南極が「緑の大陸」に? 温暖化でコケが3倍速で成長
氷に覆われた南極の景色は今、着実に緑色に染まりつつある。
南極大陸で、過去150年間に堆積したコケの層の掘削調査を行ったところ、直近の50年間では、以前と比べてコケの成長速度が3倍ほど速くなっているという研究結果が、2017年5月18日付けの科学誌「Current Biology」に発表された。
原因は世界的な気温の上昇だ。地表の氷が解けて水として存在するようになれば、それだけコケは多くの水分を得ることができ、また気温が上がれば生育期間も長くなる。(参考記事:「北極海で過去最大の海氷融解、メカニズム明らかに」)
「過去50年間における南極半島の気温上昇は、一帯でのコケの成長に多大な変化をもたらしました」。論文の主要著者である英エクセター大学の古気候学者マシュー・エームズベリー氏はそう語る。
「この傾向が今後も継続し、氷河の後退が止まらずに氷のない陸地が増えていけば、南極大陸は今よりもずっと緑の多い場所になるでしょう」
コケは一般に非常にゆっくりと成長し、また気温の低い極地では、繁茂期が終わっても腐らずに堆積する傾向がある。したがって、過去のコケの成長について数千年前まで遡って調べられる。これはたとえば、他の地域で見られるピート(泥炭)の蓄積と似たようなものだ。
北極で観察されているのと同様の現象
エクセター大学のダン・チャーマン氏率いる研究チームは、南極半島において、互いに最大およそ600キロ離れた3つの地点からコケのコア試料を採取した。南極大陸では最も北にあり、南米の方向に向かって伸びる同半島は、気候パターンの変化の兆候がいち早く現れる地域のひとつだ。
論文によると、南極半島のコケの大半を占める2つの種は、約50年前まで、平均で1年間に1ミリ程度しか成長していなかった。しかし、50年ほど前からは平均で年3ミリ以上成長している。
確かな気象記録が残されるようになったのは20世紀半ば以降であるため、それ以前のコケ層の堆積と、気温やその他の気象データとの関連はわからない。しかし注目すべきは、少なくとも1950年代以降、コケの成長と堆積が一貫して増加していることだ。この傾向は距離が離れた地点でも変わらないことから、根本的な原因が広範囲にわたって存在することがわかる。コケの光合成活動の多さを示す炭素同位体の蓄積と、微生物の活動にも同じく増加が見られた。
こうしたパターンに基づき、専門家らは、気温上昇がさらに進めば、南極の生態学的景観はたちまち一変するだろうと推測している。(参考記事:「南極のペンギン、実は590万羽いた 従来推定の2倍超」)
「過去の気温上昇がコケの成長に影響を与えているという事実は、さらなる温暖化により生態系が急速に変わっていくことを示している。これにより、南極という特異な地域の生物相と景観は大きく変化する」。論文の中で、チャーマン氏はこのように述べている。「つまり南極の緑化は、以前から北極について観察されているものと同様の現象だ」
過去に我々が体験したことのない速さ
南極大陸は昔からずっと氷に覆われていたわけではない。南極で発見された白亜紀のシダ、マツ、イチョウの化石は、この場所がかつては温暖で、多くの動植物の生存に適していたことを示している。ある意味、現在進行中の緑化は過去への回帰とも言えるだろう。
「変化は地球の鼓動です」と、米コロンビア大学ラモント・ドハティ地球観測所の地球物理学者ロビン・ベル氏は言う。「ですから、変化そのものは意外ではありません。しかし人間によって引き起こされる変化、またその変化の速度は、過去に我々が体験したことのないものです」
この現象が地球全体にどんな影響を及ぼすのかは、今はまだ明確にはわからない。だが、これが新たな研究と発見のチャンスであることは間違いないとベル氏は言う。
「氷が減少すれば、南極大陸の岩があらわになり、新たな研究材料がたくさん得られるでしょう。この機会を利用して、南極の研究をできる限り進めることが重要です」
(文 Michelle Z. Donahue、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年5月24日付]
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