マネー研究所

カリスマの直言

北朝鮮情勢 地政学で市場の耐性を考える(藤田勉) 一橋大学大学院客員教授

2017/6/12

「北朝鮮情勢においては、冷静に対応する投資家が難局を乗り越えることができるだろう」

 北朝鮮やシリア情勢の緊迫は長期化し、今後もマーケットに影響を与え続けることであろう。今回は地政学の視点からマーケットの耐性を考えてみたい。

 地政学とは地理的な視点を交えて、国際政治や安全保障を分析する学問である。代表的な理論は、英地理学者のハルフォード・マッキンダーが唱えたハートランド理論である。マッキンダーは、旧ソ連の支配地域をハートランド、その周辺地域(欧州、中東、インド、中国など)を三日月地帯と呼んだ。そして、20世紀初頭にハートランド周辺地域である東欧で紛争が起きやすいとして、「東欧を制する者が世界を制する」と主張した。

 果たせるかな、第1次世界大戦はオーストリアの皇太子が暗殺されたサラエボ事件、第2次世界大戦はドイツとソ連によるポーランド侵攻で始まった。その後も、東欧では鉄のカーテン、ベルリン封鎖、ハンガリー動乱、プラハの春、ベルリンの壁崩壊、そしてウクライナ問題と、今なお紛争が続いている。

■北朝鮮の攻撃性は自己防衛のため

 地政学といえば、リムランド理論も有名だ。米政治学者のニコラス・スパイクマンがハートランド理論を進化させたものだ。スパイクマンは三日月地帯をリムランドと呼び、リムランド国家(たとえば英国、フランス、日本)と米国が同盟を結ぶことの重要性を主張した。

 両理論の共通点は、ハートランドとリムランドの接触する地域で、紛争が起きやすいということである。実際、戦後も朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争など世界を揺るがすような戦争はこれらの地域で発生している。それは、これらが文明、宗教、人種の交差する地域であり、かつ米英など海洋国家のシーパワーと、ドイツやロシアなど大陸国家のランドパワーの利害が衝突する地域であるからである。

 地政学の視点から、北朝鮮問題を分析すると興味深い。イメージとして北朝鮮、隣国の中国は攻撃的な国に見える。しかし、両国は他国に侵略し続けられた歴史を持つ。中国はモンゴル族の元、満州族の清に征服され、19世紀以降は欧米列強や日本の侵攻にさらされた。ロシアは、元、フランスのナポレオン、ドイツのヒトラーに占領された。北朝鮮は長い期間、中国の属国であった。その後、日本に併合され、朝鮮戦争の戦場になった。

 つまり、北朝鮮と中国が攻撃的に見えるのは、自国を防衛するためという要素が強い。戦後、中国はモンゴル、北朝鮮、北ベトナムなどの周辺国をその影響下に置いた。中でも国境が首都北京から約1000キロしか離れていない北朝鮮の重要度は高い。もし、金正恩政権が崩壊し、韓国主導で南北が統一されたら、米軍が北朝鮮に駐屯することもあり得る。このため、中国にとっては、金政権が続いてもらわないと困る。中国が北朝鮮に制裁を科すとしても、金政権を崩壊させない範囲で実施するしかない。

 しかも、北朝鮮はロシアと国境を接しており、交易が盛んである。ロシアにとっては、シリアやウクライナの重要性が高い。いずれもロシアの海軍基地が絡んでいるからだ。そこで、北朝鮮を適度に支援することは、米国の戦力を中東とアジアに二分させることができるため有効である。そもそも、北朝鮮のミサイル技術は旧ソ連製のスカッドミサイルが基になっているといわれる。

■マーケットが崩れる状況は考えにくい

 以上を総合すると、2つの結論が導き出せる。第1に、北朝鮮の挑発は長引くことである。よく北朝鮮の瀬戸際外交といわれるが、筆者には北朝鮮が瀬戸際に立っているように見えない。ミサイルを発射し続けているからこそ、北朝鮮の戦略通りに米国が交渉のテーブルに着こうとしているのだ。もとより、米国は金政権の転覆を目的としていない。これによって、北朝鮮は現体制の維持と経済支援を得ようとしている。

 第2に、北朝鮮は日本や韓国を先制攻撃することはないと考えられる。北朝鮮が先制攻撃すれば、米国などが報復を開始し、金政権はリビアのカダフィ政権、イラクのフセイン政権と同じ運命をたどるだろう。それは北朝鮮も十分わかっている。米国が対話の道を閉ざさない限り、米が先制攻撃することもない。

 楽観視しているわけではないが、北朝鮮情勢がマーケットを大きく崩すような状況は考えにくい。万が一、日本に対してミサイル攻撃があれば被害状況にもよるが、東日本大震災時に1ドル=75円になったように、有事の円買いとなり、1ドル=100円を突破する円高もあり得るだろう。同時に、株価は急落しよう。

 しかし、湾岸戦争、イラク戦争がそうであったように、現代のハイテク戦争は短期決戦になる。円高・株安の長期化は想定しづらい。あくまで頭の体操にすぎないが、北朝鮮情勢においては、冷静に対応する投資家こそこの難局を乗り越えられるであろう。

藤田勉
 一橋大学大学院客員教授、シティグループ証券顧問。2010年まで日経ヴェリタスアナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。経済産業省企業価値研究会委員、内閣官房経済部市場動向研究会委員、北京大学日本研究センター特約研究員、慶応義塾大学講師を歴任。一橋大学大学院修了、経営法博士。1960年生まれ。

マネー研究所新着記事

ALL CHANNEL