MONO TRENDY

私のモノ語り

野村萬斎 考える着回し、一度買ったら末代までの精神

2017/6/2

「これだけ豪華なキャスティングになるのは、脚本がすばらしいからですよ。やはりホン(脚本)に魅力がないと、役者は集まらないと思います。自分が演じた役についても、大きな充実感を覚えています。

撮影で印象に残っているモノは数珠。持道具さんが新品の数珠を用意してくださったんですが、狂言の数珠と大きさが違うし、握り方も違う。だから手になじませておかないといけないと思って、普段からずっと手に持っていました。

映画で手にしている数珠は、狂言の数珠とは大きさも握り方も違うという(c)2017「花戦さ」製作委員会

あとは、はさみ。花僧ですから、はさみは必須アイテム。撮影前から池坊会館の大会にも数回通い練習しました。本番では持道具さんが『専好』と書いてある僕用のハサミを用意してくれたので、それもまた、手になじませて。でも、それはそんなにたいしたことではなく、役者としての基本の作業ですけれどね(笑)。

京都の時代劇は、場を盛り上げるために、スタッフさんがみんなものすごくこだわってくれる。織田信長が専好に山のような花道具を下賜するシーンでは、花道具のすべてに、織田家の家紋が入っているんですよ。あんまり見事なので、『これ、どうやって作ったの?』と聞くと、ひみつがあるらしいんです(笑)。工夫することで、そんなにお金がかからない形でしっかりとした良いものを作っているんです。

花や花器、茶器などについても、みなさんこだわり抜いて作ったり、選んだりしている。それがあることで役者にとっては大きな助けになり役に入りやすくなりますし、そういうもの、ひとつひとつの存在感が、空間や作品に奥行きを与えていると思います」

「花、お茶、日本画…日本文化が無理なくすーっと入ってくる作品」と今回の映画について語る萬斎さん

■先祖代々の「一度買ったら末代まで」の精神

「作品にキャラクターという花を咲かせるのが役者」という萬斎さん。舞台に映画に花を咲かせて忙しいが、プライベートではどんな買い物をしているのか。

「最近、買ったものですか。昨日、ジャケットと靴を買いました。洋服は、オーダーメードもしますし、つるしでも買いますよ。選ぶときのポイントは着回しがきくもの。『今持っているあの服にも合うな』とか、ほかの組み合わせにも流用できるかどうかを考えます。着回しを考えるのは、コストパフォーマンスを気にしているわけではなく、買ったものを大事に使いたいからです。

狂言師の面や装束は『面・装束』といい、先祖から預かっているものです。次の世代に渡さなければならないもの。面・装束だけでなく、『一度買ったら、末代まで使う』という精神も受け継いでいます。

面だって、木の塊といえばそうだけど、それを使ってきた人間の魂、想いがそこに詰まっている。だから面を着けるときは『いただく』といって、必ず一礼してから着ける。装束は、またいではいけないと教えられた。そういう世界で育ってきたから、新しく買ったものでも同じように大切に扱っていく精神が身についたのかもしれませんね」

「花の魅力は、それぞれの個性を持って生きていること。それは人も同じ。それぞれに人生という花を咲かせる。役者は、舞台上でキャラクターという花を咲かせる存在です。そしてその役者の年齢によって、花も変わる」
野村萬斎
1966年生まれ、東京都出身。狂言師。人間国宝の祖父・故六世野村万蔵と父・万作に師事し、3歳で初舞台を踏む。97年にNHK連続テレビ小説『あぐり』に出演以降、映像でも活躍。主な映画は『乱』(85年)、『陰陽師』シリーズ(2001年・03年)、『のぼうの城』(12年)、『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』(16年)など。02年から世田谷パブリックシアターの芸術監督に就任、芸術の普及にも貢献している。

『花戦さ』

戦国時代、破天荒ないけばなで人々を魅了した花僧・池坊専好。親友の茶人・千利休を死に追いやられたことから、天下人となった豊臣秀吉に「花」で戦いを挑む。 脚本・森下佳子 監督・篠原哲雄 原作・鬼塚忠(『花戦さ』角川文庫刊) 出演・野村萬斎、市川猿之助、中井貴一、佐々木蔵之介、佐藤浩市 6月3日(土)全国ロードショー

(ライター 泊貴洋、写真 藤本和史)

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