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EVで復活のスポーツカー 圧倒的な加速が魅力

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日経トレンディネット

「トミーカイラZZ」という電気自動車に試乗してきた――こう書いて「トミーカイラ?、あれは電気自動車じゃないよ」と思ったあなたは、かなり自動車通だろう。実はこの自動車、かつてのトミーカイラではない。が、以前と同じく、新たに自動車メーカーとして名乗りをあげたベンチャーの野望を担った1台なのである。

本題に入る前に、トミーカイラという名前について説明しよう。トミーカイラは、かつて京都にあったトミタ夢工場という会社のチューニングカーのブランドとして始まった。創業者の冨田義一氏と解良喜久雄氏の姓にちなんだブランド名である。

同社は既存車種を改造して高性能スポーツカーに仕立て、トミーカイラブランドで販売していたが、それに満足することなく1995年に完全オリジナルのスポーツカー「トミーカイラZZ」を発表した。

2シーターの流麗なボディーデザインはカーデザイナーの由良拓也氏が担当。当時は「由良拓也デザインの日本発スポーツカー登場」ということでかなりの話題を呼んだ。710kgという軽量ボディーに2リッターエンジンを搭載。英国で製造し、輸入車として販売し、合計206台が市場に流通した。その後、後継車として「トミーカイラZZ II」という車両の開発が進められたが、これは二転三転し、トミタ夢工場も2003年に倒産してしまった。

話が大きく展開したのは、2010年のことだ。この年、京都大学発の自動車ベンチャーのGLMが旗揚げする。「ゼロから電気自動車の完成車両を開発し、販売すること」を目指す同社が「トミーカイラ」のブランドを継承し、新世代の電気スポーツカー「トミーカイラZZ」の開発を開始したのだ。2013年4月に車両を発表。2015年11月から、限定99台の販売を開始した。今回試乗したのは、そのうちの1台である。

たったの99台? そう、たった99台だ。だが、この99台には大きな意味がある。

高性能を秘めた禁欲的な車体

新世代のトミーカイラZZの車両を見ていこう。スタイルは低く構えた2シータースポーツカー以外の何物でもない。ドライバーの乗車する空間を中心に、アルミ合金のフレームを箱形に組み上げるバスタブ構造というシャーシに、FRP(繊維強化プラスチック)の外装を装着している。車重は850kg。昨今の自動車は1.5トン以上のものも珍しくないということを考えると、非常に軽い。

動力は座席の後ろ、ミッドシップに搭載された305馬力のモーターだ。850kgの車体に305馬力の動力。このスペックを見ただけで、この車両が並外れた動力性能を持つことが分かる。

インテリアは素っ気ないぐらいに簡素。なにしろ電気自動車なので、トランスミッションもない。ペダルはアクセルとブレーキだけだ。荷物を積むスペースも皆無。つまりこの自動車は純粋に走るためだけに作られている。この時点での印象は、「セブンみたいだ」というもの。

革命的な自動車設計者のコーリン・チャップマンが1957年に発表したスポーツカー「ロータス・セブン」は簡素にして高性能を発揮したことから世界中で受け入れられ、元祖のロータスが1970年代に製造を終了した後も、英ケータハム社をはじめとして製造権を得た世界中のメーカーが改良を加えた発展型を製造し続けている(これらサードパーティー製の車両を総称して「セブン」と呼ばれている)。発表後60年を経て、今も新車が手に入る希有のスポーツカーだ。

セブンは、走るために必要な装備以外、何も付いていない。オーディオもなければエアコンもない。このトミーカイラZZも、走るための装備以外は何もついてない。車としての構造はずっと進歩しているが、セブンと共通した印象がある。

これは乗れるラジコンカーだ

スポーツカー特有の低く狭い運転席に体を押し込むと、まずは起動準備だ。といっても、まずセルスターターを回してエンジンを起動するというような操作は不要。電気自動車のトミーカイラZZは、メインスイッチを入れてダッシュボードにあるセレクトのつまみを「D(ドライブ)」に合わせるだけで走り出せる状態となる。

