日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/6/11

ところが1998年、ワンダーランドの建設は頓挫してしまう。土地をめぐる争いや、後ろ盾となっていた政治家が収賄容疑で逮捕される騒動に巻き込まれたのだ。2008年の北京オリンピックを控え、新たな資金源を調達して計画を復活させようという動きもあったが、結局失敗に終わった。2013年、全て解体して更地にすることが決まった。

ワンダーランドはすでに砂上の楼閣のごとく崩れ去ろうとしており、城の壁はタペストリーどころか落書きで埋め尽くされて廃墟と化していた。その頃には夢の王国から追い出された農民たちが続々と戻って来た。がらんどうになった建物の中を耕して種を蒔き、駐車場や入場ゲート、チケット売り場になるはずだった土地を明け渡すよう開発業者に迫った。

こうして再び現実世界が息を吹き返し、王国に住む怪獣たちの手からワンダーランドを取り戻したのだった。

廃墟となった観光リゾート「バローシャ」

中国のワンダーランドは、夢の世界が現実のものとなるまえについえた。一方、一度は世界屈指の高級リゾートとして名を馳せながら、戦火の影響で人影のないゴーストタウンとなり果てたのがバローシャだ。

バローシャ。美しい砂浜で知られる、キプロス最大のリゾート地だった。今は人影も消えて静まりかえっている(写真:Pablo)

キプロス東部・ファマグスタのバローシャ地区は1960年代、高級な高層ホテルがビーチに建ち並び、華やかで裕福なセレブリティの常連であふれていた。ブリジット・バルドー、リチャード・バートン、エリザベス・テーラーなど、スターたちのお気に入りはジョン・F・ケネディ通りのアルゴホテルだ。世界中から富豪や有名人が訪れ、バローシャの名は高級リゾートとして不動のものになった。

バローシャはキプロス島の都市ファマグスタに隣接している

ところが1974年の夏、以前から続いていた民族間の緊張が高まり、ギリシャの軍事政権が扇動したクーデターをきっかけにトルコ軍が介入、キプロス島の北部3分の1を占領した。バローシャを訪れていた観光客と4万人にのぼるギリシャ系住民は他地域に逃れた。

それから40年あまり、ビーチに立ち入るのはトルコ兵ぐらいのものだった。とげだらけのサボテンや雑草が道路を占領し、戦闘で破壊され廃墟と化した家々やリゾートマンションの壁を蔓草が覆い尽くした。

街は立ち入りが禁止されていたが、ゴーストタウンに潜り込んだ人たちもいた。彼らがそこで目にしたのは、クロゼットの中にぎっしりぶら下がっている1970年代風の華やかなドレスや、ショールームにずらりと並んだ錆びだらけの高級自動車だった。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[書籍『世界の果てのありえない場所』を再構成]

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