沖縄国際映画祭 笑いの力で地域おこし、人材の育成も
9回目を迎えた「島ぜんぶでおーきな祭 沖縄国際映画祭」が2017年4月20~23日まで開催された。今年は石垣島や宮古島など離島を含む12市町村24会場を舞台に、過去最大規模で実施。約33万人が来場した。メイン会場となる那覇市内では、目抜き通りの国際通りでレッドカーペットが開催され、GACKTや土屋太鳳ほか俳優やお笑い芸人ら130組、1099人が練り歩き、延べ9万1000人が集まった観客から歓声を浴びた。
沖縄国際映画祭は、吉本興業などが運営に携わって09年にスタート。15年から呼称を「島ぜんぶでおーきな祭」と変えたことで、映画だけではなく音楽、お笑い、ファッション、アート、スポーツなど総合エンタテインメントの祭典となり、地域の活性化をめざすイベントへと変貌を遂げた。会期中は、国内外の映画の上映とともに、吉本芸人が参加するイベントが各地で開催され、それぞれの地元を盛り上げる。各地域の団体や学生らによる応援団が合計48あり、映画祭の運営をバックアップしているのも特徴だ。
それに加え、今年も新たな取り組みを展開して、独自の色を強めている。まず、国際連合広報センターとの提携。15年に国連で採択された、2030年に向かって世界を変えるための17の目標「SDGs(エス・ディー・ジーズ、持続可能な開発目標)」を知ってもらう特別企画を実施。宮迫博之(雨上がり決死隊)、又吉直樹(ピース)ら18人の吉本芸人によるナレーションで「貧困をなくそう」「クリーンなエネルギーを」といった17の目標を紹介する短編映像を、映画やイベントの開始前に上映したり、国内外の吉本「住みます」芸人たちが撮影した作品を含む写真展、子供たちも楽しめる芸人スタンプラリーなどを実施した。
国連広報センターの根本かおる所長は「SDGsを多くの人に知ってもらい、自分のこととして捉えてもらうには、ハードルを下げてメッセージを伝えられる笑いの力が必要だと思った。映画祭との包括的な提携は世界で初めての試みで、国際的な注目を集めている」と言う。沖縄国際映画祭には、アジアを中心に海外のメディアも多く訪れ、今年も13カ国、40媒体が取材にあたった。そうした世界への発信力も強みとなっている。
お笑いの役割が広がる
記念シンポジウムでは「沖縄の未来をつなぐエンタテインメント産業と人材の育成について」をテーマに、コミック、映像、音響監督などの第一人者が熱い意見交換を繰り広げた。吉本興業は18年4月に沖縄でエンタテインメント全般の専門学校の開校を予定している。映画祭を通じて地域の活性化を図る様々な事業を進めていくなかで出てきた人材育成のプロジェクトだ。シンポジウムでは、沖縄がエンタテインメントの人材の宝庫であること、各界で求められている才能の資質や、その伸ばし方などが語られた。
こうした映画祭を起点とする一連の取り組みについて、よしもとエンタテインメント沖縄の水谷暢宏社長は、「吉本興業はお笑いの会社ですが、お笑いの役割が変わってきたというか、広がってきたということ」と位置づける。
「劇場やテレビの前のお客さまに楽しんでもらうだけでなく、地域振興への貢献も求められている。それを形にしているのが沖縄国際映画祭。エンタテインメントでどこまで地域を活性化できるか。スクール事業も、人を育てることを通して新たな資源を沖縄につくるチャンスと捉えている。沖縄は地政学的にもアジア各国とのつながりが深く、世界とつながっているのが強み。国際的に通用する人材を生み出したい。SDGsにも『質の高い教育を』という目標があり、大きな意味で活動はつながっている」
地域おこしの役割をより強める沖縄国際映画祭。一般的な映画祭とはだいぶ様相が異なってきたが、それゆえ独自のポジションを築いたといえよう。節目となる第10回の来年はスクールの開校予定があり、より人材育成や世界とのつながりに光をあてる映画祭になりそうだ。
(日経エンタテインメント! 小川仁志)
[日経エンタテインメント! 2017年7月号の記事を再構成]
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