電気自動車なので、操作するのはハンドルとアクセルとブレーキだけ。SUVのような着座位置の視点が高い自動車に乗り慣れていると、あまりの視線の低さに戸惑うかも知れない。が、それでも運転は非常に簡単。ハンドルを切る、アクセルを踏む、ブレーキを踏む――それだけである。車体は大変がっちりできていて、ゆがみもたわみも感じない。ハンドリングもシャープで、切れば切っただけくるりと車体が回頭する。

試乗したのが雨上がりの都内だったので大人しく走ったのだが、それでも305馬力のモーターの威力は圧倒的。信号待ちから軽くアクセルを踏んだだけで、信じられないぐらいの加速度でダッシュする。電動モーターはエンジンと異なり、回転数ゼロからほぼ最大トルクが発生するという特徴を持つ。だから、トランスミッションも不要で、アクセルを踏めば踏んだだけ一気にモーターの回転数が上がり、加速する。

開発にあたっては、この「踏んだだけ加速する」感覚の実現にかなりのノウハウが必要だったそうだ。エンジンのような振動も排気音もない。聞こえるのはモーターの発するキューンというさほど大きくない音とタイヤのロードノイズだけだ。にもかかわらず、アクセルを踏み込むと、まさに異次元の加速度が全身にかかる。

アクセルを放すと、そのまま車体は惰性で走り続ける。これは通常の電気自動車と異なる。通常、電気自動車はアクセルを放すと、モーターに発生する起電力で運動エネルギーを電気エネルギーとして回収し、バッテリーに充電する。回生ブレーキという機能で、こうすることでエネルギー効率を上げて航続距離を伸ばすのだ。だから、アクセルを放すと車体がグッと減速し、ブレーキを踏んだのと同じ状態になる。

ところが、トミーカイラZZは自然な乗り味を優先し、回生ブレーキを採用していない。そのぶん航続距離は短くなるが、「乗って自然、乗って楽しい」という操縦感覚を優先したとのこと。ちなみに満充電時の航続距離は120km程度だという。

シャープなハンドリング、加速したければアクセル、減速したければブレーキ――この操縦感覚には覚えがある、と記憶を探る。ラジコンカーだ。電動ラジコンカーの感覚にかなり近い。ラジコンカーは実車よりもずっと軽いので、ハンドルを切るとスパッと曲がる。また、加減速も送信機のスティック1本で行う。

よく回る旋回性能、鋭い加減速、実用性ゼロの車体構成と、まさにトミーカイラZZは「乗るラジコンカー」というべき存在だ。そしてラジコンカーが楽しいように、トミーカイラZZも乗っていて楽しい。

米テスラ・モーターズの各モデルや、日産自動車の「リーフ」を初めとした市販の電気自動車もかなり一般化してきた。また、三菱自動車の「アウトランダーPHEV」やトヨタの「プリウスPHV」のようなモーターのみでも走行できるプラグイン・ハイブリッド車や、日産の「ノートe-POWER」のようにエンジンで発電し、電動モーターで走行するハイブリッド車も市販されている。だから遊園地の遊具やゴルフ場のカートなどに由来する「力のない弱々しい自動車」という電気自動車への先入観はずいぶん払拭されているのではないかと思う。電気自動車は決してパワーのない、弱々しい乗り物ではない。回転数ゼロから大トルクを発生する特性からすれば、むしろ非常に力強い乗り物なのだ。これまでは電池が重く、容量も足りなかったので、あまりパワーを食わない用途にしか使ってこなかっただけなのだ。

しかし、それでもこのようにして、電動モーターの特性をすべて「運転する楽しさ」に振り向けた車両に乗ってみると、電気自動車の可能性が単なる温室効果ガス排出削減や、省エネといった実用的価値にのみあるわけではないのがはっきりと分かる。

次の一手はラグジュアリー・スーパーカー

トミーカイラZZの価格は税込みで864万円。実際にはオプションとなる専用ボディーカバーやフロアマット、車載工具などが必要になるので一声1000万円と考えるべきだろう。

