視覚障がい者の「伴走」に挑戦 見えない不安取り除く声掛け絶えず的確に、信頼関係が何より重要

1メートルほどのロープを輪にして、両端を互いに握る(東京都渋谷区で開かれた練習会)

アイマスクをして走る経験をした次は、いよいよ伴走にトライだ。まずは講習・練習会で基礎を学んだほうがいい。日本盲人マラソン協会(JBMA)の公式サイトには東京、大阪、福岡など各都市の練習会の予定が掲載されている。

二人三脚の要領で足と腕合わせる

1984年から東京・代々木公園で講習・練習会を続けているJBMA常務理事の鈴木邦雄さんは「視覚障がい者にとって一歩先は崖。安心して一歩を踏み出しにくい。伴走者は視覚障がい者ランナーを速く走らせることではなく、安心して走ってもらうことを第一に考えてほしい」と話す。

伴走者の役割と注意点
・安全に走ってもらう。的確な声掛けを絶やさない
・理想のフォームで走ってもらう。二人三脚の動きで
・ペースを調整し、楽しく走ってもらう。相手が要求し
やすい雰囲気で

伴走が必要なのは全盲ランナーとは限らない。視力の問題だけでなく、視野が極端に狭い障がい者もいる。まずは障がいの具合(いかに見えないか)を確認したほうがいいという。

伴走者の立つ位置は相手の好みで決めるが、伴走者が左側を走るケースが多い。伴走ロープは1メートルほどのものを輪にして使う。手にロープを引っ掛けただけでは伴走者の状態が伝わりにくいので、軽く握る。

伴走の最も重要な技術は、相手が自然な腕振りができるようにしてあげること。腕が思うように振れないと気分よく、楽に走れない。自然な腕振りを可能にするのは、運動会の二人三脚の動きだ。右側に立ったランナーが左足を前に出すのに合わせて伴走者は右足を出す。足を合わせれば腕の振りも合う。

伴走者がロープを握った手を前方外寄りに振り出す(伴走者が左に立つ場合、右手を前方右寄りに向けて振る)と、相手は腕を振りやすい。2人とも真っすぐ前に腕を振る場合、引っ張り合いにならないよう、ロープを緩める必要がある。

坂道の「終わり」も伝える

まず考えるべきは視覚障がい者ランナーの安全なので、前、横、上の状況を知らせる声掛けを絶やしてはいけない。「10メートル先で右に90度曲がります」と具体的に知らせ、「あと5メートル」「ここで曲がります」と続ける。

カーブ、起伏、でこぼこ、段差など走路の状態だけでなく、前に人がいないか、街路樹や鉄柱がないか、情報はすべて口に出す。「このくらいのへこみは危なくないはず」と勝手に判断しない。鈴木さんは「視覚障がい者にとって無言は恐怖。安全なときも黙らず、安全であることを伝えてほしい」と注意する。「しばらく平らです」「車の音が聞こえるでしょうが、問題ありません」という声掛けも重要だ。

「始まり」だけでなく「終わり」を伝える必要がある。「ここから下ります」で済ませず、「下りはここまでです」と告げる。ランニング中以外でも「水を取りに行くので離れます」だけでなく、「いま戻りました」で完結させる。

視覚障がい者ランナーは自分が走りにくかったり、ペースが速すぎたりしても、「こうしてほしい」と要求せず、我慢してしまう場合がある。鈴木さんは「相手が何でも言いやすい雰囲気をつくれるのが、いい伴走者。要求される伴走者になってほしい」と話す。

鈴木さんは一人でも多くの視覚障がい者が外で運動をするようになってほしいと願い、伴走練習会を視覚障がい者と伴走者がランニングを通じて友人をつくる場と意義づけている。気が合えば、2人で大会出場へと発展していくのだ。

それではパラリンピックのように視覚障がい者のトップランナーが競い合うレースで、伴走者はどんな役割を果たしているのだろうか。

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本格レースは伴走者も「勝負」
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