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テロに抗うアキン 暴力と向き合うラムジー

カンヌ国際映画祭リポート(7)

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NIKKEI STYLE

欧州各地でのテロを受けて、今年のカンヌは警備がものものしい。会場の入り口に金属探知機が設置され、自動小銃を抱えた警官がたくさんいる。22日の英マンチェスターのコンサート会場爆破テロの翌23日には映画祭が声明を発表。「これは文化、若者、娯楽に対する、自由、寛容、忍耐に対する、映画祭と映画祭を作り上げている人々(芸術家、プロフェッショナル、観客)が大切にしているすべてのものに対する攻撃でもある」とし、午後3時からの黙とうを呼びかけた。

そんななか26日にコンペで上映されたドイツのファティ・アキン監督『イン・ザ・フェイド』は、爆破テロが頻発する欧州の今を生々しく反映した人間ドラマだった。

カーチャ(ダイアン・クルーガー)の夫の事務所が爆破テロにあい、トルコ系の夫と6歳の息子が死ぬ。カーチャは激しく動揺するが、警察はすぐに事情聴取を始める。夫の宗教は? 政治活動の有無は? 敵は?

事務所の前に不審な自転車を置いた女を目撃していたカーチャはそれを警察に伝える。夫の友人の弁護士にも相談し、悲しみをこらえて葬式の準備をする。しかし警察はお構いなしに家宅捜索し、夫の身辺を洗いざらい調べる。葬式を終えて絶望したカーチャは自殺を図るが、弁護士からの電話で容疑者が捕まったと聞き、思いとどまる。

容疑者はネオナチの若い夫婦。裁判では容疑者の父親も息子が爆弾を所持していたことを証言する。カーチャは遺体の損傷の詳細な説明に気が沈み、まったく悪びれない被告の態度に憤る。被告側証人には海外のネオナチ関係者もいる。

しかし被告側に麻薬使用歴を突かれたカーチャは証人能力を認められず、容疑者は無罪となる。カーチャは決意する……。

アキンはドイツで頻発した国粋主義のネオナチグループによる殺人に触発されたという。トルコ系のアキンにとってはひとごとではない。移民社会に対する公権力の姿勢も肌で感じているだろう。

『そして、私たちは愛に帰る』『消えた声が、その名を呼ぶ』などトルコ系のディアスポラ(離散した人々)の物語を撮り続けてきたアキンだが、今回は金髪で青い目のドイツ人女性がヒロイン。テロによって身内を失った人間の普遍的な感覚を描こうとしている。ネオナチによるテロを描きながら、不可解な闇に迫るスリラーでもあり、なにより理不尽に子供を失った母親の愛の物語なのだ。

記者会見でマンチェスターのテロから数日後の上映だったことの感想を聞かれたアキンはこう答えた。「この映画の企画中も撮影中もたくさんのテロがあった。パリで、ニースで、イスタンブールで。親を失った人、子供を失った人が大勢いる。私たちは戦争の中にいる」

軽快でもの悲しいサフディ兄弟の犯罪物語

映画祭終盤のコンペではニューヨークを舞台にした犯罪映画が2本上映された。英国のリン・ラムジー監督『ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア』と、米国のベニー&ジョシュ・サフディ監督『グッド・タイム』。その肌合いは対照的だ。

ラムジー作品のホアキン・フェニックス演じる主人公ジョーは怪物のような男だ。ひげもじゃで図体がでかく、ハンマー片手に簡単に人を殺す。ボケた老母を世話しながら、何者かに監禁されている少女を救いに行く。プレスリーのムーディーな曲に乗って、立ちはだかる者を次々と殴り殺す。

何がジョーを動かしているのかはよくわからない。ただ、子供の頃に受けたトラウマが彼を野蛮で残酷な人間にしたことは暗示される。果たしてジョーは覚醒するのか……。

『少年は残酷な弓を射る』でも親子のトラウマを描いたラムジーだが、今回はトラウマに由来する男の暴力性に正面から向きあい、その怪物性に迫る。狂気をはらむ暴力をとことん具体的に描き出すところに、この女性監督の力量を感じた。

暴力的で夢幻的なラムジー作品に対し、サフディ兄弟の新作は軽快でオフビートでもの悲しい。ニューヨークの光景もリアルだ。

ちょいと間抜けな兄弟の犯罪物語である。銀行の窓口係に筆談で金を要求し、簡単に大金を手にしたかと思いきや、逃走中に防犯用の赤インクが噴き出して失敗。要領の悪い弟の誠実さと、そんな弟を守る兄の優しさがほろりとさせる。

フランスのフランソワ・オゾン監督『アマン・ダブル』は上質のスリラーだった。

オゾン、上質のスリラー

25歳のクロエは、自分の話をただ黙って聞いてくれる誠実な精神分析医ポールと恋に落ちる。そこにポールとそっくりの精神分析医ルイが現れる。ポールとは双子だと言うルイの診察はポールと対照的。「嘘をつくな」と叱り、体に触り、ベッドにまで誘う。クロエはそんなルイに反発しつつも、ひかれていく。セックスがいいのだ。

それでもクロエはポールとの結婚を決める。ルイはクロエにポールのいまわしい過去を告げる。クロエは動揺する。この双子は何かを隠している……。

クロエの中にある二面性が、双子によってあらわにされ、引き裂かれていく。そのさまがスリリングなストーリーと、鏡を多用した大胆な映像によって鮮やかに浮かび上がってくる。何よりもあらゆる出来事を目で楽しめるところは、さすがオゾンである。

