逆境に弱い。現場で何か問題が起こっても、管理職は正しい情報を把握できず、対処するのが遅くなる。先ほども言いましたが、この2つを両立させるのはとても難しいと思います。

■英語が話せなくても圧倒的情熱を評価

佐藤:スタンフォード大学経営大学院には多くのエグゼクティブ講座がありますね。その1つが「アジア系アメリカ人エグゼクティブ向け上級リーダーシッププログラム」です。このプログラムに、数年前、中堅メーカーの日本人社長が参加して、話題になりました。

この日本人社長は必ずしも滑らかに英語を話せたわけではなかったにもかかわらず、並々ならぬ熱意で志望動機を伝え、合格したそうですね。どのエグゼクティブ講座でも、「英語力」は重要な審査基準です。特にこのプログラムは基本的に英語が話せることを前提とした内容ですから、アメリカ国外から参加する人は1~2%ほどしかいません。そんな中、なぜ彼は合格したのでしょうか。

ジョス:私が直接審査したわけではありませんが、いくつか理由が考えられます。まず、この日本人社長には「どうしてもスタンフォードのこの講座で学びたい」という強い動機がありました。その理由は私たちにとっては非常に興味深く、筋の通ったものでした。審査官は、彼の圧倒的な情熱に感銘を受けたのだと思います。英語がほとんど話せないのに、スタンフォードの講座に参加するというのは大変なことです。でもそのハンディも彼なら乗り越えられるだろう、と判断したのだと思います。

それから、彼はアメリカ人エグゼクティブが集うクラスに新たな価値観を提供してくれるに違いない、という期待もあったのだと思います。彼は誰がどう見ても、経験豊富な経営者です。リーダーとしての自分の問題、会社の問題、後継者の問題をどう解決していくかについては豊かな知識を持っています。これだけの熱意を持って参加したいと言っている人だ、きっとクラスメートに役立つ知識やユニークな考え方を提供してくれるはずだ、と期待したのだと思います。

佐藤:それはつまり、日本式のリーダーシップや日本企業のオペレーションの知識などでしょうか。

ジョス:それだけではありません。考えてもみてください。こんな日本人社長、なかなかいませんよ。英語がほとんど話せないにもかかわらず、「私はスタンフォードで学びたいのです。ここでしか学べないことがあります」と言って、エグゼクティブ講座に応募する。これは非常に勇敢で、思い切った行動です。自分を成長させたいから、スタンフォードに挑戦するということ自体、賞賛すべきことなのです。もし私が審査官でも、絶対入学してほしいと思いますね。

スタンフォードの授業は、教授が講義をして学生はひたすらノートをとるという形式ではありません。それはMBAプログラムでもエグゼクティブプログラムでも、同じです。学生もエグゼクティブも与えられたテーマについて議論しなくてはなりません。クラスディスカッションに貢献しなくてはならないのです。全員がやる気満々で発言しなくてはなりません。

彼は、多少英語ができなくても、並々ならぬ情熱の持ち主で、クラスのディスカッションに貢献したのではないかと私は思います。

佐藤:自ら専用の通訳者を連れてきたそうです。

ジョス:それはすごい。私のクラスに絶対参加してほしい人材ですね。

佐藤:勇気と情熱をスタンフォードは評価する。これを彼は示してくれたのではないでしょうか。スタンフォードのエグゼクティブプログラムに、同じような日本人エグゼクティブが増えてくるといいですね。

ジョス:私もそう思います。こういう勇敢な日本人エグゼクティブがどんどん出てくることを期待しています。

※ジョス名誉教授の略歴は第1回「『トレンドは追わず』 スタンフォード教育改革の核心」をご参照ください。

※この連載を元にスタンフォードの授業の実際を紹介した書籍「スタンフォードでいちばん人気の授業」(幻冬舎)が22日に発売予定です。

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