走って楽しいのは、箱根とか榛名とか六甲とかのワインディングロードだ。航続距離が短いので、その近辺の充電装置のある車庫に置いて、週末ごとに通っては走りを楽しむというのが現実的な使い方だろう。だから日本において、トミーカイラZZを十全に楽しめる環境を作れる人はさほど多くないはずだ。99台限定ということからも、メーカーのGLMとしてもトミーカイラZZが大量に売れるとは思っていないことが分かる。

それでもトミーカイラZZには大きな意義がある。電気自動車ベンチャーであるGLMが、自動車市場に参入するきっかけとなることだ。自動車産業は、世界的にメーカーがひしめき合う過酷な業界だ。そのなか、ベンチャーはまず目立ち、ブランドを確立しなくてはいけない。しかも、ブランドを確立する過程で、きちんと投資を回収し資本を蓄積し、次の車種に投資するという循環を回していく必要がある。

そのための最初の車種として、トミーカイラZZのような「徹底的に尖った特徴を持つスポーツカー」は最適なのである。世界市場全体を見回すと、お金持ちの自動車マニアは決して少なくない。マニアの嗜好に合致したスポーツカー、それも電動という極めて現代的な特徴を持つスポーツカーを出せば、少なくとも興味を示してくれる。

彼らは性能さえ良ければ価格を気にせず買ってくれるし、気に入れば口コミで宣伝もしてくれる。もちろん、各国の自動車ジャーナリズムも、半分は物珍しさであったとしても、取り上げてくれる。世界中の自動車への支出を惜しまない金満かつマニアックな顧客層にブランドが浸透すれば、トミーカイラZZは成功なのだ。ブランドが浸透すれば、次の一手を打つことでさらなる市場の攻略が可能になる。

次の一手――2017年4月18日、同社は第2弾の電気自動車「GLM G4」を国内初披露した。4人乗りながら、出力400kW(544馬力)のモーターを搭載し、最高速度は250km/h、1回の充電で400kmを走るラグジュアリー・スーパーカーだ。2019年に1台4000万円で販売を開始し、世界中に向けて1000台を販売するとしている。顧客となるのは世界中の金持ち自動車マニアと見て間違いない。日常的にフェラーリやランボルギーニを売買する層は世界にかなりの人数いるし、そんな人達にしてみれば4000万円は決して高くない。

すべて売れた場合の売り上げは400億円。成功すれば、GLMはがっちりと世界の自動車市場に食い込むことができるだろう。

このような市場参入の手法は、実はテスラ・モーターズがたどった道でもある。テスラはまず2008年にマニア向けの電動スポーツカー「テスラ・ロードスター」を販売して市場に参入した。テスラ・ロードスターの車体開発と製造にはロータス社が協力しており、部品の一部はロータス社のスポーツカー「ロータス・エリーゼ」から流用されている。このロードスターで市場におけるブランドを確立すると、テスラは次いで2009年に高級4ドアセダン「モデルS」、2012年に高級SUV「モデルX」を出してシェアを伸ばし、そして2016年にはより低価格のコンパクト・ラグジュアリー・セダン「モデル3」を発表した。

「最初にマニア向けの尖ったスポーツカー、次に高級車。ブランド浸透を進めつつ、徐々に安い価格帯のモデルを増やしていく」というのは、ベンチャーによる自動車市場攻略の黄金パターンなのである。

はたしてGLMは、世界市場に食い込んでいくことができるか。テスラのように大きく成長することができるか――トミー・カイラZZに乗った感触から言えば「イエス」だ。トミーカイラZZは、電気自動車の特徴を生かしつつ、スポーツカーとして大変真面目に作られている。しかし、自動車が売れるかどうかは性能だけでは決まらない。なによりもブランドイメージが物を言う。「GLMはすごい自動車を作る」というブランドを2020年に向けて構築できるかどうか。これからが正念場である。

松浦晋也
 ノンフィクション・ライター/科学技術ジャーナリスト。宇宙作家クラブ会員。1962年東京都出身。日経BP社の記者として、1988年~1992年に宇宙開発の取材に従事。その後フリーランスに。宇宙開発、情報・通信、科学技術などの分野で執筆活動を続けている。

[日経トレンディネット 2017年5月15日付の記事を再構成]

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