学生映画部門に21歳の井樫彩監督

学生映画部門シネフォンダシオンでは日本の井樫彩監督『溶ける』が上映された。井樫は北海道伊達市出身の21歳。『溶ける』は東京の東放学園映画専門学校の卒業制作で、なら国際映画祭の学生映画部門でグランプリを獲得した。

田舎町に住む女子高校生・真子は周囲にうまくなじめない。友人たちが安易にセックスするのが嫌だし、希望する進路も思い浮かばない。1人で近所の川に飛び込んでストレスを解消している。そこに東京からいとこが遊びに来る……。

「高校時代の違和感、周囲に対する嫌悪感を描こうと思った。専門学校に入って1年たったとき、今描かなければならないものは何かを考えた」と井樫。「感じていることは私も真子も共通している。映画ではそれを外に出している。実際は内に秘めていた。映画は突っ走っちゃう。思いをぶちまけられて、すげえなと思った」

ヒロイン同様、進路をなかなか決められなかったが「勢いみたいなもので、映画監督になりますと言ってしまった」と笑う。映画学校で学んだ最大のことは「自分の人生といやがおうでも向きあわされたこと」。影響を受けた監督は園子温で、『気球クラブ、その後』が一番好きだという。

シネフォンダシオンの出品監督で最年少。次回作は初長編となる『真っ赤な星』。「少女と大人の女性の、あこがれなのか恋なのかわからないような話」だという。8月に撮影に入る。

永瀬正敏と会った。16歳にして相米慎二監督『ションベン・ライダー』(1983年)で主演デビューしたこの人も、50歳。『光』(河瀬直美監督)の視力を失う写真家・中森雅哉役は鬼気迫るものがあった。

永瀬正敏「藤竜也さんの背中を見てきた」

取材を受けた海外プレスから、雅哉の中に「希望」があると指摘されたのが新鮮だったという。

「雅哉として生きるのに精いっぱいで、僕の中には視力を失っていく恐怖感、心に芽生える闇しかなかった。視覚障害者の方に聞いても、視力が落ちていく時期が一番つらいという。光に向かっていると考える余裕はなかった。雅哉が光に向かっているように見えるとしたら、それは河瀬監督が演出したものだ」

「電車のシーンで絶望してしまって、役から抜けられなくなった。本当に視界がなくなった。河瀬監督が背中をさすって『これからの人生、光に向かって歩こうね』と言ってくれた」

ジム・ジャームッシュ監督『ミステリー・トレイン』以来、28年ぶりのカンヌ。「もうちょっといい役者になってるつもりだったんだけど」と照れるが、感慨はある。

「悪戦苦闘でやってきた。一生懸命にキャラクターを考え、きれいな所作でやりたい。でもできない。自分の中に悔しい思いがいっぱいあった。だからいま現場で若い俳優が悔しい顔をしていると、『おまえ、もう一回やりたいんだろう』って聞いて、監督に言ってやらせてもらうこともある。気持ちがわかるから。自分も悔しかったから」

相米は何も教えてくれなかった。

「どうすればいいんですか、と聞くと、相米さんは『おまえが自分で考えろ』と言う。『おまえが一番知ってるはずじゃないか』と。永遠にリハーサルです。きょうも撮れないや、と何十人ものスタッフが撤収していく。申し訳ない」

「そうしているうちに、余計なことを全部忘れちゃう時がくる。演じようとするんじゃなくて、僕の中で何かができるようになる。相米さんはそれを待っていた。相米さんは教師のように教えてはくれなかったけど、僕を導いてくれた」

海外の映画人との出会いも大きかった。

「ジャームッシュはすべてにおいて最高の人。真摯で、シャイで、人をすごく大事にする。『ミステリー・トレイン』の後も友人関係は続き、『パターソン』(2016年)に呼んでもらえた。『おまえをイメージして書いた。やってくれ』と。彼は役者だけでなく、スタッフみんなに対してそう。世界観がぶれず、一本線が通っている」

「唯一、僕が自慢できるのは人との出会いに恵まれたこと。不思議な巡り合わせだと思う。台湾映画『KANO 1931海の向こうの甲子園』(14年)も、『アジアン・ビート』(91年)から一回り巡ってという感じ。台湾の知りあいがみんな会いに来てくれた」

近年は『まほろ駅前狂騒曲』(14年)、『64/ロクヨン』(16年)の悪役など、役の幅も広がってきた。

「いろんな役をやってみたい。もっと若い監督にも出会いたい。そう思い続けていると、いろんな役がくる。30代くらいまでは自分は全然ダメだったから。やっとこの年になって半歩くらい役者に近づけたかなと思う。半歩ですけど、まだ。これからが長い。早く半歩を1歩にして、2歩にして、10歩、20歩、役者に近づきたい」

一緒にカンヌに来た藤竜也は『ションベン・ライダー』で共演し、「僕の原点になった人」。藤が永瀬らを追いかけて日本刀を振り回すシーンで、相米は藤に「あいつら、ぶった切ってください」と言い、永瀬には顔から30センチくらいのところを指して「ここまで待って、よけろ」と指示した。

「そしたら普段の藤さんじゃない。こんなに人が変わるのかと思うくらい、ものすごいオーラでたたずんでいる。怖くて怖くて。5メートルくらい先で逃げちゃった」

「『ションベン・ライダー』では、藤さんについていくシーンがいっぱいあった。藤さんが先を歩いていて、僕が後を追っかけていくという。『光』ではイメージの中で藤さんの写真を撮るんだけど、河瀬監督は藤さんの背中を撮らせるんですよね。それがまた、ぐっときたりして。僕は藤さんの背中をずっと見続けてきたんだなって」

(編集委員 古賀重樹)

=おわり

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